第18話 おまじない
いやー、今回のお話は、結構深夜テンションみたいな部分があるかもしれませんが、ご了承くだしゃあ。
あと、今回は途中で中ノ崎がかなり長く語るシーンがございますが、そこでは創一の心の声とかは出てこない演出になっていますので。決して、手抜きなのではございません!!
ふむ、なんなんだ?この文。まあ、この文章の意味をそのままで捉えたら、箱──というものがどういう物なのかは分からないが、そこに中ノ崎がなんらかの手紙を入れたら返信が届く──ということだろう。
……いや、普通に怪奇現象じゃねぇか!もっと早く気づけよ中学2年生の中ノ崎二那!
まあ、中ノ崎は割とオカルトとか信じるっていうか、夢中になるタイプの奴だから、そこに気付かなかった……とか?
さて、こういう時は本人に訊いてみるか。この怪奇現象──中ノ崎の『中二病』に繋がるかは分からないが、日記から判断するにこの出来事がなんかしらで関与している可能性は十分にある。
「なあ、中ノ崎よ。この、『手紙を箱に入れたら勝手に返事が来る』ってなんだ?そのまんまの意味で捉えると、普通に怪奇現象なんだが」
「あー?あー、ああ、それ……ね」
なんだそのよく分からない反応は……。一応思い出したようだが。
「それは、いわゆる私の黒歴史よ。黒歴史に加えて、恐怖体験……みたいな?」
「んん……分かんないからもっと具体的に教えてくれよ」
今の曖昧すぎる言い方だと何にも分からない。
「うーんとね、まあ、実物を見てもらった方がいいかしらね」
中ノ崎はそう言うと、ベッドの下からお菓子が入っていたであろう四角い箱を取り出した。箱──というよりは、缶である。見ただけではなんの変哲もない、缶。
いや、ベッドの下に置いておくなよ……。今時、中学生でもそんなとこにスケベェな本とか隠さないぞ。今はもうスマホ、パソコンでみんなそういうのは見るのかな?
しかし、中ノ崎にとってこの缶はなかなか見られたくないというか、遠ざけておきたい存在だっただろう。
「これが、例の箱?ってやつか?」
「ええ、そうよ。ここに手紙を入れてたわ。手紙の内容は色々だけど、悩みとか、その日あったこととか。そういうことを書くのよ」
「具体的には何を書いていたのか教えてもらってもいいか?」
「………」
ん?なぜだろう、中ノ崎は急に黙った。普通に推測するに何を書いていたのかを教えたくないのだろう。
「雪宮君。私はあなたを信頼しているわ」
「う、うん。急にどうしたんだよ」
なんだよ、少しむず痒いじゃないか。急にどうしたんだ?
「雪宮君とは出会って1週間ほどよね。本来の私と会ったのなんて2回目よね?なんで雪宮君とここまで仲良く──なのかな?まあ、私は仲良くできてると思っているのだけど、仲良くなれたのかは分からないわ」
「それは確かに僕も思う。なんで僕、お前とこんな早く仲良くでたのかなって。ほら、僕ってあんまり口が達者な方ではないからさ」
僕が元々、中ノ崎に入学式の日話しかけたのは、高校の初動って隣の奴に話しかければどうにかなるのではないか。という浅はかな考えだったのだ。
それが約1週間でこうなるとは……いまや、僕は中ノ崎の一人で住んでいる家に加え、家族が住んでいる家の方にもお邪魔してしまっているのだ。
僕が『想霊』を知っているから──というのが、当然原因の一つではあるのだ。
昨日の夜、中ノ崎を助かると宣言したのは確かに僕である。いや、だからって早すぎないか?とは思う。
運命──なのかな?って、何言ってんだろ僕。脳内だからって気持ち悪いぞ。
「そうね、これは運命かもしれないわね、気持ち悪い雪宮君」
「こいつ!僕の脳内を覗きやがったッッ!」
いや、普通に怖えよこいつ。ギャグだからって人の脳内を読む能力を一時的に得てるんじゃない!
