第23話 影の薄いメスガキ
メスガキっていいよね。現実では会いたくないけど。
その女子小学生の格好は私服である。
そういえば、中学時代を経て忘れていたが、小学生って私服で学校行ってもいいんだよな。北鶴高校も私服オッケーなのだが。今考えると、小学生というのは随分と自由だな。いや、中学生が色々、制限を課せられているだけだろうか?
ランドセルは背負ってない。リュックを背負っている。なんと、今の小学校はランドセルじゃなくてもいいのだろうか?妹が小学校を卒業したのも数年前なので、今時の小学生事情を僕は知らないわけだけだが……。
うーん、てっきり、この時間だから電車で帰宅している小学生かと思ったが、そうでもないのか?世の中には新幹線で登校する小学生もいるとかいないとか……。
まあ、私立とかそっちの方に行っている子なのかな?それとも、遊びに行ってる?この時間に、電車で一人?親御さんが同伴しているのか?同伴してるなら叱ってもらおうかな。
そして、僕は今その小学生からボロクソに悪口を言われてるわけだが。以前会ったこともなく、初対面だ。全く、最近の小学生の教育はどうなっているのやら……。
ここは一度、『指導』でもしとくか?『指導』なんて、馬鹿らしいというか、そんな偉そうなことをしたくはないのだが、だが、これは由々しき事態だぞ。初対面の高校生にこんな口を利くとは、よほど肝が座っているのか、はたまた、ただの馬鹿なのか……。
ここは、一人の高校生として、人生の先輩として──話すのは苦手だけど、話しかけてみるとするか。
「おい、そこのえっと、小学生の君?初対面の高校生にそんなことを言うんじゃあないぞ」
「え?お兄さん、聞こえてた?今の」
反応した。『聞こえてた?』だぁ?舐めてるのかこの小学生は。聞こえてるっつうの。
「ああ、ばっちり、一言一句な!」
「へぇ、そうなんだ。ごめんね、お兄さん。いやあ、お兄さんが、ホントにそんな見た目だったからさ」
「それが事実だとしても、それを本人の前で言うのはどうかと思うぞ。世の中にはな、心の中に止めておいたほうが良いことが沢山あるんだぞ」
「へぇ、それは勉強になるね。でもわたしってさ、随分、影が薄くてね。なかなか人に気付かれないからさ、癖で言っちゃうんだ」
「でも、僕は気付いたぞ。きっと、お前の周りの人は気付いても僕みたいに言わないってだけだと思うぞ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあお兄さんは変わり者だね」
「「お前が言うな!!」」と、心の中で大声で叫んだ。そう、さっきこの小学生に言ったばっかなので、あんまりそういうことは言えないな。いや、言ってもいいんだけど、車内だから大声は良くないな。
「隣、座っていい?」
しょ、小学生が隣に座るイベントとは……誰が予想しただろうか。
「まあ、いいけど……」
というか、やっぱり生意気だなコイツ。今まで話してる感じ、生意気だけど、一般的な小学校高学年のイメージとは違い、なんというか、大人しいけど、生意気……みたいな。どこか富士先生と同じ雰囲気を感じる。
「お兄さん、なんでそんな死んだ顔してるの?」
「いや、そのだな、友達が音信不通で、行方不明なんだよ。だから、その心配をしてたんだ」
まあ、それによって起こる僕が被る被害についても心配していたんだがな……。
「え、思ったより深刻」
「なんで死んだ顔してると思ったんだ?もっと、軽い感じかと思ったのか?」
「うん、てっきり彼女に振られた上に、愛犬が死んじゃって、余命宣告もされて、それでも遠くにまで塾の本部で開催している模試を受けに行くために強制的に電車に仕方なく乗ってる顔してた」
「具体的すぎる上に最悪すぎる!!余命宣告されて塾ってなんなんだよ!誰でもそんなのキャンセルするだろが!てか、そっちの方が深刻じゃないか!?」
「いや、友達行方不明な方がやばいでしょ。お兄さんがどうにかなるよりきっと友達の人生のほうが大事だよ」
