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二十九話、空白の器

ラザリ(フォルシュトナー)視点


「オレには不要だ」



 そう言って、彼はカウンターの上の薬瓶を指で弾いた。

 軽い音が空気を裂き、そのまま沈黙が落ちる。


 私はしばらく、その指先を見つめていた。


 年相応の幼さ。

 けれど、そこには熱も、欲も、怯えすらない。

 拒絶の声も態度も、冷え切っている。

 リデルやリリエルとは違う。


 ——空洞。


 飾られた“愛玩”でいるつもりはないのだろう。

 私が作り出した器は、見事なまでに空っぽだった。


 喜びも、恐怖も、希望すらも持たない。

 まるでこの世のどこにも、自分の居場所などないと知っているかのように。

 ……そこが良い。

 私の言葉に反応しないのならば、それは私の責任ではない。

 その静寂に、ただ私だけが意味を与えるのだ。


 いずれ“竜”を見つけたとき、最初に牙を向けるのはこの子だろう。


 ……それが一番、面白い。



「そういえば――」



 思い出したように口を開く。

 その声には、初めの一音から見下しと侮蔑の熱が含まれていた。



「昨日も“父親ごっこ”をしたがる奴がいたな」



 竜に執着し、どこかで拾った白い死骸を抱いて育児の真似事をしていた。

 だが結局、子に牙を剥かれ、薬液槽に沈めていた。



「あの人はあの人で、理想を追い求めているからね」



 私も理解はある。

 同じ夢を追う、協力者だ。


 彼ほど私を理解してくれる者も、そういないだろう。

 しかし、この青年は彼の名を一度も呼ばなかった。

 同じ遺伝子を持つというのに。

 同族嫌悪、というやつだろうか。



「興味ない」



 そう言って、彼はカウンターの上の薬瓶を指で弾いて、廊下に出る。冷たい金属の床に、薬瓶からこぼれた液が一滴、垂れた。


 ――王国側を、どう料理してやろうか。


 彼の背を見ながら、私はそれだけを考えていた。



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