第25話 魔王:サキニア・ノクターリア
この小説はなんとか一周年を迎えました。途中全然投稿しない時期があったのは駄目でしたね。
本当は一周年の3月21日までに一章を終わらせたかったのですが、終わりませんでした。まあいっか。
箱の中は異空間的なところに繋がっていた。異空間内は宇宙のように真っ暗で、所々光っている星のようなものが見える。
そしてその宇宙の中にあるはずのない異物──人の姿があった。人が椅子に座っていた。椅子と言っても、一般的に想像できる椅子ではなく、まるで魔王が座る椅子のような椅子であった。
黒と赤のカラーリングで、無駄に大きく、髑髏の装飾が施してあったりと、なんとも悪趣味であるが、男子なら一度は憧れるであろうそんな椅子に一人の人物が足を組んで偉そうに座っていた。
その人物とは、
「な、中ノ崎……?」
そう、中ノ崎二那であった。とりあえず、中ノ崎の姿を見てようやく地に足が着いたという感じだが、その安心感はすぐに消えることになる。
「フハハハ、貴様は我が中ノ崎二那であると思っているのか?まあ、見た目だけで判断するのであれば確かに我は中ノ崎二那であろうな」
そいつは僕を嘲笑した目で見てくる。よほど馬鹿らしいことを言っていると思われているのか。
「見た目だけでは……?」
「そうだ、我は今、主人様の姿を借りている状態だ。我は本来、実態がないのでな、主人様に視認してもらう為に姿を一時的に借りているというわけである」
「じゃあお前は誰なんだよ!中ノ崎を何処へやった!」
「質問が多いなあ全く。まあ良い、一つずつ答えてやろうではないか。我は魔王、サキニア・ノクターリアだ」
なんだその名前……なんとなく、中ノ崎二那という名前からとった気がしているが気のせいか?
「そして、主人様はな……
「まさか、もう死んでいるなんて言うんじゃないだろうな……!」
「まあまあ、そう焦るでない。後ろを見てみろ」
そう言われたので素直に後ろを振り返る。そこには檻が一つあった。檻の中にはベッドがあり、そこに誰かが寝転がっている。
寝転がっている人物とは、お察しの通り、中ノ崎二那であった。
「中ノ崎!!」
「起きないさ。主人様は今、深い眠りの中にいる。そんな遠くから声をかけただけでは起きないさ」
「てめぇ、中ノ崎に何しやがった!」
「五月蝿いなぁ。そんな声を荒げるんじゃあない。何も酷いことはしていない。ただ今主人様は理想の世界にいらっしゃるのだよ」
「理想の世界……ああ、お前が中ノ崎を唆したときに使ったワードのことか」
確か、全ての願いが叶う世界だとか日記には書いてあったな。確かに理想の世界だが、
「ハッ、そんな美味い話があるかってんだよ。お前はアイツを騙してるだけだろ?」
「いやいや、主人様を騙すなんてとんでもない。本当の話さ」
「眠らせて……そういう夢を見せてるだけだろ?それは『本当』ではない、真実じゃないだろ」
「外から見ればそうかもしれんな。だが主人様にとってはどうだろうか。夢だろうがなんだろうが、自分が認知している世界が主人様にとっては本物なんだよ」
「貴様はそんな主人様の幸せを邪魔しようというのか?」
「そんなの……『本当の』幸せなんかじゃないだろ」
「ハッ!どうした?貴様の主張はそれだけなのか?ニ度も同じことを言わせたいのか?それは貴様の都合だろ?貴様は主人様の幸せを考えてない」
……確かに、そうかもしれんな。僕はいろんな理由があって中ノ崎には帰ってきて貰わないと困る。
アイツがいない学校生活なんて寂しいし、これまで僕がしてきたほぼ犯罪行為がマジの犯罪行為になってしまう。
それに、ありがちな台詞にはなってしまうかもしれないが、アイツは僕の友達だから、助けるんだ。
僕はかつて友達に人生を救われた。だから、僕も友達という存在を助けられるような、そんな人間になりたいって心の底から思ってる。
今の状態で中ノ崎は救われているのか?僕の主観、勝手な決めつけかもしれないが、今の中ノ崎は孤独で、自分の殻に引きこもってるって感じがする。
その殻から僕はアイツを引っ張ってやるのが友達の僕の役目なんじゃないか?
