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本編後すぐ②


なかなか泣き止まない新君を放置して解散するのは勿論論外。だけどそのまま外で慰めるのもどうかと思って、自宅に招待してから十数分。

暖房の効いた部屋で温かいお茶を飲む新君は、鼻こそ啜っているものの、少しだけ赤く充血した目にもう涙は見えない。しかし彼は涙を零す代わりに、今度は僕に対する今までの不満のようなものをつらつらと吐き出していた。


「ああいう時は、同学年で暇そうな俺が隣に居たんだからそっちに質問すべきだろ。わざわざ図書室出てまで『先輩に教えてもらう~』って…、何の当てつけかと思ったわ……、おい、聞いてんの?」


あ、やべ。何かもう存在が可愛すぎて話全然聞いてなかった。でも多分僕が悪いから全謝罪です。



──新君は僕のことが好き。


僕にとっては、もう何?もしかして明日世界滅びたりする?ってくらい衝撃的なニュースだ。家に殺到するマスコミ。溢れかえっておちおち外にも出られないよ。記者会見とか開くべき?

「灰被さんは大路さんの事が好きなんですか!?」

そうみたい。

「小学校の頃から想いを寄せているとのことですが!」

そうみたいなんだよ。新君が。夢みたいだよねホント。



心ここにあらずな感じで謝った僕にちょっとムッとした新君が、お茶を一口飲んでからまた続ける。


「…大体、いくら経験豊富な奴が好きだとしても、流石に俺に告った後に他の男に媚びを売るような真似は……ってだから聞いてんのかよ真白!?」

「新君僕のこと好きなんだぁ…」

「何十分前の会話で止まってんだ!好きで悪いか!あ゛!?」


ぽやんと呟いた僕に流石の新君も堪忍袋の緒が切れたようだ。真っ赤な顔をしてダン!とテーブルを叩く。


やばいやばい怒ってる。えっと何だっけ?経験豊富な人が好きだとか何とか…ってとこは何となく耳に入って来てたけど…。

っていうか──、


「経験豊富な人が好き、とか、僕そんなこと新君に言ってないよね?」

「…いーや言ったね。小2の時の帰りに言ってた。俺は聞いた」


腕を組んで自信ありげにする新君。小学2年生の帰り…ってことは、新君をおぶって帰ったあの日の事だろうか?うん。新君が言うなら絶対に間違いないよきっと僕は言ったんだそうに違いない。


そして新君はその情報を元に努力して経験豊富になろうと……、


「新君僕のこと好きなんだぁ…」

「いい加減にしろよお前!!」


危ない危ない。また思考が振り出しに戻ってしまうところだった。

でも仕方がないよ。だって本当に夢みたいなことだったから驚愕も驚愕だし…、何より同じくらいの時間新君も僕の事を想ってくれていたってことが嬉しすぎるんだもん。顔だってずっとにやけちゃってこれ戻らなかったらどうしよう!新君は近くにずっとニヤニヤした奴が存在してても平気な人!?


…おっと本気でまずいぞ!新君が顔を真っ赤にして震えながらまた涙目になってきてる!

何だったっけ!そうそう経験豊富経験豊富…!それを小学生の時に僕が言ったんだよね!うん絶対言った!覚えてないけど絶対言った!


えーーと、…でも、僕はどっちかっていうと相手に経験豊富さを求めるってより…、


「多分、それ、僕がなりたい人の話かも」

「は?」


それこそ新君のお父さんみたいな、常に冷静沈着で凛としていて、経験と知識の豊富さが余裕に繋がっている格好良い男性。


「そんな風になれたら新君に振り向いてもらえるかも、ってずっと思ってたし…。…そ、そういうわけで、これは他の誰かに求めているものじゃないっていうか!」


僕は気恥ずかしさを誤魔化すように、顔の前で忙しなく手を振る。

障害物のあるその視界の奥で、「じゃあ何のために俺はあんなことを…?」と途方に暮れる新君が見えた。


そうだよ。だから、経験豊富でもそうじゃなくても、


「僕は、どんな新君でも好きだよ」


虐められても動じない堂々とした姿勢が好きとか、美しいその見た目が好きとか、もうそんな次元はとうの昔に超えてしまっている。長い時間をかけて積もった想いは嫌いなところを探すことが難しいほどに、新君のやる事成す事、その口から出る言葉の一つ一つでさえ全て愛しさで纏められて僕の心に届くのだ。

つまりもう新君の事で受け入れられないことはないよ。準備は既に完了しているのさ。育児、介護を参考にしてあんなことやこんなこともシミュレーションしたけどむしろ「来なよ早く!!」の域だったよ。大丈夫全部僕に任せて。

言葉にすれば新君にドン引かれそうなこと(覚悟)を脳内で想像していると、目の前の新君から囁くような声で「俺も…」と聞こえた。


うん。やっぱり新君レベルになると自己肯定感も高いや。新君自身、自分がどんな自分であろうと自分の事が好きなんだね。そんな顔を真っ赤にして…、ふふふ。


照れを誤魔化すように手元のお茶を啜る新君を微笑まし気に眺めながら、僕はある一抹の不安が自身の胸を過ったのを見逃さなかった。



新君は、明確に揺らがない自分を持っている。自信に満ちているし、誰かのために一生懸命努力も出来る。素敵なところはもう星の数以上にあるのだ。


──でも、そんな新君に僕は釣り合っているのだろうか?



ガタッ!


「…っ!こうしちゃいられないっ!!僕も経験豊富になってくるね!!!」

「だからこの流れで何でそうなる!?もう一回泣くぞ!?」



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