表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/52

三十五話、君を父とは呼ばせない【バリストン視点】


 葡萄をひと房頂戴して、そのままパーティ会場を抜けた。ヴェラノラに何か言われたら適当に言い訳しておこう。




 その前に。



 やつだ。


 あの白髪の……人の形をしたもの。


 パーティの喧騒を抜けた先。

 庭が見える吹き抜けの回廊。

 窓から欠けた月が見えた。

 しかし、魔石灯の光で月明かりはここまで届かなかった。




「僕を追いかけてくれたんだろう?」




 壁に寄りかかっていた。

 帝国に潜んでいたとは…。



「――……!」



 怒りか。

 驚きか。

 喉から声が出ない。



 姉を奪って壊した。

 子を捨てた。

 俺を陵辱した。


 竜――の紛い物。


 その毒牙があの子に及ばないようにしていたが、とうとうか。



「なんだ?違うのか…あ、あの子のことかな?」


「……」



 心が、軋む。


 まだ、大丈夫だろうか。

 生きているのか。

 何もされてないのか。


 ……俺は、間に合うだろうか。



「いやあ、大きくなったよね!」


「おまえが、……育てたつもりか?」



 案外声は震えていなかった。



「え? まあ、実質的にはそうかな?」


「捨てたくせに、よくもーー」


「壊そうとしたのは君だろ? 色々聞いてるよ」


「――っ」



 喉が焼けたように、声が出なかった。

 あの頃のあの子の姿が、ふとよぎる。

 剣を教えた日。

 檻を与えた日。



 勝手に……――


 ……思い出してはいけない。

 否定しないと、殻にひび割れた音が聞こえた気がした。



「かわいそうだから、拾った。ま、攫ったのはリデルくんか…でも偶然だけどね。運命かんじるよ!君も欲しいな!また、ね?」


「父親のくせに、この、抜け殻が……」



 震えかける。


 ちょうど“封竜の環”を書いた胸が痛い。

 頭も痛くなる。

 こいつの口車に乗っちゃいけないな。

 とは言っても、煽ってくれるおかげで多少マシになる。



「はあ? 抜け殻…? 僕にはイゼルファという名前があるんだけど」



 少々声を荒げる抜け殻。

「ああそれかシアーネね?」と続ける。


 ふ、と内心ほくそ笑む。


 竜じゃないが、勝手に竜だと思ってるもの。

 更に怒りを助長させたら、居場所でも吐いてくれるだろうか?



「名前も、……奪ったものだろう」



 イゼルファという名前。



 ――姉から。



 シアーネという名前は知らないが、どちらにしろ奪ったか、勝手に自分で名付けたのだろう。



「おまえには何もない」


「……」



 終わったな。

 と思ったら、こちらの腰を抱き、引き寄せた。



「じゃあ、君が埋めてよ」


「――っ」



 咄嗟に黒炎の剣を作り、ふるう。

 寸前で躱される。



「危なー。そんなことしても、あの子を渡す気はないからね。もう、……僕のもの。帝国のものだ。

 でも、君も僕のものになれば、あの子にも会わせてあげるよ? ね、優しいだろ?」



 楽しそうに闇へと消えた。




 はあ。

 疲れた……。



 パチンと指を鳴らす。



 途端、黒蝶が舞い始めた。

 ラザリに伝えた旅云々は本心。

 これで今の俺の姿は誰も見れない。



 しゃがみこむ。


 まずは、明日の外交か。

 どうせラザリだろう。

 適当に詰めさえしたら、ボロくらい出るだろう。


 あとは、帝王を説得するのが一番か。

 出版系の知り合いにも小細工をお願いしたし、問題ないだろ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