表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

五十話、存在の証明

シアーネ視点

「う、うぅ……」



 鈍い頭の痛みに呻くと、すぐ傍で柔らかな声がした。



「大丈夫かい、シアーネ」



 ラザリの声だ。

 “奪われた名”ではなく、確かにこの身に与えられた名を呼ぶ者。


 セレスタは柵ごと牢を破って逃げ出した。

 ……あの子に水の加護を使った。

 魔物から奪った能力。


 なのに、あの子はするりとかわし、反撃してきた。

 さらに水の加護を数発浮かせ、拘束した。


 そこに、薬剤の注射をラザリが打つ。

 昏睡する直前、床を踏んで、その破片でやられた。



「大丈夫。いや、困るなぁ……強すぎて」



 苦笑を浮かべながら額を抑える。



「けれど、竜って薬には弱いみたいで。今は、隣の牢に眠ってる。しばらくは……大丈夫」



 ――それを聞いた瞬間、脈が跳ねた。



「ラザリは、セレスタちゃんで遊んでて。

……僕は、姉弟一揃いで欲しいから」



 そう。

 あのイゼルファと“できた”のがセレスタなら、

 ノルとでも、できるはずだ。

 彼の中に、芽吹かせる。

 お腹を膨らませた彼が、苦しそうに僕の名を呼ぶところを、何度夢に見たか。


 証明する。

 “竜”としての、存在価値を。


 もう誰にも、抜け殻だなんて言わせない。

 僕だって、できるはずだ。

 落とし子のような失敗じゃない。

 ノルに“何も残さなかった”ことが、こんなにも悔しいなんて――昔は、知らなかった。



「でも……どう捕まえるんです? あの男。レイヴは――」


「うざいけど、ちょうどいい。リデルにでも任せるよ。あいつ、構ってくれるなら、すぐ飛びつくし」



 エスコートするのは、僕だ。

 失敗作の“落とし子”たちに、ノルを……触れさせない。



「ただ……リリエルの扇動がまだ完全ではない。

あまり目立たずに、お願いしますよ」


「わかってるってば!」



 ラザリが去った後――

 沈黙が降りた。

 僕はひとり、地下の手術台を見下ろす。


 ――銀のチューブに貫かれた身体。


 胎だけ異様に膨れ上がった、白と黒の混ざった竜の屍体。

 あれは、イゼルファ。

 だったもの。

 セレスタ誕生してからもう一度ノルとも育もうとした。

 その姉、イゼルファに見つかり、争いになった。



 ――だが、勝った。



 イグニスの竜が来る前に、この死体をどうにか持ってきて、封竜の環を発動させた。

 多少骨は折れたが、この優秀な研究員のおかげでどうにか竜の身体を手に入れた。

 ラザリと双子はこの竜の肉のどこかを食らった。

 大昔から魔物がしたように。

 それのおかげで加護を手に入れたらしい。

 魔物のように。


 あの時は嬉々として一晩語っていた。

 ただ、まだ完全ではないのが歯痒かったらしい。


 気持ちはわかる。


 僕も彼とは別のことを試した。

 その腹から産まれたのは、未熟で、人か魔かもわからない、落とし子たちばかり。


 ――でも、セレスタだけは綺麗だった。


 どうして?

 ……違う。僕が悪いんじゃない。

 “種”がないから? そんなの、ただの言い訳。

 いや、あるはずだ。


 本気で、僕が抱けば――


 あの時、壊れたままじゃなく、“愛”を残せたら。

 僕に“種”がないせいだなんて、誰にも言わせない。

 僕は成功する。

 僕なら、ちゃんと産ませられる。

 ボクは存在しているのだから。

 姉のイゼルファにはできたんだ。二人も。

 ノルはきっと、僕の子を……。



「……ねぇ、ノル。壊れるまで、産んでみようか? このお姉さんみたいにさ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