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第16話 修羅場

 こんな夜遅くの投稿になってしまい申し訳ありません!(現在7月14日22時16分)


 いやはや、ノルマは7月14日ですからね。何時とは言ってませんから……っていうひねくれは置いといて、僕もしても早めに投稿した方がいいとは思っているのですが、間に合いませんでした。反省いたします。


 では本編をどうぞ。

 中ノ崎(本来)と2度目になる夜の街歩き……。まあ特に緊張も何も感じではいないのだが、これから行く修羅場に怯えているのは確かだろう。


「雪宮君、喉乾いてないかしら?」



「喉?んまぁ少し乾いてるかな」



 中ノ崎に買ったばかりで、僕は何も自販機で買ってないし、何か飲み物を持ってきたわけでもないから喉は乾いている。



「じゃあ、さっき買ってくれた水、まだ少しあるからあげるわ」



 こ、こいつ!まさか間接キスとか気にしないタイプのやつなのか?



「い、いやぁ、悪いよ」



「悪い?何を言ってるの?この水、雪宮君が買ってくれたのよ?それを分けるんだから悪いなんてことないでしょ」



 そういう話じゃないんだよ〜。確かに、『悪い』というワードは確かに謎ではあるものの、そこじゃないんだ、中ノ崎二那よ。



「いや、その、えっと、か、」



 やべぇ、言っていいのかなこれ。



「か?」



 言うしかなさそうな雰囲気だ。クソ、笑うなら笑え!



「間接キスに……なっちゃうだろ?」



「ぷっ」



 中ノ崎は吐き出すように笑い、口に手を当てる。一瞬、『我慢しようかな?』という葛藤があったが堪えきれず諦めたって感じの笑い方だ!



 笑われた!笑いたければ笑えとは言ったものの本当に笑われるとは思わなかったぞ!



 くっそ!なんか悔しさというか、体の芯から熱が!羞恥心が!溢れてくる!



「雪宮君って、意外とそういうの気にするのね」



「お前は僕のことをなんだと思ってるんだよ……」



 別に僕は人が口つけたものを食べれないとかそういう人ではないので、水を飲むことはいいのだが、異性が──中ノ崎が口をつけたものを飲むということにはなぜか抵抗が生まれてしまう。



「私の間接キスを狙って黙って飲むという選択肢もあったはずなのにそれを選ばなかったのは評価に値するわ」



「……わざわざ狙わないよ」



「別に狙ってもいいのよ?」



「えっ?」



 えっと、それは……どういう意味だ?中ノ崎は僕の『わざわざ狙わない』という発言に対して『狙ってもいい』と言ってきた。これは──なにか意味を、何かしらの意図があるのだろうか?



「ふん、忘れてちょうだいな。とにかく、飲むの?飲まないの?どっち?」



 ど、どうする……ここまできたら飲んでしまおうか。『狙ってもいい』というのがどういう意味を含んでいるのかは正直わからない。



 だが、喉が乾いてるのも事実。しかし、所持金は自販機で何か買えるほどはない。中ノ崎に借金をしてまで買うのもありだが、それはそれで、『せっかく間接キスを許してあげてるのに飲まないんだ』と、心の中で中ノ崎に思われてしまうかもしれない。


 いやいや、その理論は中ノ崎が()()()()()()()()()()()()という不思議な前提の上で成り立っている。だからどうなんだ……?


 ああ、くっそ、もう分からない。ただ喉が乾いたという欲求には逆らえない!決して間接キスがしたいわけじゃ……ないぞ!



「の、飲みたい。飲ませてくれ。僕は今、猛烈に喉が乾いてるからな」



「ふーん、分かったわ、飲ませてあげる」



 中ノ崎の『ふーん』には、僕を哀れだと、気持ちが悪いと見下している気持ちが入っているようにも感じた。



 だが、その一方でなんだか嬉しそう──なのかな?いや、これは気のせいかもしれない。忘れてくれ。



「はい、どうぞ」



 中ノ崎はさっき僕が買った500mlの飲料水のペットボトルを渡してきた。水の量は残り半分ほどである。



「全部貰ってもいいか?」



「ええ、構わないわ。私はもう喉、潤ったから」



 全部貰ったのは、僕が中途半端に残して中ノ崎に返したところで中ノ崎は僕の後に飲むのが嫌かもしれない──という判断もの下である。


 自分の後に飲むのはいいけど、自分が誰かの後に飲むのは無理という人もいるだろうしな。



 僕は中ノ崎からペットボトルを受け取り、ごくごくと水を飲み、喉の乾きを潤す。



 やっぱり喉の乾いている時の水が一番美味い。最高の乾き──というやつだろうか。お酒とかのCMなどでこのキャッチフレーズはあった気がするが、僕は未成年なので、それを飲料水で感じている。



 しかし、これで──よかったのだろうか。中ノ崎と結果的に間接キス……。


 いやいやいや、そんなこと気にするな!そんなことをいちいち気にするなんて、まるで僕が童貞みたいじゃないか!いや、童貞だけれども!



