灰被家③
帰宅した父親は、リビングにて向かい合う自身の妻と息子の異様な雰囲気に思わず首を傾げる。
「新、『これ』は何?」
「ん?新のスポーツタオルじゃないか?洗濯機に入れ忘れたのか?まあそんなこともあるさ。母さんもそんなに目くじらを、」
「新、答えなさい。これは何?と聞いているの」
「……、」
新は、母親によって机に置かれた何の変哲もないスポーツタオルを見つめながらだんまりを決め込んでいるようだ。
「…?まあまあ、今日は俺が代わりに洗っておくから、新も今後は気をつけて、」
「「ダメッッッ!!!」」
「痛ーーっ!?」
よく分からないまま対立しているらしい二人を諫めようと机の上のスポーツタオルに手を伸ばすと、二人して凄い剣幕で手を弾かれる。一体何だというのだ。
「──っ!やっぱりね!新!貴方これ、『そう』なのね!!」
「っ…!!!」
「痛ぁ……、何だ?全く話が見えないんだが…」
「ふっ。毎日洗濯を繰り返しているプロウォッシャーの鼻は誤魔化せないわよ。…これは、ズバリ真白君の使用済みタオル!!」
「くそっ!!」
ダンッ!
母親からの指摘に、新が堪らず拳を机に打ち付けた。タオルの横に謎に並べられていた空のジップロックが振動で少しだけ動く。
「真白君の使用済みタオル!?」
「ジップロッ○で密封して隠し通そうとしても無駄よ。こういう貴重品は必ず家族会議で提出するように言ったじゃない!何故守らないの!私達は貴方の恋を応援したいだけなのに!」
「変態臭くて恥ずかしいからに決まってんだろーが!!!」
「変態じゃなかったらそもそも大事にジップロッ○に真白君の汗付きのスポーツタオル入れないでしょうが!!」
「正論!」
大体状況が掴めた。
……しかしそうなると、新と同じ男として気になることが1つ。
「待ってくれ母さん!!…待ってくれ。母さん」
「お父さん…?」
言い合いを止めた父親に、二人の視線が集中した。
「新。……もうこれは使用済みなのか?」
「何を言ってるのお父さん?だからこれは真白君が……──っは!!」
「もう洗濯してもらって結構ですーー!!」
急に席を立って自室へと駆け出した新の背中を追いかけるように、かわるがわる両親の声がかけられる。
「ちょっと待ちなさい新!まだ話は終わってないのよ!!使用済みなの!?健全に自室で使用済みなの!?」
「本当にもう悔いはないのか!?本当に洗ってしまうぞ!!」
「うるせーー!!大声出すな!!隣に聞こえたらどうすんだよ!!!!!」
誰よりも大きな新の声が、家中に響き渡った。