「とてつもなく酷いことを言われている!!」
なんなんだ?この小学生……よく分からんな。掴めない。とにかく嫌な奴ってのは分かるけど、なんか面白いな。
「僕、そんな顔してたのかよ……。ちょっと自分に自信無くしちゃうなあ」
「まあ、お兄さんのことはどうでもいいんですけど、
どうでもいいのかよ……。
どうするんですか?友達、探してるんですか?」
「う、うん。今探してるよ。大体ここにいるかなぁ、っていう検討はついてるからさ、あとは行くだけっていう感じだよ」
「そこにいなかったら?」
「それはまあ……やばいな」
「お兄さん、もっとこうさ、軽い言葉じゃなくて、深刻そうな感じでなんかないの?」
謎にキレられているのだが……。謎の女子小学生にだ。深刻そうな感じねぇ、
「うん、いや、めっちゃめっちゃやばいわ!!マジであいつがいないと、もうめっちゃやばいね!マジで本当に!学校でぼっちだし!多分行方不明に関与したって警察とかに疑われるし!普通に悲しいし!うん、マジで!」
「うわ、小学生並みの語彙力だ……。失望したよ高校生ってそのレベルなんだ。あと、さらっとぼっちなの晒してるし……お兄さん、恥かいてるの、認知してる?」
「こんの!小学生野郎が!!あのだな、僕はお前に合わせて知能レベルをちと低くして会話してやってるんだぞ!?ぼ、ぼっちなのはその、認めてやるというか、認めざるを得ないというが、事実なわけだが、恥とか、言われる筋合いはないぞ?わざわざ僕は小学生に合わせて恥をかいてやってるんだ!そういうエンターテイメントだっ!」
はぁ、はぁ、全く、何熱くなってんだろ僕。だが、久々に腹が立ったぞこのメスガキめ!
「う、うわぁぁぁぁぁん!!高校生のクソ野郎に怒鳴られたぁ!!」
ま、まずい!!ここは車内!こんな大声で泣かれては!中ノ崎のとこに辿り着く前に通報されてしまうぞ!!
今更だけど、僕も結構大きな声で叫んじゃったような。他の乗客もいるっていうのに!
「お、落ち着かないか?お嬢ちゃん。あ、後でアイスでも買ってあげるから!それかラーメンとか、焼肉とか!ブランド物のバッグでもいいよ!?」
物で釣ろうとしてる。最低だ……僕って。完全に小学生を連れて行こうとする不審者のソレじゃないか!
やれやれ、今日はやけに犯罪者になってしまうな──いや、そんな日があってたまるか。
「うわぁぁぁん!物で釣ろうとしてるよぉこの人!怖いよお!」
「だ、だから一旦冷静になって、ぼ、僕が悪かったから!!」
も、もうやばいぞ、他の乗客にバレて、次の駅あたりで下ろされて、事情聴取コースじゃないか!
「うわぁぁぁぁああん!!」
やべ、終わった……。中ノ崎の件で終わるより先に、見ず知らずの小学生に煽られて、キレてって、情けなさすぎるな僕。ごめんなさい、本当。生きててごめんなさい。
っと、思って、車内をキョロキョロしてみるが……誰も反応していない……。
みんなスマホいじってたり、読書したり、ボケっとしていたり──こ、これが現代の時代の無関心さなのだろうか……?随分と寂しい時代に──って、そんなわけないだろ。誰も見向きもしない。チラりとも見ない。
「ぷ、ぷぷぷ……ごめんね、お兄さん。言ったでしょ?私、影が薄い──って」
いや、これ影が薄いってレベルじゃないぞ。てか、こんだけ叫んでもついでに僕もコイツと同じく認知されてないってことは、僕も影が薄いって……コト!?
まあ、そんな今更驚くこともなく、僕は昔から影が薄い人物ではある。自覚しているが。が、しかしだ。
「影が薄いって……いくらなんでもこれはおかしくないか?」
「いやいや、そんなことないよ。お兄さん、自分の影が薄いことをわたしのせいにしないで欲しいな」
フフフ──と、嘲笑してくる小学生女子。コイツは、一体何者なんだ。ただの影が薄い小学生な訳ない。この子、結構キャラ濃い方だと思うし。
「はぁーははぁ。いやぁ面白い面白い。ところでお兄さん、どこの駅で降りるの?」
「えっと、良篠駅だけど……って!
