一話、竜の国と風の老獅子【ヴァルディス視点】
炎と竜の王国――イグニス王国。
竜と共に歴史を刻んできたこの国は、赤き髪が象徴。
赤髪は“竜の祝福”の証。
かつて、竜は人々を守るために加護を授けた。
それは“魔”を祓い、“奇跡”をもたらす力――
今では“魔法”と呼ばれている。
竜を守るために人は加護を得た。
竜もまた、守ってくれる者のために力を与えた。
王家に継がれてきた“黄金の焱”は、その深き絆の証だ。
二年前、王都で起きかけた内乱。
あれがなければ、すべて知ることはなかっただろう。
……かくいう私も、赤髪のひとり。
加護は“風”。竜の血統ではないが、王家に仕える者としては妥当なものだ。
その私が今、王命ではなく“自らの意志”でここに立っている。
イグニスと帝国を繋ぐ険しい山道。
その先に、国境ギルドと小さな宿場町があった。
陸路の旅が厳しすぎるこの国では、“雰囲気だけでも味わいたい”という他国民向けに作られた観光ホテルがある。
他国の魔導技術が使われた設備も多い。
……懐かしい。
かつて私が加護をふんだんに使って戦った場所。
他国に加護はない。だからこそ、私のような者が必要とされた。
今では彼らも、魔導銃を開発し、戦力は補えるようになってきているという。
久々の訪問。
ここまで自動化が進んでいるとは。
技術は素晴らしいが、どこか“無理をしている”ようにも感じる。
加護さえあれば、こんなもの……とは、傲慢か。
――『――こちらは帝都通信。竜の背骨付近で、新たな遺跡が発見されました――』
――『専門家によれば、“最近作られたような形跡”も見受けられ……』
足が止まる。
映晶導器。
魔石を使って映像と音を遠くまで届ける装置。
数台並んだそれが、街頭に向けて情報を流している。
天気、事件、事故、娯楽。
あらゆるものが、この“魔道の箱”から流れてくる。
――『……魔物の出没も激しくなっています。近隣住民の方は、夜の外出に十分ご注意ください――』
そのとき、液晶の中に一瞬だけ映り込んだ、ルミナリアの花畑。
「……まさか」