「そうだよ。僕は正直、中ノ崎を助けるのに自分の都合も結構入ってる」
「だが、中ノ崎は僕の友達だから、アイツを幸せってやつに近づけてやりたいんだよ。エゴかもしれないけど、それでもここまできたんだ、タダじゃ帰らないぜ僕は」
「ハハハッ!そうかそうか。つまり、貴様は主人様を幸せにする自信があると言うのか?」
「幸せにする自信ね、ハッ、少なくともお前より幸せにする自信はあるよ」
正直なところないけど、ここで引き下がるわけにはいかない。てかこいつなんか結婚を申し込んだ時のお父さんみたいな内容の台詞言ってやがるな。
こいつも──中ノ崎の幸せを願ってるってことなのか?だが、こいつの手元に中ノ崎を置いておく訳にはいかない。
「そうか、だが主人様は貴様に助けてもらうことを望んでいないさ。ここにいることがその証拠さ」
「それはお前が中ノ崎を誘導したんだろ?僕に迷惑をかけないでいいとかそんなことも言ってたらしいじゃないか。お前はただアイツを追い詰めてここに連れてきただけだ!」
「ふむ、では主人様は本心では貴様のことを拒絶していないと?」
「そうだ」
だが本当に──僕は中ノ崎に必要とされていないのだろうか。サキニア……なんとかだったか?奴が言う通り、中ノ崎は僕を拒絶しているのか?
……拒否されてたとしても、僕は中ノ崎をここに居させるわけにはいかない。
中ノ崎は僕より頭が良くて、容姿も良くて、そんで面白くて、まだまだ入学したての高校一年生なんだ。まだまだ人生これからなんだ。こんなとこに引きこもっていい人物じゃないはずだ!
「そうか、そうか。では、本人に訊いてみるとしよう」
「……!」
意外だった。てっきりこのまま力ずくで僕を追い出してくるものかと思っていたが、中ノ崎と話せるのか。ますます、サキニアという『想霊』が分からなくなってきた。
ちなみにあっちが力ずくでねじ伏せてきた場合、僕は負ける可能性が高いのだが、一応、対抗できる策は用意してあるので、力ずくでもある程度やりようはある。
サキニアは中ノ崎のいる檻に近づく。そして、
「主人様、お目覚めください。主人様とお話したいと言う奴が来ているのです」
そう言い、パチッ!と指を鳴らすと、中ノ崎がモゾモゾと動き出したのが、布団の動きから分かった。
「中ノ崎……!」
「んん……誰?」
「おい、貴様。主人様とお話しできるのは5分だけだ。5分以内に主人様を納得させるんだな。5分を過ぎたら……どうなるか、想像は容易だろう?」
「ああ、分かった」
♢♢♢♢♢
「中ノ崎、僕だ。雪宮創一だ。お前のことを迎えに来たんだよ」
そう言葉をかけている間に中ノ崎は上体を起こし、僕の方を見る。寝起きなので顔がものすごく眠そうだ。
「ゆ、雪宮君……?」
「そうだ、さあ、中ノ崎、こんなとこさっさと抜け出して帰ろう」
「……それは、できないわね」
中ノ崎は険しい顔で僕を見つめる。まあ、ここですんなり帰りますとはならないよな。
「なんでだ?そんなに夢の中の『理想の世界』ってのはいいものなのか?」
「ええ、そうよ。全部が上手くいく世界だわ」
「へぇ、そいつはまさに理想の世界だな。だけどな、僕はやっぱり上手くいく時、上手くいかない時っていうのがあるのが人生だと思うんだよな」
「急になんの話?」
「だからよ、お前が今いる『理想の世界』ってやつはお前の人生には相応しくないと思うんだよ。全てがうまくいく世界での喜びなんて高が知れてるだろ?困難にぶち当たったとしてもどうせ上手くいくって思えたらなんだかつまらなくないか?」
「ゲームだってそうだ。最初から最終装備だとクソゲーにならないか?最終の最強装備で無双するのが楽しいのはかつて序盤で苦戦した思い出があるからこそなんだぞ?ゲームよくやるお前なら分かるだろ?」
「……高校一年生の雪宮君が何故そんな壮大な人生観を自信満々に語れるのか私にはよく分からないわ」