幸いにもまだ通り過ぎてはいなかった。この小学生と遊んでる時に通り過ぎていたらどうしようかと……。
「まだ通り過ぎてはなかったみたいだね。良かった良かった」
「本当にそんなこと思ってんのか?この野郎」
「オモッテルヨー。オニイサンガ、ブジニモクテキチニツキソウデヨカッタナアー」
「カタカナ発音をするな。やれやれ、全く気持ちがこもってないじゃないか」
「というか、本当に、お前は何者なんだ?これはもう、ただ影が薄いってレベルじゃないし──
『まもなくー、良篠駅、良篠駅。お出口は──
おっと……どうやら駅が近くなったようだ。だが、中々気になるぞこの小学生。
「おや?着いたみたいだね、お兄さん。どう?暇つぶしぐらいにはなれたかな?」
「暇つぶし──にしては疲れたよ。どうもありがとう」
滅茶苦茶に嫌味を込めて言う。
「うん、どういたしまして〜お兄さん」
この野郎、僕の嫌味を全く気にしていないぞ……。女子小学生恐るべし。
「最後に訊くぞ。本当に、本当に、お前は何者なんだ。ただの小学生じゃない」
「いつ──いつ、わたしが『小学生』だなんて言ったの?」
「いや、えっと、まあ、確かに……」
確かに、僕が勝手に彼女を小学生だと決めつけてるだけだが。
「まあ、小学生なんだけどね」
なんだそりゃ!結局小学生なのかよ。やれやれ全く、この子には驚かされてばかりだ。
「さ、着いたよ、お兄さん。良篠駅だ。降りなよ」
「お、おう」
どうやら、僕の質問に答える気は無いらしい。
「じゃあね、お兄さん。お友達、頑張って探してね」
一応、応援はされてるみたいだな。
「じゃあ、降りるよ。なんだ、その、まあ、気が晴れたっていうか、落ち着いてはないけど、顔は生き生きしてるかな?」
「うーん、あんま変わってないかも」
「そこは嘘でも『良くなったよ!』とか言うところだろーがよ」
「いやいや、わたし、小学生なのでね。まだまだお兄さんから見れば、世間知らずのガキですよーだ」
最後まで生意気なメスガキだな本当に。不思議な、とても不思議な少女だ。
「あ、そうそうお兄さん。お名前、教えてくれない?」
「な、なんでだよ」
僕が席から立ち上がり、降りる直前に言われた。もうすぐ、ドアが閉まり、電車は出発してしまうだろう。
「わたしほど影の薄い人物に気付くなんてとても貴重な人だからね。一応、覚えておいてやろうかと」
「偉そうだな、全く。僕の名前は雪宮創一だよ」
「ふむ、雪宮創一ね。わたしはお前のことを永遠に頭の片隅に留めておくだろう……」
何万年も生きる戦士のようなセリフを残しやがった。僕はそんな大それた人間じゃないのに。
「えっと、そうだついでに、お前の名前を訊いておこうか。そっちが知りたいなら僕だってお前の名前を知る権利はあるだろ?お前の名前はなんだ?」
「ふふ、もうドアが閉まっちゃうよ、お兄さん──いや、創一お兄さん」
『ドアが閉まります』というアナウンスが『ドアが』のところまで聞こえていた。
「まあ、また会えるよ、創一お兄さんならきっとね。だから、今日はお預けー」
そう言って、ウインクをして見せた。可愛い……のか?とても若々しい、あまりに若々しいウインクだった。
『可愛い』と言ったが、訂正しよう『見た目は可愛い』だ。
その言葉を最後に僕とその謎の女子小学生は別れた。電車のアナウンスに追い出されるようにして僕は電車を出た。
しかし、あの少女は何者なんだろう。人間──では無いような。そんな感じがする。
はっ、まさかな。とは思いつつ、僕は割とそういうのに遭遇しやすいからな。どうなんだろうか──って、こんなこと考えてる暇なんかねぇ!早く中ノ崎家に行かないと!
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