四十五話、整然の檻、混乱の呼び鈴
扉は音もなく開く。
初日とは違う部屋。
中に広がるのは、無駄を排した直線的な空間。
壁は光沢を帯びた金属製。
室内の中央には長方形の交渉机。
艶やかな黒木の板に、帝国紋章が片端に浮かぶように彫られていた。
対面式の椅子は無骨で、座り心地は良くない。
――だが、それが「交渉の場」の顔であるとも言える。
天井から下がる魔導灯が静かに光を落とす。色は帝国らしく、冷たい青白。
(ここもまた、“整いすぎている”)
花も絵もなく、香の一つすら焚かれていない。
装飾は排除され、言葉と論理だけが支配する空間。
あの人形みたいな子のせいで乱されたが……。
……ある意味、気が引き締まる。
もう一人の変なヤツも後から来た。
「ヴェラノラ……なんかやつれた?」
「……おまえのせいでな」
眉を顰めた。
そお? とでもいいたげだ。
ルミナリアの件、どうするつもりなのだろうか。
黒、など。
おまえくらいだぞ。
緊張感無く、ゆったりと椅子に座っている。
全部顧問官に任せて私は無言に徹するか?
この前の帝王のように――
そうだ。
あまりにも発言していなかった。
私が思案していると、二人入ってきた。
ん?
帝王ではない?
フォルシュトナーと……。
「失礼、本日はこのリデルが同席します。帝王は別の件がありましてーーこちらの彼も是非とのことでーー」
「あ、黒い竜様?!!」
フォルシュトナーがいい終わるか否か。
バリストンに抱きついた。
「は?」
特別顧問官と私の声が不覚にも重なる。
帝国の外交官の目がすっと細まるのをみた。
このおかしな者を連れてきたのは――わざとか?
「え? 昨夜ボクと一緒に散歩したよね?」
「知りません。離れてください」