「それはお前だって同じだ。一時のテンションとか気の迷いでこんな選択してんじゃねぇよ。まだ人生全部投げ出すのには早いだろ」
目線を下に逸らし、僕とは目を合わせない。
「……投げ出したわけじゃない。こっちの方が、今の選択の方が、私もみんなも幸せになるって思ったからよ。最大幸福を選んだつもり」
「最大幸福だと?そんなこと言って、現実から逃げてるだけじゃないのか?お前がそこで寝てたって誰も幸せにならないぞ」
「でも、誰も不幸にならないわ」
「不幸?」
「そうよ。雪宮君だってそうでしょう。私といたって嫌なことが増えるだけよ。今だってここに足を運んでくれたのも楽ではなかったでしょう」
まあ、楽ではなかったな。主に精神的に。時間もかなり消費した。
「私は周りの人を不幸にするのよ。家族、雪宮君をはじめとするクラスの人とか。私がいたって、誰も幸せにならないわ」
「お前な、お前は高校生の段階で人を幸せに出来ないとか嘆いてやがんのか?理想高すぎるっつーの」
「どういう意味?」
「お前は優秀だからさ、きっと勘違いしちまってるかもしれないけど高校生なんてまだギリギリ子どもだ。しかもまだ高校一年生の最初の1ヶ月も経過してないんだぞ?」
「お前の言う『幸せ』ってのがどんなことを定義しているかは分からないが、家族なんてお前が元気でいてくれるだけでいいんじゃないのか?僕は親じゃないから分からないけどさ、僕の親はいつもそう言ってくれたよ」
「僕やクラスの人の幸せ?お前は優秀すぎるから、理想が高すぎるんだよ。そんなこと考えて普段生活なんてしないよ僕は」
「でも、私うるさいし……」
「それは『想霊』の影響がでかいんだろ?『想霊』取り除いてからなら大丈夫なんじゃないのか?あと、僕らが所属してるのは個性ウェルカムな北鶴高校じゃないか。受け入れてもらえると思うぞ」
「でも、あのクラスの人からの冷ややかな目、耐え難いものよ。私は中学でもそうだった。その時はすごく辛かった。雪宮君だって私と一緒にいたらその視線を浴びることになるのよ?」
確かに一部の女子をはじめとしたクラスのみんなに悪い意味で一目を置かれていたのは事実だろう。
「実はな、僕も中学の時、その視線を浴び続けてた。お前とは原因とか全然違うけど。だからまあ、そういう視線は慣れてるよ」
「慣れてたらいいってものじゃ……」
「そうだよな。だから僕はお前がそんな視線を浴びないように精一杯のことをやるよ」
「……なんで、なんで私の為にそんなに尽くしてくれようとするの?」
「そりゃ、お前が僕の大事な友達だからだよ。友達を助けることは僕が生きる上で最も大切にしていることだからな」
何度も言うが、僕は友達に人生のどん底から救ってもらった過去があるからだ。
「私、雪宮君の友達なんかじゃない……」
「なんでそんな悲しいこと言うんだよ。少なくとも僕はお前のことを友達だって思ってるけど、これは僕の勘違いなのか?」
勘違いだったら悲しいことこの上ないな。
「……私はあなたの友達には相応しくないって言ってるのよ。雪宮君みたいに輝いていて眩しい人、私の隣にはいちゃダメよ」
「おいおい、ダメって何だよ。それに僕はそんなに明るい人じゃない。それとも何だ?今言ったのは全部建前で、本当はただ僕の事が嫌いなのか?」
「……ようやく気付いてくれた?そうよ。私は雪宮君、あなたのことが……嫌い。嫌い。嫌い……大嫌い」
「そっか。嫌いなのか。そりゃ残念だな。僕は中ノ崎と仲良くしたいと思っていたのにさ」
「でも、僕のことが大嫌いだったとしても、僕はこんなおかしい空間にいる同級生を放っておくほど、聞き分けがいい奴じゃない」
「……そういうところよ。そうやって、私が幾ら傷つけたって、否定したって……まだ私のことを助けようとしてくれるところが……大っ嫌い」
大好きだったらこの上なく嬉しいんだが、大嫌いらしい。
「そうかい。でも、僕の悪口は言っても良いがそれはこの空間を脱出したあとだ」
