97 ミィちゃんの社会科見学7
俺はミィを連れてある場所へ向かった。
そこは白兎族の里から少しはなれた場所にある林。
ある種族の者たちが居を構えている。
「ここだ、入るぞ」
「え? ここから?」
けもの道を指し示すと、ミィは困惑した顔つきになる。
雑木林の中に何があるのか想像もつかないようだ。
「ああ……この中に彼らがいる」
「えっと……彼らって?」
「ゴブリンだよ」
「へぇ……ゴブリン」
この林はゴブリンが根城にしている。
彼らは基本的に洞窟などで集団生活を営んでいるのだが、森の中に住む場合もある。アナロワの群れはゲンクリーフンから離れた場所に住んでいたのだが、説得してここに移住してもらった。
街から近い方がすぐに指示を出せる。その方が何かと便利だからな。
「どうしてこんな林の中に?」
「ゴブリンは何もない平地よりも、森や洞窟みたいに暗い土地を好むんだ。見通しのいい場所は住処に選ばない」
「どうして?」
「それは……」
ゴブリンがそう言う習性の生き物だから……としか言えんな。まぁ、ちゃんとした理由もあるわけだが。
「ゴブリンも白兎族と同じでなぁ、天敵が多いんだよ。
魔物に襲われて餌食になったり、
魔族からいじわるされて追い出されたり。
あとやっぱり……人間が一番の天敵かな。
アイツら、ゴブリンには容赦しないから」
「そうなんだ……」
そうなんだ……って。
ミィも勇者だったころにゴブリンを沢山殺しただろう。まさか些細な出来事すぎて忘れてしまったとか?
俺も生前に冒険者をやっていたころ、ゴブリン討伐の依頼を受けたことがある。あいつらは集団で狩りをする習性があるので、普通に戦うと強敵過ぎてヤバい。
そのため群れからはぐれた個体を一匹ずつ狩るのがセオリー。罠を仕掛け、何日間も張り込み、一匹ずつ確実に駆除して数を減らしていくのだ。
群れを直接攻撃したら面倒なことになるので、相手に気づかれないよう慎重にことを進めないといけなかった。下級冒険者にとって稼ぎのいい仕事ではあったが、時間がかかって大変だった。
気づかれないように毎日罠を仕掛けてそれを見張る日々。酷いときは数か月がかりで任務に当たらなければならない。
地味で時間のかかる、きわめて面倒な仕事だった。二度とやりたくない。
「ゴブリンも大変なんだね……」
「まぁ、ここに住んでるやつらはそうでもない。
魔王がきちんと居住権を与えたからな。
それに……ちゃんと仕事をして金も稼いでる。
立派に自立した人たちだよ」
「へぇ……」
ゴブリンが仕事をすると聞いてもピンとこないだろうが、割と手先が器用なので、物作りをする素質はある。俺が色々とアイディアを出してやったら、食うものに困らない程度に稼げるようになった。
まぁ……販路を切り開いたのは俺なのだが、今では彼らが自分で納品しに行っている。
えらい。
「さぁ、ここがゴブリンの里だ」
「え? すごい!」
ミィはその光景を目にしてとても驚いていた。
ゴブリンの里と聞いて思い浮かべるのは、原始的な住居が集まってできた集落っぽいものを想像するだろう。
しかし……そこにあったのは竪穴式住居ではなく……




