二十三話、帝国、敵は便器
「……はあ」
これはほとんど監禁だ。
あまりイグニス王国を出たことがない。
気にならない、といえば嘘になる。
(せめて、アッシュ様と旅行だったらなあ……)
……部屋散策でもしようかな。
まずお風呂。
「広い……」
外が見渡せる大きな窓。
浴槽も陶器でスイッチを押せばお湯がたまる仕組みらしい。
試しにおしてみた。
『お湯張りをします』
「!?? はえ? お、お願いします……」
なんか喋った……。
と同時に暖かいお湯が流れ始める。
びっくりした。
でも、ガラス張りだから、アッシュ様と来てたら絶対楽しい。
そんな妄想ではぐらかす。
「……はぁ」
すっと逃げるように戸を閉めた。
今度はここ、と扉を開いた個室。
イグニス特有の洗浄座じゃない。
それ用だと思うけど……形もそうだし。
まさか。これも自動式なのかな……?
『ごきげんよう、お客様。排泄・排水のご予定でしょうか?』
「ふぇ!? 怖い」
『申し訳ございません。音声の調節をいたしましょうか? こちらの――」
洗浄座も喋る……。
自動、怖い……。
敵は喋る便器かも。
疲れた。
彼女との妄想でも、はぐらかせることはできない。慣れない異国は大変だ。
――アッシュ様タスケテ……。
そうして、初めての自動に疲れた私は窓から外を眺めた。
高い建物ばかり。
下を見ると、馬車じゃない――何かが走ってる。
イグニス王国は魔法(加護)があるから特に必要としないけど、他所は必要なんだなあ。
と、改めて思う。
それはそれとして、どうしよう……。
これじゃあ、あの頃と同じ。
もっとひどいかも。
――『君は可愛くて儚げですぐに壊れそうだから』
――『……外は絶対危ないよ』
――『外に出て行ったら絶対傷付いちゃう……!』
私、意外と力強いんだけどな。
……ん?
もしかして、叔父様もこういう理由?
こういう理由でセレスタとしては外へ出さなくって、レイとして出してた……?
いや。
でも力強いの知ってるし……。
それはないかなあ。
レイに対しては凄かったし。
でもセレスタとしての私には……目もあわせてくれなかった。
そんなこと。
もう本人には聞くことなんて叶わない。
トイレに関しての説明はこちら▶︎ https://note.com/fire_thyme7838/n/n732f59c31d57?sub_rt=share_b