99 ミィちゃんの社会科見学9
「ここがゴブリンの工房だ」
「へぇ……ここがぁ」
興味深く中を眺めるミィ。
そこでは多くのゴブリンが仕事に励んでいた。
大木の洞にあるその工房には、小さなテーブルがいくつも並べられている。
槌とノミを使って木材を削るゴブリンたち。彼らの仕事は非常に丁寧で、出来上がった製品には文句のつけようがない。
「え? これって洗濯板?」
「ああ、そうだ。農場でも同じものを使っていただろ?」
「うん……あれってここで作ってたんだ」
領内で使われている洗濯板は、すべてここで生産されている。もともとこの世界には存在していなかった商品なので、普及するまでに時間がかかった。今ではどの家庭でも重宝される大ヒット商品となっている。
他にも、器や匙などの食器、椅子や棚などの家具など、数々の品物を生産しており、かなりの利益を上げているのだ。他の魔族の国への輸出も視野に入れている。
将来的に大規模な工房を作って大量生産したい。うまくいけばゼノを支える産業の一つになるだろう。
「すごいね……みんなお仕事頑張ってるねぇ……」
感慨深くつぶやくミィ。
子供を見守る大人みたいな感じになってるな。
ゴブリンが仕事をしている様子は、正直ちょっとかわいい。身体が小さいから動作が子供っぽいんだよね。
割と素直な種族なので、感性も子供に似ているかもしれない。
「アナロワ、今月のノルマは達成できそうか?」
「ええ、なんとか間に合わせます。
ですが……やはり子育てとの両立が難しく……」
「他の群れと協力関係を結べていないのか?
先月も使いを出したはずだろう?」
「それが……どうしても同意が取り付けられず、
説得材料が他にないか悩んでいるところです。
長たちにこの里を見せてみたのですが……」
「ううむ……」
工房の拡大を狙った俺は他の群れともコンタクトを取り、各群れで生産拠点を建設できないか模索している。
ゴブリンはそれなりに頭が良く、従順で素直ではあるが、群れの方針を簡単に変えられるほど柔軟でもない。
アナロワの群れから何人か他の群れに派遣しているのだが、賛同を得るのは難しいようだ。
それでも、少しずつこの里の噂は広まっているようで、各地からゴブリンの長が見学に来るなど、状況は変わりつつある。
「分かった、ノルマを少し下げよう。
利益はしっかりと出ているから焦る必要はない」
「はい……面目次第もございません」
申し訳なさそうに頭を下げるアナロワだが、彼は十分に頑張っている。
「ねぇ、ユージ。
子育ての両立って言ってたけど……。
もしかしてここで働いてるのってお母さんたちなの?」
「そうだ。男はみんな俺の元で働いているからな。
加工品を作っているのは女性たちだ」
「へー! すごいね!」
ゴブリンのメスは集団で子育てを行うので、全ての個体がつきっきりで子育てを行うわけではない。手が空いている者が交代で木工品を生産している。
「ゴブリンってすごかったんだねぇ」
しみじみと頷くミィ。
ここまで来るのにすんげー時間がかかったんだよなぁ。
アンデッドになってゼノに流れ着いた俺は、何とか最底辺から這い上がろうと、ゴブリンを手懐ける案を思いつく。
彼らを教育して最強の軍隊を作り、ゆくゆくは魔王軍最強の一角を占める一大勢力に育て上げよう。
安直にそんなことを思いついた俺は、さっそくゴブリンの群れを探した。しかし……都合よく群れが見つかるわけもなく、何日も領内をさまよう羽目になる。
そして……やっとの思いでクソみたいな何もない土地で、隠れるようにして暮らしていたアナロワの群れを発見。
早速コンタクトを取り、協力を仰いだ。
のだが……。