「まあ、冗談は置いといて、雪宮君には、私の『中二病』の解決に繋がるかもしれないから、この箱の話をするのだけど、その時に、どうしてもやっぱり、世間一般ではバカにされるというか、そう思われるような発言があると思うの」
「そこで、雪宮君には無理を言ってしまって悪いのだけど、私のことを──笑わないで欲しいの」
バカにされたくない。それを僕に、いちいちなんていう言葉を付け加えてしまうと、それが悪いことのように思えるかもしれないが、いちいち言うってことは、よっぽど中ノ崎にとって嫌なことなんだろう。
「……笑わないよ。お前がめちゃくちゃ面白いエピソードを出してこない限り、笑わない。お前をバカにするような笑いはしないと誓おう」
面白エピソードがでてきたらまあ、笑っちゃうかもという保険をかけておく。
「ふふふ、ありがとう。無理言っちゃってごめんね」
中ノ崎は手で口を覆いながら笑う。あのダークな日記をみた後だからだろうか──こいつの笑顔が眩しく、とても価値のあるものに思える。
しかし、バカにしないとは宣言したものの、実際心の中では、内容によってはバカにしてしまうということもあるかもしれない。
僕だって人間だ。頭ではバカにしてはいけないと思っていても、偏見などがあるせいで心の中ではバカにしてしまうということがあるかもしれない。
だが、僕は中ノ崎の友達──バカになどしてたまるか!そういう心意気でいる。
「じゃあ早速話してくれるか?この箱のこと、手紙の返事が来る怪奇現象について」
「分かったわ。少し長くなるかもしれないから覚悟してちょうだい」
大丈夫だ。夏世とふざけ合う方がよっぽど体力使うからな。
♢♢♢♢♢
「箱にね、手紙を入れるのよ。手紙の内容はさっき言った通り、悩みとか、それこそ日記みたいな内容とかね。そしてね、箱を開いて、手紙を入れる前に呪文を唱えるの。今はなんて呪文だったのかは忘れちゃったわ。随分前だからね」
「ん?どこで知ったんだ?そんなの、って顔してるわね雪宮君。ネットで調べたのよ。ほら、私って結構オカルトとか好きだからね。そういうの調べてた時に出てきたのよ」
「なんでやったのか──という問いが二つ目に出てくると思うの。まあ、好奇心っていうのも一つの要素なんだけど、それより大きかったのがね、この一連の行動──まあ、『おまじない』とでも言おうかしら。これのね、目的っていうか、コンセプトはね、存在していないものから手紙が届くっていうものなのよ。例えば、亡くなった人から手紙が届くとか、神様、妖怪とかから手紙が届くとかね」
「私?私はね、別に死んだ誰かでもなく、神様でも妖怪でもなく──存在しない友達に書いたわ」
「いわゆる、イマジナリーフレンド?ってやつに近いのかな?当時の私はその単語を知らなかったのだけど……何?意外?過去の私にも知らないことがあったのかって?そりゃあるわよ。雪宮君は私をなんだと思ってるの?」
「まあ、それは良くて。なんで存在しない友達に書いたのか──まあ、ぶっちゃけちゃうと、私、友達が少なかったの。いや、はっきり言うなら、いなかった。雪宮君はなんとなく、私の今までの発言とか、日記の内容からなんとなく私に友達が少ないんだろうなってことは察してたと思うけど」
「『中二病』になる前は特にいじめられるとか、そういうのは特になかったけど、友達──と呼べるような人はいなかったわ。部活は陸上部だったけど、部員が多い中、私は友達が出来なかった。部活帰り、部活がない時の帰宅も一人だったわ。まあ、自転車通学だから一人でもそんなに違和感はなかったと思うけどね」
「なんで友達が出来ないのかは、過去の私には分からなかった。今思うと、確かに人を少し見下してるっていうか、自分より優れていない人たちが群れていて、それを見て過去の私は馬鹿馬鹿しいと思ってたわ。いや、本当は私はそれに混ざりたかったのかもしれないけど、なんでだろうね。とにかく、私は集団に馴染めなかった」
「昔──小学1年生の時とかは、友達は普通にいたと思う。あの時はよく分かんないけど、出会ったら友達みたいな感じ、あるわよね。それなのに、周りとだんだん趣味とか、成績の差とか、私が単にコミュ症とか、色々な要因があると思うけど、だんだん人がいなくなっていったわ。でもね、私、幸運なことに顔はよかったの。見た目だけならみんなのヒロイン──みたいな?」
「……自分で言うな?まあそうね。でも私、実際自分の見た目には自信を持ってるわ。まあ、告白とかはされたことはないけれど。でも、あの男子は私のこと好きなんだなーみたいなのは小学校ではあったわ。まあ、それもその男子を好きな他の女子に恨まれる原因になっちゃうんだけどね」
「綺麗なのも難儀なもんだな?──まあ、そうね。ってことは雪宮君は私のことを綺麗って思ってくれてるのかしら?」
「……ふむ、その回答、実に雪宮君らしい回答だわ。自分が恥ずかしくなりすぎず、適度に私を褒めるみたいな。ん?拗ねちゃった?ふふっ。ごめんね」
「話が脱線しちゃったわね。とにかく、私には友達がいなくて、群れるのなんて馬鹿馬鹿しいとは格好つけたい自分もいたけど、でも、心ではでは友達が欲しかったっていう気持ちはあったわ」
「この矛盾した気持ちをどうやって解決しようかと思ったら、友達が少しできればよくない?っていう一つの結論にたどり着いたわ。友達は多すぎると嫌だけど、全くいないのは寂しいから少しでも友達を作れば寂しくはないってね」
