四十六話、文化財と、お人形
特別顧問官の頭を抱いていた。
バリストンが公では珍しく表情を出す。
不愉快そう。
おそらく奴も意表を突かれている。
まずいな。
こっちの歩調を乱されるのは……。
「俺の周囲には『毒を盛られる』率が高いので」
やけにニヤニヤしている。
リデルとやらがびくりと反応した。
……杞憂だったみたいだな。
こいつもそうだったな。
歩調を乱すタイプ。
むしろ向こうの反応を楽しんでいる。
青年の反応……。
この青年が毒――薬を盛った可能性が出た。
「さ、リデル。失礼をしてはいけない。――こちらに座りなさい」
頷いてあっさり従う。
犬みたいだ。
ふう、と息を吐いて私から口を開く。
「して、文化財は捜索していただけたのでしょうか?」
「ええ。しかし、依然捜索は難航しております」
建前か否か。
やっている証拠さえないが……
一応報告してくれる。
しかしーー
「文化財? あの子のこと? 昨日“泣いてた”の。ぐすぐすって……でも、“いまは元気だから大丈夫”って、ラザリが言ってたよ? ね? ラザリ。あの後すぐ寝かせたけど……」
何?
あの子?
隣を見やると左手で拳を握っている。
いや、ラザリ――フォルシュトナーも唖然としている。
そもそもこの青年、見た目に反して幼い感じだ。
どこか、ズレている。
先程会ったリリエルという少女のように。
些か容姿も似ている気がする。
どちらにしろ青年をつけば、自ずとボロを出すか。
まるで幼子に尋ねるように、私は質問した。
「そうか。あなたの言う、あの子とは?」
「え? “白いお人形”のことだよ。かわいいから、ボクたちの中で人気なの」
お人形……。
人としてさえ扱っていない、と言うことか。
腹が立つ。
隣の男がやったことと同じか。
この怒りを八つ当たりのように、踏みつける。
今回はチラッとこちらを見た。
――その目はどう言いたい?
「こら。雑談はやめなさい。お人形さんのことじゃないよ」
ラザリが諭す。
私たちが暗にセレスタのことを文化財だと伝えたが、それと彼の言う人形は別だと言い繕いたいのか。
「その方の言ってる子が探している者かもしれないのですが……」
「制御できてないのでしょう?」




