96 ミィちゃんの社会科見学6
「次は……お風呂です……」
パートナーがいないことをミィに指摘され、ダウナー気分のフェル君。もう帰ってくれと言いたげな様子。
「へぇ! お風呂なんてあるの⁉ すごいねぇ!」
「うん……そうだね」
「ねぇねぇ、中を見てもいい⁉」
「うん……いいよ」
白兎族の施設めぐりが楽しいのか、ミィのテンションは次第に上がっていく。逆にフェルの方はどんどん適当な感じになっていく。
さっきのミィの態度が気に障ったのか、それともパートナーがいないことに触れられたのが嫌だったのか。
まぁ……よくよく考えたら当然かもな。
自分よりもずっと年下の小娘に上から目線の態度を取られたら、そりゃ嫌な気分にもなるわ。
あとでちゃんとお詫びの品を持って行って、丁寧に謝っておこう。ついでに特別手当もつけてやるか。俺のポケットマネーから。休日に変な仕事を申し付けたのだから、それくらいして当然かと思う。
「わぁ! ここがお風呂⁉」
ミィは浴場を見て驚く。
そこには大きな風呂釜が二つ。下で火を焚いて温めるタイプのものだ。ちゃんと煙突もついており、排煙できるようになっている。
風呂釜は大人が入るにはちょっと狭いが、白兎族なら問題ない。一人で入れば十分なスペースが確保できる。
風呂は数日に一回しか入れない。交尾の後には必ず身体を清潔にしないといけないので、その都度入浴する順番を調整する必要があり、色々と面倒らしい。
中には面倒くさがって水浴びで済ませてしまう者もいるとか。
「これ、全部君たちが作ったの⁉」
「うん……ヌルさんにも協力してもらったけど、
穴を掘ったのは全部僕たちだよ」
「この穴を白兎族だけで⁉」
「そうだよ」
ミィが驚くのも無理はない。
地下室は無数に存在しており、それぞれが細い通路でつながっていて、アリの巣のようになっている。手で掘り進めてこれだけのコロニーを形成するのは大変だ。
「僕たちは穴を掘るのが得意なんだ。
ここの地盤は固くて苦労したけど、
これくらいのこと朝飯前だよ」
「へぇ! すごいね!」
「なぁ……ミィ」
「ユージ? なぁに?」
俺が声をかけるとミィはきょとんとする。
「フェルは君よりもずっと年上なんだぞ。
礼儀ってものがあるんじゃないか?」
「え? あっ……そうだった、ごめんなさい」
頭を下げるミィ。
今更謝っても遅い気もするが……。
ミィがいつ自分で気づくのかと待っていたが、最後まで気づかなそうなので注意した。
本当ならもっと早く言うべきだったが……。
「あっ、大丈夫です……ははっ」
苦笑いするフェル。
全然、大丈夫じゃなさそうだなぁ。
「ふわぁ! 空気がおいしい!」
地上へ戻ったミィは大きく背伸びをする。
いくら快適に整えられているとはいえ、やはり地上と比べると空気がよどむ。外へ出て深呼吸すれば、酸素のありがたみが分かるだろう。
「普段から地下で暮らしても息苦しくならないんですか?」
ミィが質問する。
ちゃんと目上の人に対する言葉遣いになっていた。
「うん、僕たちは慣れてるからね。
それに……ちゃんと空気を取り入れる穴があるんだ。
ほら、あそこに管が埋めてあるでしょ?」
「あっ、本当だ」
白兎族の里には、地面に何本もの管が埋められており、そこから地上の空気が取り入れられるようになっている。
中には何か細工がしてあって、魔法で空気を流しているらしい。便利ですねぇ。
「フェル、いきなり尋ねてすまなかったな。礼を言う」
「いえ……ユージさまなら大歓迎です。
またいつでもいらして下さい」
フェルはそう言ってぺこりと頭を下げた。
本当に素直で従順なのだが、逆に何でも言うことを聞いてしまいそうで怖い。文句の一つくらい言ってもいいんだぞ。
「今日はもう帰るの?」
「いや……まだ他にも行く場所があるぞ」
「へぇ、次は何処へ行くの?」
「それは……」
俺は次の目的地を彼女に伝える。
ここからそう遠く離れていない場所。
きっと次も楽しめるはずだ。