本編後すぐ①
ぼたぼたと、夏の夕立にも負けないくらい大粒の滴を流す新君に駆け寄った僕は、真っ先に彼の両手をギュウッと包み込むように握った。
「わ、別れない!別れないよ!別れたくない!
僕も、小学生の頃からずっと新君だけが好きだから!!」
『別れるとか言うな』
『手を繋ごうとするのを避けるな』
どうやって慰めたらいいのか咄嗟に思い浮かばなくて、安直だが新君がさっき言ってくれた分かりやすい要望を叶えてみる。だけど新君はそんな僕の行動に一瞬目を見開いただけで、その後「あ゛ぁ゛あ゛あ゛~~」と喉が詰まった鶏のような唸り声を出しながら更に泣き出してしまった。
ああそんなに泣いて可哀想に新君…。どうしよ。僕も泣きたい。
犬の散歩をしつつ僕達の横を通り過ぎるご近所さんの目が痛い。多分明日には僕は「灰被さんちの息子を泣かせた極悪非道極まりない人間」としてここら一帯で名を馳せてしまっていることだろう。
やっぱり急に手を握ったのが悪かったかとゆっくり離そうとすると、「ギ!」と絶妙なファのシャープの音程で唸られたのでそれは違うらしい。寧ろこれは握っておかないと危ういやつだ。僕の第六感がそう言ってる。ついでに新君からの涙混じりの鋭い眼光もそう言ってる。
先程まで硬く握りしめられていたからか、それともただ単に外気温が冷たいからか、新君の手の平は酷く冷たかった。僕の手もそこまで温かいわけじゃなかったけど、その熱を少しでも分けてあげられるようにギュウッと力を込めて皮膚を触れ合わせる。
「…好きだよ。新君が好き」
想いを口にするたびに、身体の奥から痛いくらいに熱い何かが広がっていくのが分かる。
「大好き。一番好き。誰よりも、何よりも君が好き」
そしてそれが通じ合っていることを、徐々に温かみを増していく合わさった手の熱が伝えてくれていた。
新君がまだ泣いている最中だというのに、僕はじわじわと実感出来てきたそれが嬉しくて仕方が無くて、
幸福が形になったような声が喉を震わせるのを堪えることが出来なかった。