「でも、私は友達が作れなかった。中学1年生。中学に入れば勝手に友達の一人や二人ぐらいできると思ってた。私の中学校は私の小学校ともう一つの小学校の合併だったから、他の小学校の子が仲良くしてくれるかなとか、そういう考えがあったわ」
「確かに、入学当初、同じクラスの子は話しかけてくれたけど、だんだん離れてったわ。中学1年生の終わりにはまた一人になった」
「当時の私がかなりニッチなオタクだったりして、話が合わなかったりしたからなのかな。私も深追いっていうか、離れていったクラスの子に話しかけるとかはしなかったわ。まあ、こういうのが友達がいない原因なんでしょうね」
「だから私はまたまた考えたの。どうしようかなって。そんな時にネットでこの『おまじない』を見つけたのよ。これをやることで、友達がいないストレスとか、不安、ぼっちで辛いことを手紙に書いてストレスを発散すると共に、本来いない友達に手紙を書いて、友達を作ったのよ」
「『おまじない』はね、最初、正直なところ、成功すると思ってなかったのよ。なんでかっていうとね、所詮、ネットの情報だから、成功できるとはあんまり考えていなかったわ」
「でもね、成功しちゃったの。その次の日ね、箱を開けてみたら、手紙が箱の中に入ってたのよ。びっくりしたわ。まさか成功すると思ってなかったからね」
「その手紙の内容──今思えば、かなり『中二病』に関係してるかもしれないわ。なんで今まで気づかなかったのか不思議ね。ああ、ごめんなさい雪宮君。なんのことか分かんないわよね」
「何かっていうとね、その手紙の内容っていうか、話口調が中二病だったのよ」
♢♢♢♢♢
手紙の返事の話口調が中二病?これは新事実だな。
中ノ崎の中二病要素は今まで──いや、『群れるのが馬鹿馬鹿しい』という発言はなかなか痛い感じであるが、今まで特に目立った要素がなかったから、これはなかなか大きなヒントになったな。枯井にいい感じのバトンを渡せそうだ。
「具体的には実物の手紙見せた方がいいのだけど、実はね結構前に不気味だからって捨てちゃったのよ」
ありゃ、実物があれば確かに助かりはしたのだが、ないなら仕方ない。
「でもここまで話したことは全て事実よ。まあ、自分で話しててこんなのが事実なんて嫌だけどね」
まあ、悲しくはなってしまうが、事実なんだろうな。だからへんな疑いはかけない。
だが、ここでひとつ気になったことがある。
「でも、その箱は捨てなかったんだな」
「うん?ああ、確かに。捨ててないわね。なんでかしら?」
いや、知らんが。まあ、証拠物品というか、枯井に見てもらえるようにしようか。まあ、こいつがヒントになってくれるのかは分からないけどな。
「じゃあこれを枯井に見せてもいいか?手紙はないにしろ、この箱から何か分かるかも知らないしな」
「ええ、構わないわ。枯井さんも……ここに来るの?」
「そりゃ、その方が良さそうではあるが……」
うーん、あいつをここに呼ぶのか……。見た目はよく見えるが中身は変人そのものだからな。中ノ崎の家族と絡むと面倒くさくなりそうだ。
いや、中ノ崎の家族が面倒くさいというよりは、枯井才という奴が現れると面倒くさくなりそうってだけだ。
「まあ、来てもらって全然構わないけど……」
そりゃ助かるな。まあ、助かるのは中ノ崎だが。
「ふう。過去のことを振り返って少し疲れちゃった。雪宮君も疲れたでしょう?」
「ん?ああ、疲れたっちゃ疲れたな」
ここまで中ノ崎(中二病)の相手とかしてきたし、昨日も寝るの遅かったし、悪夢見るしで、疲れてはいる。
「他にヒントになりそうなものあるかしら?」
「うーん、もうちょっと探してみるか。協力してくれるか?中ノ崎」
「もちのろんよ。私のためにやってくれてるんだから私が協力しないなんておかしいからね」
その後、中ノ崎の部屋の調査とか、さっきの日記を見たが、特に『中二病』に繋がりそうなものはなかった。
ただ、日記をもう一度みたところ、一時的とはいえ、中ノ崎はあの『おまじない』にかなりハマっていたようだ。
『今日は〜について書いたよー』みたいな文章、書いてる時のテンションもなんとなく伝わるのだが、楽しそうであることからそれが分かる。
ただ、こういう儀式的なものにハマるというのはかなり怖い感じはするけどな……。
ついでにネットで『おまじない』について中ノ崎と色々調べてみたが、過去に中ノ崎が見たであろうページが見つからなかった。
『おまじない』と近しいことを書いてある他のページもあったが、ネットの情報なので、完全な信用は出来ないので切り上げた。
こういうのは枯井が一番詳しいだろうしな。枯井に聞くのがいい。
だがしかし、あいつ、いつ家に戻るんだろう。多分、どこかで仕事中だとは思うのだが……。そうだな、今日の日中、少しあいつの家を見に行ってみるか。
「ふぁぁぁ。ゆきみやくぅん、疲れたでしょ?」
中ノ崎は大きく欠伸をする。僕もつられて欠伸をしてしまった。中ノ崎も疲れてるようだ。
「ああ。割と疲れてはいるな」
「んじゃあ、寝よっか」
「………は?」
寝る?寝るって、中ノ崎家で!?おいおい……マジかよ。
次回は寝ます。7月中の投稿を目指します。お楽しみに〜
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