十一話、好きですってもう一度
その夜――陛下の寝室に転がり込んだ。
静かな夜だった。
焔の王都に、夜の帳が降りる。
けれどこの部屋だけは、どこかあたたかかった。
ゆったりとした時間が流れる中、私は女王――アッシュ様の隣に寝転がっていた。
膝に頭を預けて、横向きの姿勢で。
目を閉じるのが惜しくて、私はちらちらと彼女を見上げる。
「……どうだった?」
彼女の手が、銀の髪に触れた。
そっと撫でられる感触に、思わず目を細めてしまう。
でも、ちゃんと報告しなきゃ。
「はい。……ヴァルセリアス殿下との手合わせ。終わりました」
「ふふ、それは知ってる。で、勝てた?」
ちょっと意地悪な声音だった。
私は唇を尖らせて、でもすぐにふっと笑ってしまう。
「……負けました」
「正直ね」
「はい。でも、殿下は……“よくぞ食らいついた”って、言ってくださいました」
頭の奥に残るのは、あの言葉。
――『我が妹の、かわいい“竜”よ』
優しくて、あたたかかった。
それは炎じゃなくて、雷でもなくて。
ただの“人”としてのぬくもりだった。
「ヴァルセリアス様……気づいてました。私のこと」
小さな声だった。
けれど彼女は、止めていた手をまた動かし、髪を梳く。
「気づいてた、か。あの人なら……まあ、あり得るな」
さらりと言うその声が、あたたかい。
私の全部を知っていて、赦してくれる声だ。
「怒られなくて、ほっとしました。……知られて、嫌われたらどうしようって思ってたんです」
「ふふ。そういう顔、してなかったけど?」
「だって……陛下の前では、かっこいい騎士でいたいんです」
そう言ったら、彼女は小さく笑った。
頬に落ちてきたキスが、くすぐる。
「かっこよかったよ。すごく、ね」
「……ありがとうございます」
そのまま、私は目を閉じた。
撫でられる心地よさと、肌を撫でる彼女の香り。
寝息に溶けそうになる意識の中。
ふと、言いたくなったことがあった。
「……アッシュ様」
「ん?」
「今日、殿下に言われたんです。“我が妹の、かわいい竜”って」
彼女の手が止まる。
でも、私は続けた。
「それ、……陛下が先に言ってくれたから、私、怖くなかったんです」
少しだけ、身体を起こす。
見上げたその瞳に、ほんの少し潤みがあったのは、内緒。
「私、やっぱり陛下が好きです」
「……ん」
それはもう、何度も伝えた気がする。
でも、この夜に言いたくて。
きっと、この瞬間にしか言えない言葉だったから。
ヴェラノラ様がそっと私を抱きしめてくれる。
私はそれに身を委ねながら、小さく囁いた。
「ふにゃ……また、撫でてください」
「ずっと撫でてるのに、まだ?」
「……ずっと撫でてほしいんです」
ふふ。と笑うアッシュ様。
それにつられて私も笑った。
叔父様に関しての相談はできなかった。
それでも一つ確かなことはある。
私は――
明日も、明後日も。
ずっと陛下の隣で戦います。