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二話、迷いの果てに、花は燃ゆ


 その場からすぐに宿街を抜け、馴染みのギルド兼宿泊施設へと足を向けた。


 ……休暇。


 確かにそう言って、ここへ来た。

 だが、果たしてこれは“休み”なのだろうか。

 足は勝手にこの地を選び、視線は、見たくもないものばかりを追っている。


 二年前、全てを知った。

 “竜は伝説ではなく、実在する”。

 “我らの国は、その愛と力によって今も支えられている”。


 ――ならば。

 私はどこまで、真実と向き合う覚悟があるのだろうか。

 己の力不足、知識不足を恥じた。

 ここに来たのは昔の感覚を思い出すという思いもある。

 または、現実逃避、か。


 相手が竜だとしても、何もできず、倒れたままだったのだ。


 齢50。

 老いたとしても、引けをとるつもりはない。



 ……と思っていたが……難しいものか?

 男児なるもの。

 戦って負ける悔しさはまだあるらしい。


 自嘲してしまう。

 そして、外交でもどこから噂を聞きつけたのか、やたらめったら竜に関しての交渉が多くなった。

 様々な意味で私はこの地を訪れていた。

 正直、どの理由が本当かも、もはやわからない。




 だが――

 ルミナリアの“あの色”を見た今、もはや迷う理由もない。


 ……強い者ほど、壊れやすい。

 それを私は、何度も見てきた。

 強さとは、力ではない。

 誰かの願いを背負い、誰かの痛みを引き受け、それでも前に進むことだ。


 だが、背負った重さに気づくのが遅すぎると――


 気づいた時にはもう、引き返せなくなっている。


 自分の心を殺してしまった者たちを、私は何人も知っている。



 ――と言っても、私を容易く退けた愛らしい竜は今現在案外デレデレに溶けているから……



 良い出来事であった。

 良い壁を乗り越えた、そう思えばいいのかもしれない。


 まだ地に足がついてないような、成長の伸び代を感じているところでもある。



(…なんだか私は孫を見ている気になるな)



 やはり歳か。

 そう思って歩いていると――



「……ヴァルディス様!? お久しぶりです!」



 聞き覚えのある声に足を止める。

 ギルドの前を通り過ぎるところだった。


 ……やはり歳か?


 いや、ギルドさえ、随分と豪華に建て替えられているから、見過ごしかけた。

 ……と思いたい。



「やあ、いつぶりかな?」


「五年あたりでしょうか。今日は……お一人ですか?」


「ええ、まあ……休暇ということでね」


「休暇! 宰相閣下が、ですか!? それはそれは……」



 目を丸くして大げさに驚かれる。

 そんなに珍しいか? と思いつつも、事実珍しいのだから仕方がない。



「まあ、形の上では、だよ。ところで、宿の空きはあるかな? ひとつ話もしたいことがある」


「あ、もちろんです。中へどうぞ。実は、少し気になることもありまして……」



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