第29話 松島玲志、ここに参上だっ!!
お久しぶりです。元気してました。もう少しで一章最終話です。
茶番を終え、僕らはニューカリ(認めてはないけど一応、そう略すことは特別に許してあげるわ──だそうです)へと自転車を走らせ、到着した。
ニューカリことニュー・カリフォルニアバーガーはその店名から想像できるようにアメリカのハンバーガーチェーンである。
だが、訳あってカリフォルニア州出身のハンバーガーチェーンではないというのは割と有名な話である。
広い世代に親しまれている人気のハンバーガーチェーンで、連日多くの人が訪れ、店内は賑やかである。
そんなニューカリの一店舗に僕らは訪れている。ここの店舗は僕の家から最寄りの場所で、これから来る僕の親友の家からも近い、2階建ての店舗である。
僕と中ノ崎はちょっとお腹が空いたということで一番テンプレートのチーズバーガーセットを注文し、2階フロアの隅っこの方にある4人席でアイツを待つ。
「あと少しで来るようだけど、冷めちゃうし先に食べるか」
「ええそうね、じゃあいただきます」
「いただきまーす」
もぐもぐとバーガーを食べ始める僕と中ノ崎。やっぱりニューカリのチーズバーガーは美味しいなぁ。昔から両親によく連れて行ってもらったものだ。
「うん。久々に食べたけどやっぱ美味しいわね」
「だな、バーガーチェーンはやっぱニュー……
ギロリと中ノ崎の目の色が変わる。やっぱこいつネタじゃなくて割とマジでカリバー派にプライドを持ってるらしい。
「──カリフォルニアバーガーだよな!」
「逃げたわねこの男」
悪かったな。もうお前に詰められたくないんだよ。
テロン♪
僕の携帯電話が鳴る。
『あともう少しで着くから待ってろ!』
お笑い芸人の『待ってろよ!』というスタンプも送られてきた。
『了解、気をつけて来いよ』
と返信。
「アイツもう少しで着くってよ」
「ええと、雪宮君。さっきからアイツ、アイツって言ってるけど、どんな人なのか一応もう一度、教えてもらってもいい?やっぱ初対面の人と会うのちょっと緊張しちゃうのよ」
「ああ、いいよ。今から来るやつは僕の中学からの親友の一人、松島玲志ってやつでな。明るくて元気な奴だけど馬鹿なんだ。でも凄くいい奴でな、絶対にお前の力になってくれる」
「なるほど、大丈夫かしら、私みたいな暗い人でも……」
「心配しすぎだ。アイツはそんなこと気にしない。誰とでも仲良くできる奴だからな、大丈夫だ」
「雪宮君がそんなに言うならまあ……」
だがまだ少し心配か。僕もいきなり初対面の人と会うってなると緊張するし。気持ちはすごくわかる。だが、そういうことを考慮しても松島玲志という男には絶対に会った方がいいのだ。
「お!いたいたぁ!創一!!」
階段付近からクソでかい聞き慣れた声がする。そのクソでかい声の主はハンバーガーセットの乗ったお盆を持ちながらこっちに近づいてきて、
「よお!久々だな!創一!元気してたか?松島玲志、ここに参上だっ!!」
玲志は高校から授業終わりに直接来てもらったので制服でリュックを背負ったままである。玲志はここら辺の少し偏差値が低めの公立高校の、西濱崎高校に通っている。
身長は少し低めだが、笑った時の目元の笑いじわと豪快な笑い声が特徴でどこにいるのかすぐにわかる奴だ。
パーマをかけていないが天パなので少し毛がくるくるしてるのも特徴である。
「元気だ。てか久々って言っても春休みに会ったばっかだろお前。あとネクタイ裏返ってるし、曲がってるぞ」
「あり?そうだったけか、まだ5月だもんなー、あとネクタイね、はいはい」
そう言って玲志はお盆を僕らのテーブルに置き、ネクタイを裏返し、くいっくいっと元の場所に戻す。
「いや、サラッと流したけどまだ今は4月だぞ!?」
「ありり?そうだっけか?いやー、常人よりおれは時の流れが早いのかもしれんなぁ」
はっはっはーと笑い飛ばす玲志。中ノ崎は枯井の時と同じく『こいつ大丈夫か?』みたいな顔している。
……僕の周りの奴、第一印象悪い奴多すぎないか?
