二十四話、黒の報せと、斑の光
監禁生活三日目。
ジャー、と流れていく水を眺める。
しばらくして、便器が語る。
『ありがとうございます。出した分だけ、人生は軽くなります』
「そうだといいのですが……」
『では、いってらっしゃいませ』
「あ、ありがとう」
……どこにも行けないんだけど。
魔道便器でしかお喋りできないなんて……。
埋め込まれている映晶導器をつける。
ドラマとかアニメという物語が流行ってるらしい。
途中のものばかりだから、時事を見てみる。
――『どうやら、黒い蝶やルミナリアが影響しているのではと専門家の見解です』
……黒?
映像を見ると、確かに黒だ。
白もあって、そこだけ色がなくなったみたい。
黒なんて……。
あの時しか見てない。
堕ちていく前の、漆黒の苑。
あの時、確かに叔父様は……何か呼んでいた。
声は聞こえなかった。
ただ、あの口の動きだけが見えた。
レイじゃなくて。
――セレスタ、と。
確かに。
なんで?
ずっとレイとしか見ることも呼ぶこともなかったのに。
とにかく、あの黒いルミナリアが”竜の背骨”辺りにも色変わりしているということは、まだ生きてた、ってこと?
映像の中の黒が私の胸を掻きたてる。
震えはしなかった。
レイを作ったのは、私を守るための可能性が出てきたから。
まだ、もしかして……という私の予想。
リデルは言葉にして伝えてきた。
それとほぼ同じであれば……。
コンコン。と、ノックがした。
我に返り、「ど、どうぞ」と恐る恐る応対する。
リデルは私に許可なく扉を開く。
違う人だ。
ぎゅっとスカートの裾を握る。
「あら、初めまして、セレスタちゃん? ああ、わたくしはリリエルよろしくね」
「あ。」
リデルに似てるけど。
やっぱり違う。
ふわりとカーテシーをする金髪の少女。
薄い青空の瞳が綺麗な子。
「ねえ、こんなところいてもつまんないでしょう? わたくしが帝都を案内してあげる」
「……え?」
「さ。行きましょ」
「で、でも……」
――拘束が発動してしまう。
「大丈夫。わたくしがスペアキーを持ってきたので」
そういって小さなリモコンを取り出す。
ピと電子音がした。
リボンは取れてないけど。
「さ、行きましょ」
手を引かれた。
不安があるけど、受け身を準備しておく。
意を決して扉の外へ――