表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠くの花屋  作者: あ行
1/39

1はな

ゆっくりペースで進みます。

「こんにちは。花屋(はなや)さん。」

 ジョウロで花に水をあげていた手が止まる。そして花屋はこちらを向いた。

「こんにちは。」

 笑顔で答えてくれた。昼日が眩しい。

花屋(はなや)さん。」

 藍色の着物姿で私を見る。

「何ですか。」

「今日の調子はどうですか。」

 花屋は霞色の空に眼を写す。私より背が高いから、花屋さんの方が空に近い。少しずるい。

「今日ですか。今日は桜が綺麗ですね。」

「違います。私は花屋さんの事を聞いてるんです。」

 ムッと口をへの字にし怒る。花屋さんは困り眉で口開く。

「ははは。困りましたね。僕はご覧の通り元気ですよ。」

「良かった。私もご覧の通り、」

 学校の手提げ鞄を持って、手を開く。

「元気です!」

「はは、元気で何よりです。学生はそうでなければ。それはそうと、」

 花屋さんは私の鞄を指差す。ごつごつしている男らしい手だ。

「重くないのですか。その鞄。学校帰りですか。」

「はい。花屋さんの所に一直線で来ました!」

「寄り道ですか。僕も学生の時によくしたものです。しかし女の子が、余り外をぶらついていると危ないですよ。」

 花屋さんのそう言うところが私は好きだった。

「ふふっ。大丈夫です。花屋さんのところしか行かないので。」

「僕も男です。お嬢さんに何をするか分かりませんよ。」

 どきっとする。花屋さんは冗談半分で言っているようだ。けど、私にはそう聞こえない。

「花屋さんになら何してもらっても、嬉しいです。」

「ははは。また困りましたね。貴方って人は本当に。」

 素敵な笑顔だ。ずっとここにいたい。

「……もう帰らなきゃ。私、夕飯の支度を頼まれてるの。」

「そうですか。気を付けてお帰りください。」

 小さな気遣いが嬉しい。名残惜しいが行かなくちゃ。両親に怒られてしまう。

「花屋さん、さようなら。」

「はい、さようなら。」

 黒い綺麗な髪をなびかせて、学生は行く。

「……。」

――――――

「花屋さん……」

 ぐつぐつと煮えたぎる鍋を見る。今日は煮魚だ。醤油で甘辛くじっくりと火を通す。絶品料理だ。

「いただきます。」

 家族そろって、食卓を囲む。

 魚を一口食べる。ちょっと味を濃くしすぎた。けどご飯が進む。我ながらに上手くできた。

「あぁ、あんた、そう言えば婚約したいって人がね、今日手紙くれてたよ。」

 花屋さんの事はまだ親に言っていない。 

「え、」

 婚約……?結婚したら、花屋さんにもう会えない?

 嫌だ。

「いい人そうだし縁談したら?あんたもう嫁にいけるでしょう。」

 なんでそんな他人事みたいに。私は私の好きな人がいるのに。

 馬鹿。 

「……お断りしといて。」

「はぁ?一回だけでも会って見たら?相手が可哀想でしょう。」

 相手なんか知らない。顔も見た事ない相手なんか好きじゃない。私は花屋さんが好きなの。

「あんた、相手の事を考えてみなさい。勇気振り絞って手紙くれたんだよ?奥さん。いいでしょ。あんたもうなれるよ。」

 花屋さんに奥さんはいない。だから私が花屋さんのお嫁さんになるの。

「…………。」

「じゃ、縁談は――――――」

 もう声は聞こえない。食事が喉を通らない。食べてもつっかえる。

 この縁談が上手くいったら、私の両親が相手を気に入ったら、

 私の幸せな日常はもう終わり。

「ご馳走様。」

 薄暗い階段を駆け上がって、部屋に入る。

「……っ、わたし、私だって、」

 淡い月が涙を照らす。

 

「花屋さん……」

学生→花屋のことが好きな子

花屋→花屋を経営してる子

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