四十三話、蛇の夢、終わらない観察
ラザリ(フォルシュトナー)視点
「ありがとうございます」
「いいよ」
ひらりと手を振る。協力者ーーシアーネ。
白い髪。
この国では珍しい、赤の瞳。
普段はサングラスで隠しているその目も珍しく、外していた。
その後にリリエルが続いて入ってきた。
「ラザリ様! わたくし、ちゃんとこいつ連れてきましたわ。ね、撫でて褒めてください」
「はいはい」
――観察こそ、愛だ。
人を見ていれば、自ずと好みがわかる。
欲しいもの、美味しいものを食べたときの視線。
その動き。その感情。
観て、わかる。
愛がなければ、こんなことには耐えられない。
だからきっと、観察というものも――愛情から成り立っている。
観察が終わった時、それは“愛”の終わりだ。
実験体たち。
落とし子たち。
観察のおかげで、今では何万体にもなった。
けれど、どうしても“竜”にはならない。
加護も授かれない。
何万体作ろうが、何万回繰り返そうが――“竜”には届かない。
手に入らない夢は、いつまでも目の前にぶら下がっている。まるで、それこそが目的であると錯覚するほどに。
わからないものに関する観察だけは、終わりを告げない。
……だから、やめられない。
終わらせられない。
セレスタさんにも、協力してもらわないと。
まずは、この帝国を“加護付き”の者だけにして、世界へ威を示す。
そのために、リリエルは使い捨てにせず、手元に置いている。彼女の持つ、実験体たちを統率する能力――素晴らしい。
統率に感情はいらない。
ただ秩序があればいい。
――と言っても、もう彼女の“観察”は終わっている。
今はただ、機嫌取りだけ。
役目は終えた。
でも、付き合いは切らない。
そして今は、シアーネという素晴らしい協力者もいる。
竜になれるのに、まだ追い求めるという。
不完全だからこそ、だと。
名もなかったらしい。
だから私が名付けた。
お互いの理想を夢見て。
しかし。
蛇のように、近くて遠い。
ルミナリアが反応しない以上……。
――“本物”ではない。
けれど、それが美しい。
完璧じゃないからこそ、観察の価値がある。
もう一人、シアーネの子はいる。
……あの子の観察も尽きないが、レイヴのようにするりと躱される。
困ったものだ。
協力もしてくれまい。
いずれにしても、まずは、イグニス王国からの使者――女王と顧問官。
顧問官さんに関しても、興味深い観察対象だ。
口を滑らせてくれるのが一番だが、元々やりづらい人物。
ほぼ確定で、黒の主。
無理なら、別の方法もある。
しかし、あちらは、シアーネが欲しい人。
シアーネに任せるのも手だ。
二人して、お互いの夢に触れるまで。
その瞬間が、
“観察”という物語の結末になることを――少しだけ、期待している。




