第28話 もう殺すしかなくなっちゃったわ
なんか僕の各話のタイトルって割と情緒不安定ですよね。正直、いいタイトルが思いつけばそれをつけますが、なんか出てこなかったら割と適当につけてます。
はたして法則性を持たせるべきなのか……ちょっと考えます。
「ハハッ、なんだか久しぶりだな創一ちゃん。元気にしてたかい?」
「まあ、元気だよ」
中ノ崎の一件で少し疲労はあるが。
「ふうん。ならいいや。にしても本当に久々だなあ、創一ちゃん。見ない間に随分男前になったなぁ──俺がさ」
「お前かよ!今のは話の流れ的に僕が男前になったって言うところだろ」
「ハハッ、ホント面白い冗談を言うなぁ創一ちゃんは」
「失礼すぎないか?」
別に僕は自分が男前だとは思わないし、ここ最近成長したとも考えてはいないが、『面白い冗談』として扱われるのは酷いなあ……。
「ところで創一ちゃん、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、こいつは──」
「中ノ崎二那です」
僕が紹介する前に名乗る中ノ崎。他人に紹介されるのがなんとなく癪なのだろうか。
「ふーん」
『ふーん』て……。自分から聞いといてその反応はどうかと思うぞ。普通、『そうなんだ、よろしくね』ぐらい言ってもいいのに。
しかし、枯井は興味がなさげな返事とは逆に中ノ崎のことをジロジロと見ている。上から、下まで。
「な、なんですか。そんなジロジロ見ないでもらえますか?」
中ノ崎は思わず身を引きながらつぶやいた。
「君……二那ちゃんは創一ちゃんとはさ、どういう関係なの?」
こいつは娘が男連れて来た時の父親か。だが、こんなことを言っておきながら、こいつの観察眼は中ノ崎の細かい仕草や声色をちゃんと見ているようだった。
そのお父さん的な質問に対し中ノ崎は僕と一瞬目を合わせて、
「と、友達ですけど」
と、なんだか照れ臭そうに言う。『友達』という単語の照れ臭さであろうか?
『友達』──いい響きだ。それは中ノ崎と僕、お互いにそう感じてる気がした(お互いに友達が少ないからっていうのは言わないお約束)。
「そっかそっか、なるほどね。友達がいない同士の二人が出会ったって感じかな?」
「ばっかお前、枯井!失礼だぞ。僕はともかく、中ノ崎に……って、お前なんで中ノ崎に友達がいないって分かるんだよ」
「雪宮君、あなたも大概失礼よ」
それはすまん。だが、何故だ?僕はこいつに中ノ崎に友達がすくないこと伝えていないんだが。
「あ?そんなの顔見りゃ一発だろ。僕は今までたくさんの人の顔を見てきたからね、見た人の人間性なんてすぐわかるっての」
ほんと、思考でも盗聴してるのかと思えるほど、こいつはいろんなことをすぐに見抜いてしまう。
「うーん、それがたとえ真実だとしてもな、言っていいことと悪いことってのがあるんじゃないのか?」
「ま、それはそうだね。ごめんね二那ちゃん、傷つくこと言っちゃってさ」
この野郎、もっとこう謝り方ってのがあるだろうが。誠意をもってさ。
「………いえ、別に気にしてないですから」
絶対気にしてる!!ボケとかじゃなくて、普通に気にしちゃってるよこの子!