「随分、美味しそうに飲むのね雪宮君。いい画になってるわよ」



「そりゃどうも」



 まあ、『どうも』とは言いつつ、別に嬉しくもなんともないけどな。


♢♢♢♢♢


 その後、中ノ崎と雑談しながら夜の街を歩いた。歩いて10分も経たないぐらいだろうか、表札に『中ノ崎』と、書かれた家に着いた。『中ノ崎』という苗字はなかなかいないだろうから、まあここで間違いないだろう。



 家の様子はグレーと白を基調とした、落ち着いた感じで2階建で、横にかなり大きい。



 いや、大きさを雪宮邸と比べてはいけないが、世間一般的に見れば大きな家だろう。雪宮邸に住む前まで住んでいた両親が建てた家よりは大きそうだ。



 なんというか、綺麗である。シンプルでどこにでもありそうな家なのに、オーラがあるというか、いわゆる『エリート』と呼ばれる人達が住んでいるのを知っているから──という補正もあるかもしれないが。



「ここか?お前の家」



「ええ、ここよ。ここに()()()()()住んでるわ」



 その言い方じゃあ、まるで中ノ崎二那(お前)()()に含まれていないような言い方だ。いや、たまたまそう僕が解釈してしまうような言い方をしてしまったかもしれない。



 『家族が住んでいる』なんて、普通に言えば突っかかることなく、特に気にすることなく、記憶にも残らないだろう。



 だが、そこが突っかかると感じてるのは、このセリフを言っているのが中ノ崎二那だからだろう。こいつの事情を知っている僕だからそんなふうに感じてしまうだけなのかもしれない。



 中ノ崎からしてみれば、大した意味など含まれておらず、普通に言っただけなのかもしれない。いや、きっとそうだろう。今の僕の意見はただの僕の偏見というか、勝手な、非常に勝手すぎる考えなのだ。



「どうしたの?雪宮君。緊張してる?」



 んん、考え事をして少しぼーっとしていたのを見られて、緊張してると思われてしまったかな?いや、実際緊張はしている。



「そりゃぁ、女子の家なんてなかなか行かないし……」


 まあ、()()()()でも緊張しているわけだが。



「大丈夫よ。昨日()()()に来たじゃない。なら大丈夫よ。『女子の部屋童貞』は卒業したんだから、童貞の雪宮君大丈夫よ」



「童貞に種類を作るな!」



 間接キス童貞も卒業したのかな──って、おい。くだらないことを言うんじゃないぞ僕よ。今から行くのは修羅場かも知れないんだぞ……。



「ふふ、元気そうね。緊張もなくなってくれた?」



「ははっ、まあな」



 今のは中ノ崎なりに僕をリラックスさせようとしてくれたのかもな──いや、もっといい方法無いんですか?



「じゃあ、行きましょうか」



「お、おう」



 中ノ崎は玄関の前の階段を登り鍵を出し、鍵を開ける。


 鍵をを持っている──いや、当然のことだが、あれだけ他人の家のように言ってたというか、僕が勝手にそう解釈しただけなのだが、なのにちゃんと鍵は持ってるんだなという感想を持った。当然なのだが、なんだか不自然だ。



「雪宮君。お邪魔しますって言ったあとは私の部屋に行くまで特に話さなくていいからね」



「あ、ああ。だが中ノ崎よ。何かお前のご家族から質問とかされた時はどうするんだ?無視しろってか?」



 名前とか聞かれたとき、無言というのは失礼極まりないだろう。僕がもし名前を尋ねて無視されたら多少なりとも、むっとなってしまうだろう。



「……その時は私が対応するから。雪宮君は何も話さなくていいわ」



「なんでそんなこと言うんだ?」



「雪宮君は──雪宮君は……きっと、余計なこと言っちゃうから」



「余計な……こと?」



 僕ってそんな余計なこと言っちゃう感じの人だったっけ?自覚がないだけで案外そうなのだろうか?



