かくれんぼ、かくされたものとかくしたもの【夏のホラー2021】
「もういいかい」
少年はかくれんぼをしていた。みんなはまだだよ、と答える。
「もういいかい」
少年はもう一度、聞いた。もういいよ。みんなはそう答え、少年はみんなを探し出すために駆け出した。
広い山の上にある小さな小学校、ある冬のこと。放課後、みんなで遊んでいたとき、悪戯が好きな子が提案した。
あいつだけ、置いていけぼりにして帰ろうって。
ほんの些細な遊びだった。どうせ、暗くなったら俺たちを探すのをやめて帰るだろうって。
そんな安直な考え、子供らしいといわれそうだが、それが悲劇となった。
その子の家はおばあさんと二人で暮らしていた。両親は都会の方で働いていて病弱なその子を環境のいい田舎で療養させていた。
その日、大人たちが大騒ぎをしていた。子供がいなくなったと。
消防団のおじさんも、駐在さんも、辺りを探し回り、それでも見つからない。
翌日も、次の日も、そして一か月たっても見つからず、ついに見つかることはなかった。
かくれんぼをしていたみんなはこう言った。
いつの間にかいなくなっていた、と。
その村では神隠しの話があった。小学校を見下ろす神社の方で、昔から神様が神隠しして悪戯をしていたという古い伝説だった。
神様が連れて行った、そういう風に考える老人たち。誰かが誘拐したか監禁したかと考える駐在。どこかでケガをしていると思う消防団員。
そんな事件も見つからなければ、時が過ぎていき、毎年探すものもいるが、みんなは進級、進学をしていく。
高校はないから都市部へといき、華やかな都市部に染まった若者は大学へも進み、村は過疎を迎えていく。
子どもたちがいなくなれば田舎の小学校なんかは廃校を迎えることとなる。
そして、卒業生たちが成人となり、最後の成人式が開かれることとなった。
廃校になる小学校最後のイベントとして卒業生による成人式。過疎になった村を思い出してほしいという切なる願いを込めてのイベントだった。
元生徒だった成人たちは懐かしい小学校に集い、持ち寄った食材と酒で懐かしい顔ぶれ同士の忌憚のない思い出話に花を咲かせる。
その思い出話の1つにいなくなった少年の事がでたが、それもまた何事もない話になっていた。
そして祝宴は終わりを迎え、あの時、かくれんぼに参加していた奴らは酒の酔いもあって、かつてのかくれんぼの現場に来た。
その時、小さな声で聞こえてきた。
「もういいかい」
酔った勢いもあり、聞き間違えと思ったが、試しにと答えてしまった奴がいた。
「もういいよ」と。
大声でそう答えてやった男を馬鹿にするもう一人の男。ただの聞き間違えで答えなくていいって答えるもそれを気にすることなく、大声で笑っていた。
すると
「みーつけたー」
透き通るような子供の声、かつて聴いたいなくなった少年の声。それが後ろから聞こえてきた。
振り返ると、そこにはぼんやりとした姿をした少年がにやりと微笑み、その場にいた全員を捕まえた。
「う、動けねえ!」
焦る面々は逃げようとしたが、石像になったかのように動けず、何も出来ないまま、少年が声をかけてきた。
「さあ、今度は君たちが鬼だよ」
無邪気に笑う少年、怯える男たち。そしてそれが事件の終焉となった。
翌日、学校の校庭に、外傷の無い怯えた表情のまま、死んでいる男数人の死体と白骨死体が見つかった。白骨死体は法医学研究所で調べられたところ、いなくなっていた少年のものと特定された。
だが、土に埋まっていた形跡もない、綺麗に揃っている、まるで人体模型のような1欠片の骨の紛失もない完璧な姿から捜査は難航した。
同じく、怯えたまま死んでいる男性の死因が全く分からなかった。
法医学的に全く分からない、未知の病気か、毒か、様々な海外の論文にもあたったが不明だった。
まるで魂だけを無理やり奪い取られたというべき状況であったが、死因はつけねばならないと火葬ができないとなり、心筋梗塞として処理されていた。
この事件は村の神様の悪戯として記憶されたが、その村は数年後、完全な無人となり、朽ち果てていった。
その事件を知る者はもはやおらず、村は朽ち果て、緑が生い茂る場所へとなっていった。