93 ミィちゃんの社会科見学3
「じゃぁ、ついてきてくださいね。
あっ、足を滑らせたら危ないので慎重に」
そう言って扉を開くフェル。
中には地下へと続く竪穴と、壁に備え付けられたはしご。
「うわっ……すっごい深いね!」
四つん這いになって穴を覗き込み、その深さに驚愕するミィ。穴の深さは2~3メートル程度。しかし、彼らの身長の低さや家の大きさからすると、その程度の深さでもかなりの長さに思える。
明かりが設置されており、ここからでも地下室の床が目視できる。中からは騒がしい声が聞こえてくる。
「えっと……下に何人もいるの?」
「ああ、白兎族の住居は全て地下でつながっているんだ。
大きい集落だと、かなりの規模の地下空間ができる。
とりあえずまぁ……降りてみてくれ」
「うん、分かった」
ミィは梯子を伝って地下へと降りていく。
竪穴はちょっと彼女には狭いが、問題なさそうだ。
「すまないがフェル。案内を頼めるか?」
「お安い御用ですよ」
彼はそう言って胸を張った。
俺の命令は嫌な顔せずなんでも承ってくれるんだよなぁ。本当にいい子過ぎる。大好き。
俺とフェルも地下へと降りる。
「うわぁ……すごぉい!」
ミィは地下室を見て目を輝かせていた。
そこは大きな空間で、テーブルが沢山並べられている。何人もの白兎族が席について食事を楽しんでいた。
割と天井は高く、ミィや俺でも屈まなくて大丈夫。しかし、気を抜くと天井に備え付けられた照明に頭をぶつけてしまうので、注意しなければならない。
「ここは僕たちの食堂だよ。
野菜や小麦を煮込んだスープが食べられるんだ」
「え? スープ? 他には?」
「パンがあるよ。たまにチーズとかヨーグルトとか……」
「え? 他には?」
「…………」
フェルは沈黙する。
彼らの食堂で提供されるのは、具入りのスープとパンくらい。特にこった料理は作られていない。スープは野菜と穀物を煮込んで作られた質素なもの。ミィが食べてもおいしいとは思えないだろう。
「白兎族に限らず、ほとんどの種族の食事は基本スープだぞ」
「え? そうなの?」
「ああ、俺が人間だったころは、毎日スープばかり飲んでた。
他の食事なんてめったに食べられなかったなぁ」
「へぇ……」
ミィは普段からノインの作った料理しか食べていないので、この世界の食事の貧相さを知らない。マジでクソみたいな料理しかないからな、この世界。
でもまぁ……ゼノはまだましだと思う。農業国だし、肉も比較的容易に手に入る。香辛料や出汁をとる材料も市場で売っている。
ノインに料理を教えた時は、そこそこ材料が手に入りやすかったので助かった。人間界だと高すぎてとても手が届かなかったんだよなぁ。
「白兎族はじっくり野菜を煮込んで作ってるから、
人間たちの作るスープとは一味違うんだ」
「へぇ……そうなんだ」
「あの、よかったらお召し上がりになりますか?」
フェルが心配そうな顔で言う。
スープの味に自信がないらしい。
ミィは平気でまずいとか言いそう。
変なことを言ってくれるなよ。
「うん、一皿貰ってもいいかな?」
「分かりました……ちょっと待っててください」
フェルはカウンターの方へスープをもらいに行く。
果たして……ミィは味を気に入るだろうか?
心配である。