「いや、ごめんなさい。言い方が少し悪かったわね。雪宮君はきっと私の味方をしてくれるから」



「………」



「雪宮君は私の事情を理解してくれてるでしょう?私の事情をよく思ってるか悪く思ってるのかは別だけど、少なくとも味方っていうか、もし家族と口論になった時に私を庇うような意見を言ってくれると思うの」



 それは……そうだが。僕を信頼している……ってことか?これ。信頼して、味方してくれてるからこそ、黙っていろ──と。



「まあ、そうだな。そのつもりだ。だが、お前の味方を──お前を援護っていうか、お前を庇うようなことを言ってはいけない理由はなんだ?」



「それは……私のくだらないプライドというか、雪宮君にその、首を突っ込まないで欲しいっていうか……」



 まあ、言いたいことはわかる。普通に家庭内の事情に──たとえ『想霊』が絡んでいたとしてもだ、中ノ崎家の事情に僕という他人が関わるべきではないのだ。



「分かった。黙ってるよ。だが、僕はお前の味方だからな」



「……ん?」



「いや、まあ、その、お前が両親とかになんか言われても、僕は何もできないが、何もできないがお前の味方ではいる──みたいな?」



 我ながら言いたいことが上手く言えないやつだ。下手くそだな、喋るの。



「ふふっ、雪宮君にしては頼もしいわね」



「一言余計だ」



「おや、『頼もしい』って部分が余計だったかしらね」



「お前、それ一番肝心なところ!それ抜いたらもう文章じゃないよ!」



 ったく──まあ、中ノ崎二那(こいつ)らしいな。


♢♢♢♢♢


「じゃあ、行くわよ。『お邪魔します』以降、私の部屋に行くまで喋らないでね」



「分かったよ。肝に銘じとく」



 ついに中ノ崎家に入るのだ。緊張はするが、何も話さなくていいというのは、自分で言うのもアレだが、過保護な僕にとっては辛い──が、自己防衛的な意味では楽である。



 中ノ崎はドアノブに手をかけ、玄関のドアを開ける。



 時間は0時過ぎ。普通の高校1年生が帰宅するには遅すぎる。しかも友達を連れてだ。異常だ。あまりにも異常。


 何を言われても正直仕方ないとは思うが、中ノ崎の体の自由はこの時間帯にしかないのでしょうがない。



 玄関のドアが開き、中ノ崎家の中身が見える──と、同時に一人の男性が見えた。きっと外で話していた僕と中ノ崎の声を聞き、待機していたのだろう。



 男性の見た目はメガネをかけ、少し痩せ気味に見える体型で、年は50は超えていなさそうな感じである。顔は整っており、『イケおじ』とはこういう人のことを言うのだろうという顔立ち。



 そのイケおじの表情はと言うと、笑ってはおらず、はたまた怒ってるわけでもなく、突然の来訪者に困惑しているわけでもなく、その男性の表情は岩のように固まっており、喜怒哀楽が感じ取ることができない表情だ。



 ポーズとしては腕を組んでいる。腕を組んでいることから、苛立ちなども感じ取れるかもしれないが、それ以上にこの男性の表情と言ったら、何にも読み取れない、いや、読み取る以前に感情がないのではないかと疑ってしまうほどだ。



 男性のことを気にしつつ、僕と中ノ崎は家の中に入り、玄関のドアを閉める。



 さっきから『男性』と僕は呼称しているが、この男性は──



「あら?お出迎え?()()()()



 そう、中ノ崎二那の父親である。中ノ崎二那の父親──『天才』、『エリート』と称されるような人物であると、事前知識で知っている。



「……二那こそ、こんな時間に来るなんて。何時だと思ってるんだ?」



 声は低く、厳格な父親という感じの声である。怒りを感じさせる声ではなく、諭すような、かと言って優しくもない声である。なんなんだこの人……計り知れない『何か』がある気がする。



「ごめんなさいね。私、体が自由に動かせるの、この時間しかないの」



 『ごめんなさいね』なんて、まるで()()に話すような話し方だなと感じた。こいつは『中二病』になる前もこんな感じの話し方を親にもしていたのだろうか?