「えっと、玲志、とりあえず座ってくれるか?」
「おう、そうだなじゃあ失礼するよ」
玲志は僕らの対面に座る。
「うーんと、じゃあ、とりあえず初めまして!お嬢サン、おれの名前は松島玲志。創一の親友だ!よろしく!」
玲志は笑顔でそう言い、握手を求めるように右手を差し出す。
「な、中ノ崎二那です、よろしく、お願いします」
中ノ崎は玲志のいきなりの友好的すぎる玲志に少し困惑している。
「うんうん!二那サンね、よろしく!」
そう言って手を上下にブンブン振る玲志。おいおい、ジュースに当たって溢れたらどうするんだ……。いい奴だけど、そういうところはいつも考えてないよな。
「ええ、よろしく……」
うーん。中ノ崎にこのハイテンションお化けをいきなり当たらせるのは良くなかったか?いやいや、でも玲志なら中ノ崎に必ず良い変化をもたらしてくれるはずなんだ。
「じゃあ早速なんだけど、本題に入ってもいいかな?」
玲志が握手を解き、話を切り出す。
本題というのは、すなわち何の用で玲志をここに今日呼んだのかということである。
「えっと、それはだな、ちょっと説明したけど、この中ノ崎が自分を変えたい、まあいわゆる『高校デビュー』ってやつがしたいんだ」
「あーはいはい、高校デビューね、創一がミスったやつね」
中ノ崎も何故だかプッ、と吹き出しそうな笑い方で僕を馬鹿にする。この野郎、お前もミスってる前提で話してるんだからな?
「う、うるせぇな」
いや、確かに側から見たら成功とは言えないかもしれないが!僕にとっては、中ノ崎二那という友達が奇妙な関係ながら、確かにできたのだ!自分から話しかけて!
だが、まあそれ以外の人とはコミュニケーションが取れていないところから見ればあまり変わってないと評価されても仕方がない……。
「いやいや失礼」
絶対思ってないよ……。
「んじゃあ二那サンはどんな風に自分を変化させたいんだい?」
中ノ崎は数秒の沈黙のあと、
「わ、私は今までうまく友達が作れませんでした。それで、自分を変えたいって思ったけど、空回りしちゃって、それで雪宮君のお世話になっちゃって。だから私は、友達が沢山いて、みんなから人気で、性格が良くて、面白くて、明るくて、誰からも頼りにされる存在にッ──なりたいです」
うんうんと頷きながら僕と玲志は聞いていた。
「ご、ごめんなさい、全然まとまって話せてなくて……」
「いや、いいよ!むしろまとめてくれない方がありがたい!二那さんのやりたいことがはっきり分かるからね!」
「なるほどなるほど、ふーむ」
なんだか悩んでいる様子の玲志。対策を早速考えているのか。
「どうだ?良い感じにこれからのプランは組めてきたか?」
「いやぁ、二那サン、なんて言ったっけ?ぜ、全部覚えられないや……」
へへっと笑って誤魔化そうとする玲志。いやだめだろ。
「やっぱ馬鹿だなお前……」
確かにあの量を覚えるのは少し難しいかもしれないが、まとめない方がありがたいとか言っておきながらこれはダサい。
と言うわけで、玲志のリュックに入っていたノートに中ノ崎の要望を書いてもらう。
「なるほどなるほど。今度こそ見えてきましたよー!!」
ホントか?コイツ。
「えっと、最初は何から始めますか?松島さん」
「まず、敬語やめてみようか二那」
急に呼び捨てにして精神的な距離を詰める玲志。
「敬語ってのは確かに大事だと思うよ。でもさ、友達に敬語使う奴ってのは……まあいないこともないけど基本的にいない」
いないこともないのか。玲志の広い友好関係ならあり得るのかもな。
「分かったわ玲志」
「そうそう!良いね二那!」
「あ、ありがと」
な、中ノ崎が素直に感謝してる……。おお、なんだか良い傾向なんじゃないか?
「じゃあ早速初めてこうか!まずは──
そうやって、玲志はコミュニケーションの方法、性格、口調の改善、外見の改善……など、玲志が持つテクニックを中ノ崎に叩き込んでいく。
僕はその間、最初の方は一緒に聞いていてへえ〜なんて思っていたもんだが、次第に聞くのがめんどくさくなっていって、スマホゲーとかをやってしまっていた。
そして1時間と少しぐらい経っただろうか、それぐらいで玲志の講座は終了したようだ。
「ふう、これでおれが今二那に教えられることは全てだな!お疲れさん!」
「ええ、ありがとう玲志」
むきたてのゆで卵みたいな真っ白で純粋な笑みを浮かべる中ノ崎。
どうやら、すっかり玲志呼び、二那呼びは定着したようだ。これは玲志の流石の実力だなと言ったところ。中ノ崎の吸収の良さも相まっている。
「どうだ?良い感じか?」
「ええ、とても良い感じよ。雪宮君もありがとうね!ここまで付き合ってくれて」
「いやぁ、僕は何もしてないよ」
「いやいや!そんなことないわ。雪宮君がいなかったら、私はまだ全然変われていなかったわ」
いや、違う。
「ほんと感謝してるわ!雪宮君」
違う、違うよ中ノ崎。
「ああ……それなら良かったんだが」
だって、僕は何も──何もしてないじゃないか。中ノ崎、お前が変われたのは、僕のおかげじゃないんだよ。
実に2ヶ月!投稿していませんでしたね……申し訳ないです。この29話自体は多分1ヶ月前ぐらい完成してましたが、なんか投稿してなかったです、すいません……。
最近は小説を書くっていうことから随分遠かったなって。これからはぼちぼち戻っていきたいなと。
とりあえず、近日中にあと2話、ニナシック最終話まで駆け抜けます。ではまた!




