第22話 探さないでください
ストックを吐き出していきます。あと一話あります。
あと、関係ない話ですが、最近、前作のリメイクというか、供養といいますか、前作をどうにかしようと思いまして、動画という形で前作をもう一度作ろうかなと、動画編集が得意な友人と共同でぼちぼち作ってます。
まあ、上手くいったら宣伝とかしたいなと思うのでよろしくお願いします。では本編どうぞ。
『頭の中の何かの声がだんだん大きくなってくる。雪宮君とあっちの家に行った朝から。
この何かっていうのはもう一人の自分……と表現するべきなのかな。いや、これは多分、私じゃない。私に取り憑く『想霊』なのかな。
頭の中に響く声は、「我と共に行こう」とか、「もう楽になろう」とか、「あの小僧にもう迷惑をかけることはない」とか、まあ色々な訳。あの小僧っていうのは雪宮君のことでしょうね。
果たして、この声の主は何者?そう思ってその声に訊いてみた──あなたは誰?なにが目的なの?と。頭の中に響く声にどうやって質問したんだよって思うかもしれないけど(誰かがこの日記を見る前提で話してる)。
まあ、普通に声に出して言っているだけ。傍から見れば私、言い方が悪いけれど、まるで精神異常者ね。見えない何かと話してる。とても滑稽だわ。
質問の答えは「我は君ととても近い存在。もはや君自身と、言っていいかもしれない。我からしてみれば君は『主人様』なのだが。文字通り『君』──君主だ」
「我の目的としては君を我の世界に連れてくること。そうすれば、我も、君も幸せになることができるぞ」
という主張。ここからはその後の会話を書き綴る。まあ、この文章を書いている今の私はこの日記の続きをもう書く気はないので、ページを目一杯、使ってみようか。
あなたの世界とは?
「我の世界は我の作り出した理想郷。言うなれば君の願いは全て叶うのだ」
どうやって願いが叶うの?
「君が自分で叶えるのだ。君が祈ったこと、願ったこと。全てが叶うのだ」
あなたの世界に行ったらどうなるの?ここには帰ってこれるの?
「我の世界に来れば、君の苦しみ、悲しみ、過去の出来事──そんな負のモノ全てから解放される。だが、この世界に帰ってくることはできない。というか、帰る必要もないではないか。我の世界では全てが叶う」
「例えばだ。この世界──そうだな、我から見ればとても劣っている、とても下劣な世界だから、下界とでも呼称しようか。この下界に住む、今の君を含めて全ての人間は何の為に生きているのだろうか。我は願いを叶える為だと思う」
「勉強をする、運動をする、働く、友達と話す、恋をする。人間は全て何かの『願い』が伴って行動しているのだ。その『願い』を叶えるためなら人は努力する。ちまちま英単語を覚えたり、筋肉を鍛えたり、一生懸命働き、少しでも多く金を稼ぐべく出世を目指したり、友と遊ぶこと、思いを寄せる者への接触もそうだ。全て『願い』だ。『願い』──それが人間の原動力になる」
「願いを叶える為に努力を重ねたり、時には犯罪行為に走る。こんな下界の人類はとても愚かではないか?他人を蹴散らし、自分の事を第一に考え、醜く争う。戦争だってそうだ。国家間の『願い』を叶えるべく戦争をする。単に暴力を振りたいから戦争をする国なんてよっぽどない」
「君は今、その『願い』が支配するこの下界から解放されようとしているのだ。君だけが願いを叶える理想の世界。君が思い描いたことは全て叶う!どうだろう?素晴らしいとは思わないかな?そんな世界から帰るなんてことを考えることなんて無くなるさ」
……そうなのね。それはとても素敵だわ。でもそれは本当にいいことなの?
「何故そのような疑問が君から出てくるのか、我は正直なところ理解に苦しむな。君は、今まで沢山、沢山、苦しんできたではないか」
「常に両親、姉と妹からの圧力を受け、その圧力にずっと抵抗しなくてはいけない。友を作ろうと思っても上手くできないし、学校ではほぼ孤立状態。『孤高』なんていう、都合の良い言葉で常に自分を誤魔化し続けてはいるが、周囲から嫌な目で見られ、虐められる始末。そして、あの小僧のようにできた友達に迷惑をかける始末。常に他人を見下し、自分より下の者を嘲笑い、自分より上の者には、激しいジェラシーを浴びせ続けて、それらを酷い目にあわせる妄想をして、自己満足にひたり、さらには──
もうやめて!あなたはなんなの?私を追い込んで……なにがしたいの?
「だから、何度も言っているではないか。君を解放したいんだ我は!我は君の味方だ。唯一のな」
……雪宮君は?彼は私の味方ではないの?
「あの小僧にはこんな素晴らしいことはできない。というか、あの小僧にすら苦しめられる始末だ。あの小僧は下手な善意で君に近づき、結局、君が辛い今、なにもしていないではないか」
「なんなら、君があの小僧に迷惑をかけているのではないか?という、間違った考えをしてしまう原因だ!あの小僧といても幸せにならないさ。お互いにだ。君があの小僧のことを思うのならば、離れるのがお互いのためだ」
……確かに、そうなのかしら。
あなたの主張は分かったわ。とても素敵だと思う。そう、これは私と、周りの為。雪宮君や、家族、クラスの人とか……。私なんか必要ないものね。
で、どうやってあなたの世界に行けるの?
