鼠入宙太からの謝罪
「ごめん大路!!俺勘違いしてた!!」
「鼠入君…、」
例の人気のない階段へ、新君がやけに落ち込んだ様子の鼠入君を連れてきたのは昼休みの事だ。
鼠入君は僕を見るなり駆け寄って、体育会系らしい勢いの良さで90度頭を下げた。
「新が小さい頃からずっと一途に想いを寄せていたのがまさか大路のことだとは思わなくて!だって好きな人と付き合ったっていうのに新は初日の登校も下校も1人だし、偶然声かけた時大路が誘ってる風だった映画にも『一緒に行かない』って言うから俺、完全に大路は脈なしなんだとばかり…っ!まさか新が本命には奥手っていうか大路を好きすぎるあまり素直になれなくて素っ気ない態度を取るとか思っても見なかったんだよ!!
でも良く考えてみたら少し前の体育の授業直前、大路に手振られた後めっちゃ動揺してこけてたし、最近はソワソワしながらやたら自然な手の繋ぎ方を彼女持ちに聞きまわってたりして…、あれって大好きな大路と手を繋ぎたかったから聞いてたんだよな!もうホント俺って察し悪い!「手とか別に何も考えなくてもサッて繋げるだろー」とか、新がめちゃくちゃ緊張して大路と手を繋ぐことでさえ一大イベントなんだって事を全然理解出来て無くてそんな風に適当に答えちゃって…!ごめんな大路!もしかしたら数日間ぐらいは俺の雑なアドバイスのせいで手を繋げなかっ……え?まだ一回しか繋いでない?しかも止まった状態でほぼ握手みたいな感じ?……そっか。…そっか!まあでも新はすげえ大路と手繋ぎたいみたいだからさ!今度大路からも新に定期的に手繋ぎたいか聞いてやってくれ!新は大好きな大路に対して素直になれないから最初は「別に繋ぎたくない」とか言うかもしれないけどそれ嘘だから!本当はすんげ~~え手繋ぎたいの我慢してるから!俺が保証する!な!
あ!そういえば新の家でガラスケースに入れられて飾られてる靴、あれ昔新が無くしたのを大路が拾ってやったやつなんだってな?めちゃくちゃ嬉しかったんだろうなあ。随分前の靴な筈なのにピカピカで、定期的にちゃんと手入れしてるみたいなんだよ。
いやあ大路ってばすげえ新に愛されてるのに俺ってやつは…ホント、早とちりして改めて考えても邪魔するような事ばっかり…。本当にごめんな!?この通りだ!許してくれ!!新は大路の事大好きなのに!俺はそれに全く気付けなかった!新は大路の事大大大好きなのにっっ!!!」
「あ、新きゅん…っ!♡」
「…っ、……っーー!!!」
鼠入君から思わぬ裏話を聞かされ、感動にキラキラした目で新君の方を振り向くと、彼はまるで拷問でも受けているかのような苦悶の表情をして必死にその膝を折らないように耐えているみたいだった。
な、何が新君をそうさせてるんだ!?
頬の内側の肉を噛んで恥に耐えている新君。ここで宙太の言葉を遮って否定でもしようものならまた勘違いされるってわかってるから我慢してる。偉い。