「さて、余談はここまでにして、本題に入ろうか。二那ちゃん、君はどんな『想霊』に苦しめられてきたんだい?」
「………」
中ノ崎は口を閉じたまま枯井から目を逸らす。まだ少し枯井に抵抗があるようだ。やれやれ全くこの男は、僕がいない時の仕事でもこんなテンションなのだろうか。心配になるぞ全く。
「なあ、中ノ崎。このヘラヘラした男が気に入らないのは分かるがお前の事情を話してくれないか?こんなんでも一応プロなんだ。秘密は守るし、悪い奴じゃないからさ」
中ノ崎は少し唸っていたが、はぁ──と降参を意味するかのようなため息をつき、
「……分かったわ。お話しします、枯井さん」
「ほほー、随分信頼されてるんだねぇ、創一ちゃん。じゃ、早速聞かせてくれるかな?」
中ノ崎は中学二年生からの一連の流れを話し出した。枯井と僕は5分ぐらいの中ノ崎の話を黙って聞いていた。
「──という感じで、今に至ります」
一通り話し終えた中ノ崎。話を聞き終わり枯井は頷きながら言う。
「なるほどなるほど、説明ありがとね二那ちゃん。んーと、そうだな二那ちゃんの『想霊』ってのはいわゆる、『自己変化型』ってのに分類されるものだね」
「その名の通り、自分の願いに対して、自己を変化させるって形で願いを実現するタイプの『想霊』だね」
「なあ枯井、中ノ崎の『想霊』は完全に消えたって言うか、影響がなくなったのか?」
枯井の元に来た第一の目的はこのことを確かめるためである。僕は一応、中ノ崎をあの異空間から連れ戻した。それから今まで、中ノ崎は中二病のような言動をしなくなった。
「んー、そうだね、さっき見たところ、影響はほとんど無くなってるかな。とは言っても、二那ちゃんから完全に消えたわけではないけどね」
「おいおい、影響が今はないとはいえ、『想霊』が再発とかするんじゃ……」
再発というケースはどうやらあるらしく、まるで『想霊』は病気みたいだな、と思う。
枯井曰く、『想霊』のことを今の僕のように一種の精神疾患だと考える人もいるらしい。
ただ枯井は『疾患』っていう言い方があんまり好きじゃないらしく、ただ人間が人間らしくしてるだけだからそんなに悪い目で見るのは違うと僕に前言ってきたことがある。それはそれで納得だなと感じたが。
「まあ大丈夫でしょ!」
枯井は笑みを浮かべ、まるで夏休みの課題が終盤にも関わらず終わってないのに謎に余裕のある学生のようなセリフを言い放つ。
「おいおい、枯井よお、中ノ崎は僕の大事な友達なんだよ、そんな投げやりな感じで話を終わらせないでもらえるか?」
全くこの男は……適当なのか、ちゃんとしてるのかよく分からない。いまだに掴めない人物だ。
「投げやりだなんて失礼な。あのね創一ちゃん、病気……で例えるのは嫌いだけど、病気とかもさ、無理に取り除かなくてもいいってのあるだろ?」
「例えばニキビを潰したら痕が残るから潰さないほうがいいみたいなさ、そんな感じだよ。『想霊』も無理に取り除くと逆に悪影響だったりするからね、これ以上、無理になにかすることもないかなっていう判断だ」
ニキビで例えないでくれよとは思ったが、一応納得はできた。まあ枯井の判断にこれ以上素人の僕が何か言ったってしょうがなくはあるが……。
「納得していないようだけど雪宮君、もう大丈夫。これ以上何か処置を望んではいないから。今、彼女の気配は無いから」
僕がなんだか腑に落ちていないのを感知されたようだ。まあ、本人がそう言うならいいとは思うが……。
もちろん、僕は枯井の実力を認めている。だからここに中ノ崎を連れてきているわけだし。ただ、枯井の人間性から、どうも100パーセントの信頼ができない。
「なんだよ、まだ信頼できないかい?ははーん、なんだよ、二那ちゃんの方が物分りがいいじゃないか」
さりげなく僕が頑固なやつみたいに言うなよ。
そんな軽口を叩きながらも僕と目を合わせる枯井。だが、そんな枯井の瞳の温度が一瞬変わったように見えた。仕事をする時の目だ。
そんな瞳を見てしまうと、冗談ではなく、これは枯井の本気なんだと伝わる。こういうヘラヘラとした態度も依頼人を和ませるための枯井なりの技なのかもしれない。
「でも枯井さん、あなたのそのヘラヘラとした態度は気に入らないけどね」
「え?」
まさか悪口を言われるとは思わなかったんだろう、呆気にとられてポカーンとしている。
ははっ、枯井のやつ、ストレートに人格否定されてやがる。可哀想に可哀想に。技だとかなんだか言ったけど結局嫌がられては意味がないではないか。
「あ、うん。意外とちゃんと言うんだね二那ちゃん……。ハハッ、いいね、気に入ったよ。これからもよろしくね。俺──もそうだけど、主に創一ちゃんをね。この子、中々手がかかる子だからさ」
