十六話、【リデルの観察日記】〈帝国外交団所属/個人記録〉
※本記録は帝国外交団従者リデルによる個人観察記録です。
女王に会いたくはない。
だって、婚約申込したのに、拒否されちゃって。
でも、正解だったな。
竜じゃないらしいから。
だから、ラザリにお願いして城内と外国人でも入れるエリアで時間を潰す。
ボクだけはただの旅行になっちゃった。
◆1日目
……誰?
ルミナリアの合間から、銀が見えた。
人影。
あんなに美しい背中、見たことない。清潔な白銀、風に溶けそうな立ち姿。振り返らなくてもわかる。美しいに決まってる。
妖精さんみたいなあの子を追っていく。
部屋に入ってしばらくすると別の――いやあの子だ。
キョロキョロしてから、青い炎に包まれる。
そして、男性の姿になっていた。
性別?……どっちでもいい。
あの子なら、どちらでも。可愛い。
帝国の記録にない。イグニスの騎士? それとも秘蔵の宝物?
なんで今まで見せてくれなかったの……!
◆2日目
朝の訓練場。
いた。やっぱり騎士だ。
そうだ!
女王の影に隠れてわかんなかったけど、横にいた騎士だ。
強そうじゃない。けど、柔らかくて、しなやか。
剣の動きに迷いがないのに、どこか儚い。
その体に、ボクの印を刻みたくなるほどに。
でも、お茶の時間になると、すっと姿が見えなくなる。
どこへ行くの?
城の構造、まだ全部把握できてない。焦る。
◆3日目
午前。
花畑。あの子はルミナリアの手入れをしていた。
陽の下に浮かぶ銀。蒼いルミナリアに囲まれて、あの子はまるで絵画だった。
ずっと見ていられる。……でも、距離がある。
午後。
偶然、目が合った(気がした)。
心臓が爆ぜる音がした。
◎記録
・身長:約178cm前後(推定)
・体格:細身、だが剣筋に芯あり
・目の色:未確認(至近距離要確認)
・日中の行動:庭園/訓練場/不明時間あり
◆4日目
進展なし。これは由々しき事態。
城の従者に女の子の名前とかをさりげなく聞いてみたけど、「お名前は私も……」って。なんで!?
この国の情報管理どうなってるの!?
名前、声、視線。
何一つもらえてない。
焦燥。焦燥。焦燥。
追記:騎士の方はわかった!!!!
レイ・バリストンだって!
かっこいい!
レイ様。レイ様。
でも、女の子の時の名前はわからない。同じかな?
◆最終日
朝。
やるしかない。
用意した。香りの良い帝国茶。帝国風の菓子。魔石の加熱で温度管理も完璧。
そして。
睡眠薬。ほんの少し。
このまま一言も話せずに終わるくらいなら。夢の中でもいいから、あの子を独占したい。
「お茶……一緒に、いかがですか?」
不安そうに頷いた。それも儚げで美しい。
ちゃんと客室に来てくれた。
外交中。王族の親戚かもしれないこの子。だから、あの子には拒否はできない。ボクはわかってた。
ようやく、名前を聞いた。
「セレスタ、です」
可愛い。
セレスタって名前なんだ。
名前も可愛いなんて。
と、微笑んで差し出す。
これは害じゃない。
……ただ、休んでもらうだけ。
だって、ボクが悪いことするわけないし。
あの子の喉が小さく動いた。
今、世界で一番美しい仕草。
――ありがとう、イグニス王国。
最高の贈り物。
最高のお土産だ。
この子にぴったりの檻のような部屋、用意しないと。
ア。ラザリがいつもボクが”お嫁さん”連れて来るからもう用意されてるかも!