「………そうか」



 中ノ崎の父親の声は急に変わった。『変わった』というのは具体的には、うんざりして、呆れているという感じに変わった。



 それはきっと、中ノ崎の『中二病』を理解していないからだろう。


 今回の場合、『0時から6時までしか体が自由に動かせない』というルールについてであろう。それ以外は中二病の言動をしてしまうと言うのだからそれは『おかしい』という以外の何者でもない。



「なぜ帰ってきた?」



 ………おいおい、その質問しちゃっていいのかよ。


 いや、言いたいことは分かる。『こんな時間にどうして急に帰ってきたんだ』ということが言いたいのだろう。でも、そんな言い方……少しないんじゃないか?


 まあ、事前に連絡をしていないんだろう。その点については中ノ崎が悪い。別に昨日の体が自由な時間にでも連絡しておけばよかったのに。流石に親の連絡先は持ってるだろ。



「自分の家に帰るのに理由なんているの?」



 中ノ崎二那はそれに怯む──というか、動揺することなく会話を続ける。



 正論だ。こいつが今言ったことはとても正論だが、家出のような形で引っ越したこいつが言う台詞ではないような……。



「そうか。二那、後ろの人は誰だ」



 うおっ、急にきたな。しかし、自己紹介はできないので、



「お、お邪魔します」



 いや、もう家の中に入っているのだから『お邪魔しています』という言い方がベストなような気もするが、まあいい。



「この人は私の……クラスメイトで、()()……そう、友達よ」



 どうして2回言ったのやら。



「友達……か。そうか」



 なんか少し意外そうな表情をする中ノ崎父。種無し葡萄に種がたまたま入ってたときみたいな顔である。



「なぜ友達をこんな時間に連れ回すんだ?」



「いいでしょ別に。友達なんだから」



 いや、これはお父さんが正論だぞ。『友達』っていう単語はそんなに便利な単語ではないぞ。



 というか、めちゃくちゃ今更なのだが、この二人、『ただいま』と、『おかえり』をどっちも言ってないじゃないか……。



 普通、家族ってのは、帰宅したらそれぞれこの二つは言うはずだぞ?



 僕だって、両親や、妹たちに同じように言っている………



 いや、僕にも例外を見つけた。雪宮家だ。雪宮家の人間に僕は『ただいま』なんてほとんど言わない。


 小町や、つばめは例外だが、雪宮家に存在している僕の親戚、僕を嫌な目で見てくる使用人たちに『ただいま』なんて最近は言わなくなった。それはそいつらが『おかえり』と言ってくれなくなったからだ。



 挨拶というのは大切なコミュニケーションの一つだ。それをしないってのは人間関係がかなり終わっている証拠だとは思う。



 まあ、この二人の場合、いきなり口論のような形で会話が始まってしまったというのもあるだろうが、それにしても『ただいま』『おかえり』を言う雰囲気ではないのはかなり重症だと思う。



「友達だからって、こんな時間まで連れ回してはいけないぞ」



 うん、正論だ。まあ、僕としては別にいいんだがな。家に居たくないし。



「知ってるわ。でも彼──雪宮君は一緒に来てもらう必要があるのよ」



 いや、そうなんだけど、説明不足が過ぎないか?普通のお父さんなら、友達──しかも男を娘がこんな時間に連れてきたら不信感を抱くだろう。僕でも抱くね。



「そうか。君はいいのか?」



 ん?僕?うーん、答えたいが、それは僕の目の前にいる中ノ崎二那(こいつ)に制限されてるせいで話してはいけないのだが……どうしよう。



「そんなことはどうでもいいわ。ちゃんと同意は得てるから。どいてくれるかしら?私は私の部屋に用があるのだけれど」





「………好きにしろ」




 うわうわぁ、しゅ、修羅場じゃねぇか。中ノ崎ってば言い方が少しきついぜ。中ノ崎父も、なんか少しキレ気味だし……。中ノ崎に押されているのではなく、余裕だが、これ以上口論するもの馬鹿らしいから、引いてやったみたいな感じである。



 やばい、消えたい。このまま壁にでも溶け込んで消えてしまいたい!



 はぁ、これ大丈夫なのかな?

 やっと中ノ崎家の話が書けた……。この修羅場を書くのは結構楽しいです(笑)。


 『ただいま』と、『おかえり』は皆さんもちゃんと言いましょうね。まあ、僕の読者の良い子の皆さんはちゃんと言ってると思いますがね。


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、いいね、星5評価をどうかお願いします!


 いいねしてもらえると、ほんとにモチベが上がるので、是非よろしくお願いします!


 あと、Xのアカウントもあるので、よければそちらもフォローお願いします!


 次回は7月20日までに投稿します。もしかしたら20日より早くなるかもしれませんが、お楽しみに〜。

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