「誰が手がかかる子だ」
「安心してください枯井さん、それは最初から分かってますから」
「おい!」
お前らの方が手がかかるだろ!──と言いたかったがやめといた。この二人を同時に敵に回すとめんどくさそうだ。意外と気が合うんじゃないか?この二人。
「はっはー、あー、愉快愉快。お互い、いい友達を持ったね」
こいつ、いい話にまとめようとしてやがる……が、案外いい友達……なのかもしれないな。
♢♢♢♢♢
「雪宮君、次は『ニュー・カリフォルニアバーガー』に行くのよね」
「ああ、アイツはニューカリで待ってるはずだ」
枯井と一通り話を終え、枯井は『じゃ、俺パチンコ打ちに行くから』と言ってフリフリと手を振りながら歩いてパチンコ屋に向かってしまった。
取り残された僕らは留まってもしょうがないので、次の目的地、僕の親友が待つところに行く。
しかし、やっぱり枯井は自由な奴だな。正直、あんな生き方ができるアイツが羨ましくもある。
「ねえ、ちょっと待って雪宮君」
僕がクロスバイクに跨ろうとしたその時、中ノ崎に不意に止められた。
「んぁ?どうした?」
深刻そうな顔をする中ノ崎。何か重大なことでも思い出したのか?そんな雰囲気を醸し出す瞳を僕に向ける。
「『ニュー・カリフォルニアバーガー』を略す時は普通『カリバー』でしょ」
「どうでも良すぎるッ!!なんだよお前、そんな深刻そうな顔でそんなどうでもいいことを言ってくるんだ!」
こいつはどうやら俳優の才能もあるのだろうか。こんなどうでもいいことをとても深刻そうに捉えられるなんて。
「いえ、大事よ、雪宮君がまさかニューカリ派だったとは思わなかったわ……」
いわゆるこれは、店名が長いチェーン店あるあるの、なんて略す問題である。
「いや、僕の周りはみんなニューカリ派だったけどな」
「ああ……そうなのね。雪宮君とその周りの人達はみんな嘘をついていたのね」
「う、嘘だと?なんの嘘だって言うんだよ」
「いえ、『私はカリバー派ですよ』という顔で私に接してきていたからね、それを嘘と言わずになんというのか」
この人怖ぁぁ。とんでもない妄想癖だな全く。
「中ノ崎、そうやって裏切られる気持ちを味合わせてしまったのは申し訳ないが、そんなガッカリしないでくれよ。どう略すかなんて人の自由じゃないのか?」
一応、中ノ崎に合わせて下手に出ておいてやる。
「はっ、そうやって誰も彼もが自由を主張するのは認めるわ。でもね、そうやってみんなが自由を主張したらこそ争いが起こるのよ。これは自由と自由、正しさと正しさの争いよ」
「なんかとんでもなく深い話になっていないか……?」
「でもね、雪宮君。貴方の罪っていうのはね、私に嘘をついた事よ。嘘はついちゃいけないわ。嘘つかれちゃったら私、貴方のことを救済けてあげられないわ」
『救済けてあげる』ねぇ、変なルビつけやがって。まあ多分『愚かなニューカリ派から神聖なるカリバー派に受け入れてあげる』っていう内容なんだろうな。
「もう殺すしかなくなっちゃったわ」
本当に殺してきそうなガンギマった目をしている中ノ崎である……。
「お前は関西のヤクザか。って、まじかよお前の中でそんなニューカリ派ってのは殺したくなるほど許せないモノなのか?」
「当たり前よ、私はねニューカリ派に親を殺され──って、ああっ、もう無理!」
「いやいやいや!え、なんだよ!急に正気に戻るなよ!」
温度差で風邪ひくわ。
「いや、このガンギマりヤクザフェイス保つのも疲れるのよ」
「ガンギマりヤクザフェイスて……あと、お前のご両親、家一緒に行った時ご存命だっただろ!」
「ええそうね、まあそれにも深い深〜いエピソードがあるのだけれども。アニメにしたら4シーズンほどになるでしょうね」
「ただのバーガー屋だぞ!?作り込みが凄すぎるだろ!」
世界中に展開している大企業とはいえ、ただのハンバーガーチェーンだ。
「まあ続きは有料会員様限定ね」
「金払いたくねぇ……」
天才の中ノ崎二那が考えた妄想だし、もしかしたら面白いかもしれないけどな。
冷静に考えて一章で30話近くって使いすぎだなと考えてます。割と思いつきで書いてる節があるので、ギャグシーンなんかは特にそうなんですけど、本編に関係ない部分が多すぎるんですよ。
まぁでも僕の目指している小説の形式が一応、ギャグとシリアスがどっちも面白いってのを目指してるので、どっちも手は抜きたくないんですの(お嬢様)。
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多分30話で一章がぴったり終わります。




