94 ミィちゃんの社会科見学4
「……どうぞ」
フェルが差し出した小さな皿の中には、キャベツのような葉物の野菜と、ニンジンやゴボウなどの根菜類。そしてキノコが少々。食欲をそそるいい香り。
その辺に生えているハーブを使って香辛料の代替品としているようだ。
人間時代に食べていたスープとは違い、上品な見た目と香り。量が少ないのが難点だが、味は問題ない……はず。
「いただきます……」
ミィはさらに口をつけてゆっくりとすする。
そして……。
「あっ、甘いかも。優しい味」
野菜から染み出た甘味。そしてわずかばかりの塩分。本当に些細な味わいではあるものの、素材のうま味を十分に生かした質素な料理。できれば俺も生きていたころに味わいたかった。
ミィはスープを全て飲み干し、具材もスプーンで残さずに掬い取った。満足したのか、平らげた後にホッとしたような表情を浮かべる。
「……おいしかったですか?」
「うん、とっても」
「でも……ノインさんの料理に比べたら……」
フェルはしょぼんと耳を垂らす。
確かにノインが作る料理と比べたら、ちょっと物足りなく感じるかもしれない。けれども、白兎族の作るスープには独特な味わいがあり、その味は彼らにしか出せない。
野菜を適当に煮込んだだけでは、ただの糞マズスープになってしまうのだ。そう言うスープを飽きるほど飲んできた俺が言うんだから間違いない。
「ううん、とってもおいしかったよ。ごちそうさま」
「よかったです……お口にあったみたいで」
スープを気に入ってもらえて、ホッとするフェル。
正直、俺も不安だったのだが、ミィが変なこと言わなくてよかった。この子は考えなしに発言するタイプだからなぁ。
「それじゃぁ、適当に案内してくれるか?」
「はい! 分かりました!」
スープの味をほめてもらって安心したのか、フェルは元気に返事をした。
白兎族の集落にはいくつもの地下室があり、それぞれに別々の用途が定められている。例えば……。
「ここは倉庫兼、薬屋さん。
いろんな食べ物と薬が保管されているんです」
最初に案内されたのは大きな倉庫。壁には棚が並んでいる。部屋の中央には食材の入った大きなかごがいくつか。
棚には何種類もの生薬が保管されており、白兎族はそれを調合して飲み薬や塗り薬を作る。
彼らの作る薬は割と効果があり、人間時代には大変お世話になった。
「へぇ……すごいねぇ」
「驚くのはまだ早いですよ。次は……」
フェルは次の施設へと案内する。
確かそっちの方には……あれがあったはずだ。
……ミィに見せても大丈夫かな?
次に案内された場所。
そこは……。
「……え? なにここ?」
ミィはきょとんと首をかしげる。
長い廊下にいくつもの扉。
突き当りは行き止まりになっており、それ以外には何もない。
「ここは……愛をはぐくむ場所だよ」
「え? 愛? デートスポットってこと?」
ミィには分からないらしい。
まぁ……精神年齢が11歳なら、保健体育の授業も十分に受けていなかっただろうから、彼が何を言わんとしているのか察せなくても仕方ない。
「交尾する部屋ってことだ」
「え⁉ 交尾⁉ エッチってこと?!」
わざわざ言い直さなくてもいいですがな。
「そう言うことだ」
「でっ……でも……」
ミィはちらちらとフェルを見やる。
「こんな幼い子供が交尾するなんておかしいと?」
「そういうわけじゃ……」
否定するが、そう思ってるのは間違いないと思う。
フェルの容姿は小学生高学年くらい。とても交尾なんてしていい年には見えない。だが……。
「フェル、君の年齢を教えてやってくれ」
「ええっと……今年で32歳になります」
「え⁉ 32歳⁉」
驚愕するミィ。声が大きい。
「白兎族は長命でな。
幼く見えても高齢な場合が多い。
フェルはこの群れの中でも若い方なんだぞ」
「へっ……へぇ……そうなんだ」
フェルは群れを率いるリーダーでもある。
若者である彼がリーダーになれたのは、里の生き残りをうまくまとめ上げたからだ。彼がいなかったら全滅していたとさえ言われている。
「そうだ、ついでに子作り部屋の中も見せてやろう」
「えっ⁉ いいよ見せなくてっ!」
「ついでに彼らの成体についても、詳しく解説してやるぞ!」
「だからいいって!」
顔を真っ赤に染めるミィ。
嫌でも解説させてもらう。