「我に体を委ねればそれで良い。我がその世界の入口へと君を導くよ」
えっと、今すぐじゃないとダメかしら?一応、最後に日記でも書いておこうかなと思うのだけど。
「ふむ、まあいいだろう。では準備ができたらまた我に声をかけてくれ」
……という流れで、今に至る。この声の正体はまあ、多分『想霊』なんでしょうけど、今は正直そんなことどうでもいいかなって感じ。
『想霊』の世界で私がたとえなにをされたとしても、どうなったとしても、別に関係ないし。
家族でいうと、私がいなくても実際あの家は成り立っていたわけだし。
雪宮君だって……私のことなんてすぐに忘れるし、他にいい友達いるだろうし。きっと私なんかから解放されて嬉しいでしょうね。
私に他に友達はいないし、別に中学の連中だって、私がどうなろうと別に気にしないだろうね。
さて、もういいかな。この日記を誰かがみるかもしれないけど、一つ。私を探さなくていいから。『探さないでください』ってやつ?初めて書いたわ。
そして、親愛なる──いや、私が勝手にそう思ってただけね。ごめんなさい。あなたには迷惑をかけました。枯井さんの力とかで私を探したりとかしないでください。
さようなら。
……ここで日記は終わっている。
♢♢♢♢♢
ふざけるなよ。ふざけんじゃねぇよ中ノ崎。なに勝手に意味わからん奴に体を委ねてどっか行ったんだよ!しかも主張とか怪しさ満点だし!賢いお前なら気づいてどうにかできたんじゃないのかよ!
ああっ、くそ。どうしようか、とりあえず『探さないでください』なんていう言葉は無視して探しにいくぞ。
探して──救い出す……はたして、救い出すことが本当にあいつの幸せなんだろうか。それもこれも会ってみなきゃわからん。
だからあいつに会いに行く。どこにいるのか──大体見当はついている。おそらく、あの謎の声とやらは中ノ崎に取り憑いている『想霊』である。
だから、『想霊』の発生源、中ノ崎のもう一つの家の方にある『箱』がおそらくキーになってくる。とりあえずあっちの家に行きたい。
このアパートからの最寄駅の鬼勇駅へと移動するとしよう。そして良篠駅に向かうぞ。
さて、もうこの部屋に用は無くなったわけだが……うん、なんというかその、もう少しこの日記を読んでみたい。
そ、そうだ。まだ手がかりとかあるかもしれないしな……。いや、決してだな、中ノ崎ともあろう奴が普段どんなことを日記に書いているのかなぁ──とか、そういうことが気になるわけじゃないぞ!
僕の想定は──おそらく中ノ崎は今、肉体的にも、精神的にも『想霊』にも支配されていると思われる。
だから、『精神的』の部分で何かヒントを得られるのではないか……?
なんだか大きな犯罪的なことをしてしまうと、軽犯罪を簡単に犯してしまう……みたいな。
僕は中ノ崎に家に入るという大きなことをしてしまったので、『日記を見る』という小さいことを簡単に行ってしまうのだ。
分かっているけど……これもきっとヒントになるんだ。中ノ崎に終わったら全部謝ろう。
ああ……でもあっちの中ノ崎の家を訪れて、例の箱を調べたところで、現在、中ノ崎はもう──いや、そんなこと考えるな。生きてる、無事な前提で進める。
さて、そんなところで日記を、罪の意識を持ちつつ、閲覧するぞ。
……ふむ、ふむ、なるほど。え?ああ、そうだったのか。……ええ、意外──としか言えないなこれは。うお、これは……見ちゃまずかったな。うひぃ、こいつぁ、センシティブだな。うん、なんだろうえっと、うーん。
……ごめん中ノ崎。今度なんか奢るからその、許さなくてもいいんで、その、ごめんなさい。
だが、中ノ崎がどういうことを思って生活していたのかは分かったぞ。中ノ崎の見方も随分変わった──いい意味でも、悪い意味でも。
♢♢♢♢♢
クロスバイクを全力で漕ぎ鬼勇駅に着いた。良篠駅行きの電車に乗る。5分も待たずに電車が来たのでラッキーだった。
車内はまあ、混み合っているという感じではないものの、人はそれなりにいた。とりあえず椅子に座ることにした。両隣には人はいないが、帰宅ラッシュの時間帯なので、そろそろ人が増えてきそうだ。
しかし……中ノ崎は無事なのだろうか。いや、現時点では無事ではないけど、無事にこちらの世界に帰って来れるのだろうか。
ああっ、くそ。心配したってしょうがないがぁ……。もし、中ノ崎が帰って来なかったら?
入学してまだ1ヶ月も経ってないのに、行方不明者が出たら……?そして、その行方不明者と唯一接触があった僕も、なにかしらの疑いをかけられる……家にも侵入したしなぁ。
やばいな、まあ、ここまで考えていなかったとはいえ、覚悟はしたしな。ああ、でもなぁ、もっといい方法とか、色々……。
「このお兄さん、なんかめっちゃブツブツ言ってるし、なんか目とか死んだ魚の目みたいだし、どうしたんだろ」
「んあ?」
誰だろう……と前を見てみる。『このお兄さん』『ブツブツ言ってる』『死んだ魚の目』──まあ僕のことだろうな。両端に人いないし。
見てみた結果は、なんと女子小学生だった。小学生というのは僕の感覚でしかないが、まあ高学年の小学生だろう。中学生──と、言われても納得はできる背丈と顔立ちをしているが、なんとなく小学生だということにしておこう。
やれやれ、なんだ?このガキ。
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次回はネタ回みたいな感じです。今回結構真剣だったので息抜き回です。




