表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/52

二十話、こいつと一緒に外交とか、無理


 同時に、部屋のルミナリアが。

 ――黒と白に包まれる。


 右腕はない。

 黒髪の男が、左手だけでローブの裾を摘まみ、優雅にカーテシーをして見せる。



「お久しぶりです」



 ……やけに優雅なのが、腹立たしい。



(……来たか)



 ――ノル・バリストン。

 セレスタを“レイ”という名の檻に閉じ込め、竜へと変えた張本人。


 生きていたとは。

 ……しぶとい。

 掌に、思わず焔が灯りかける。



 ――が、理性が勝った。

 むしろ、頭を抱える羽目に。



 おそらくこいつを説得したであろうヴァルディスも、微妙に困ったような顔。

 唯一、二年前の真相を知らぬ兄上だけが、いつも通り朗らかに挨拶を返した。



「おー、息災だったか、ノル」


「ええ。お久しぶりです、殿下」



 調子がいい。……実にいい。

 忘れているわけではないだろう、セレスタにした数々を。

 兄上への挨拶を済ませた彼は、私とヴァルディスを見回す。



「どうも、二年ぶりですね。……で、レイは?」



 返事はしない。

 私が沈黙を保つと、彼はため息をつき、今度はヴァルディスに視線を向けた。



「はあ……ヴァルディス様。公務の手伝いと聞いてましたけど、俺、何すればいいんです?」


「率直に申し上げます。セレスタ嬢が、恐らく――帝国の外交団によって攫われました。

 陛下と共に追っていただきたいのです。……“特別顧問官”として」


「……は?」



 目を丸くしてヴァルディスを見る。

 知らなかったのか……?



(よく、この男を動かせたな……)



 どうやってこの男を動かしたのか、ヴァルディスの手腕が気になるところ。

 聞くか否かしていると、向こうがぐちぐち文句を言い出す。



「は?……俺のレイが攫われた? ヴェラノラに任せたのに? ――このザマか」


「……ぐぬ」



 否定は、できない。

 悔しいが、こいつの言葉は真実だった。

 更に突き詰められるかと思ったが、ヤツの口から出てきた言葉は予想外のことだった。



「ちょっと空気吸ってくる……レイの部屋、どこ?」


「は?」



 私とヴァルディスの声が重なる。



「いや、久しぶりだしさ……匂いだけでも嗅げたら、少し落ち着けるかと思って、ね?」


「ね? じゃない!!!」



 ヤツがやれやれと左手を宙に浮かす。

 やれやれなのはこちらの方だ。

 さすがに堪忍袋が破れかける。

 ヴァルディスに詰め寄る。



「“清濁併せ吞む”と言ったが、こいつ、濁りすぎでは!?」


「何を言ってる、ヴェラノラ。俺は清い方だろ?」


「わ、我も清い方だよな……? なあ、ヴァルディス」



 三方向から詰め寄られるヴァルディス。

 さすがに胃が死ぬ音が聞こえそうだ。



「……まずは、落ち着いてください。アッシュ様、こちらを」


「……?」



 手渡されたのは、見慣れぬスイッチのような物体。



「これは、バリストンに装着した自爆装置です。

……暴走時は“ドカン”と、どうぞ」


「……レイに渡しておけよ」


「うるさい。変なことしたら即押すぞ」



 兄上の隣にバリストンがすとんと座る。

 これから、こいつと共に外交の旅か……。



「アッシュ様、よろしいでしょうか?」


「……ああ。私とこいつが出る。国内は、ヴァルディスと兄上。――それが、一番“安全”だ。……国内は」


「留守は任せてください。……どうにか、兄上の手綱を握っておきます」



(手綱……。切れそうだが)



 私も、こいつという危険物の“手綱”を握らなければならない。



「それと、今回は船をご用意しました。

数日はかかりますし、先に交渉の文書を送っておけば、現地に着く頃には調整も整っているかと」


「……何から何まで、本当にありがとう」



ノルは一幕の元ラスボスですが、その後の話はこちらにて▶︎ https://note.com/fire_thyme7838/n/n92102e62234c?sub_rt=share_b

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