「だから、雪宮君。何度も言わせないで。私はここにいる事が幸せなの。それに、私はきっと周りの人を不幸にしてしまうわ」
「不幸?不幸ってなんだよお前がいる事が他人にとっての不幸だってのか?」
「はっ、お前はいつからそんな厄災みたいな存在になったんだよ。少なくとも、僕はお前の近くにいたって全然不幸じゃない」
「それは雪宮君の心が広いからで……」
「僕の心なんて狭いっての。おいおい、お前周りの人を馬鹿にしすぎじゃないか?そして僕を過大評価し過ぎだ」
「あのな、お前の言う『不幸』ってのはさ、せいぜい他人に迷惑かけるとかその程度だろ?うるさくしちゃうとか、他人を不快にさせちゃうとかさ」
「『想霊』をお前から取り除けばそれも改善するだろうし、お前の性格上、他人と上手くできないって言うならそれはしょうがない。そん時はそん時だ。だがな、さっきも言ったけど、僕はお前がいることで幸せを感じる人ってのもいるはずだと思うんだよ」
「少なくとも、僕は中ノ崎と一緒にいるの楽しいよ。幸せってやつを感じる。確かに結構キツイこと言ってくるけどそれが僕からすると結構楽しいっていうかさ。しかもお前結構その……可愛いしさ、目の保養になるよ」
「だから、僕と一緒にここから出ないか?まだ人生16年目だろ、投げ出すのなんて早えって。まだ無限の可能性ってのがあるだろ。中ノ崎は優秀なんだしさ」
「……でも、雪宮君。ここまで言ってもらってアレだけどやっぱりちょっと怖い。外の世界が、怖い」
「そっか。でも、別に僕は逃げちゃ駄目なんて言ってないんだ。逃げてもいいけど、逃げる手段が『想霊』なのが駄目なんだ。ここまでお前を説得し続けたのは『想霊』に頼ってほしく無いからなんだ」
「でも私はここが居心地がいいの」
「『想霊』に頼るとな。いつか必ず後悔するんだ。自分も、自分の周囲の人も。沢山迷惑かける。沢山不幸になる。取り返しがつかなくなるんだよ」
これは枯井から教えてもらった話も入っている。枯井は長いこと対『想霊』のプロをやっているのでそういう場面にたくさん遭遇してきたらしい。
まあ分かりやすい具体例でも出そうか。僕の体験談だ。
「あのな、言ってなかったけど、僕は『想霊』が原因で、両親失ってるんだよ」
「え……」
「両親だけじゃ無い。実はな、僕の二人いる妹のうちの一人は両親が死んだショックとか、色々重なっちゃって、今は不登校になって、ずっと部屋に引きこもってる。僕は1年ぐらい、まともに顔を見ていない」
「そして僕自身もだ。僕自身、『想霊』に殺されそうになったこともあるし、それに、僕は今、まともに寝れてないんだよ。ずっとずーっと『想霊』に関わってしまったあの日から悪夢を見るんだ。夢の中で怖い思いをし続けてるんだ」
「………」
「分かってくれたか?もう僕はさ『想霊』が原因で何も失いたくないんだよ。中ノ崎、お前も失いたくない。『想霊』で困ってるお前を絶対に助けたいんだ。だから頼む、僕と一緒に来てくれ!お前に戻る意思があれば、まだ間に合うはずなんだよ」
「……雪宮君、ありがとう。でも、私はもういいの。ここでいいの。雪宮君、本当にありがとうね、こんなところまで来てくれて……」
何こいつちょっといい話みたいな感じで終わらせようとしてるんだよ。もう時間もないな。
仕方ない。アレを使う時が来たかもしれない。本当に使いたくはなかったんだけど……やむを得ないな。
まあいっかとは言ったものの、やっぱり良くないですね。一章、ニナシックはもうあと3話ぐらいで終わる予定です。
いやぁ、一年って長いようで短いですね。何度か言ったかもしれませんが、本当はニナシックはもっと3ヶ月ぐらいで終わるかなって思ってましたが無理でした。
なんていうか、サボり気味な性格を2年目は治していかないといけないなと思ってます。
そんなこんなで2年目も張り切っていきます!よろしくお願いします!
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