91 ミィちゃんの社会科見学
「おい……ミィ」
「なぁにぃ?」
「いつまでそうしてるつもりだ?」
「ええ?」
ミィは俺が書いた小説を読みながらベッドの上でゴロゴロ。
巨大化したシロの一件が解決し、彼女はこの部屋に戻って来た。引き続き農場で働く選択肢もあったのだが、彼女は俺のところへと帰って来た。
それからというもの……ずーっと怠惰な生活を送っている。
俺が用意したお菓子を食べながら、一日中寝っ転がって過ごしている。外に出ることもほとんどなく、ほぼ引きこもりのような状態。
「なぁ……たまには散歩とかしないか?
首輪をつけて俺が付き添えば、
外へ出ても大丈夫だと思うぞ」
「ええ?」
「なんだったらマムニールの農場で……」
「それはいや」
きっぱりと断るミィ。
「なんで?」
「働きたくないから」
「皆に会いたいと思わないのか?」
「ちょっと寂しいけど……ここにいた方がいい」
「……そうか」
ミィはガチの引きこもりモードに入っている。
何を言っても聞く耳を持たない。
このままでは本当にニートになってしまうぞ。
そうなる前に、早く何とかしないと……。
しかし、なんと言って連れ出そうか。
無理やりはダメだ。この子を力づくで外へ出そうとしても絶対に俺が負ける。説得して彼女の同意を取り付けなければならない。
ううん……なんと言ったものか。
ミィは俺が書いた小説とお菓子を与えていれば文句は言わない。物で釣ろうとしても難しいだろう。何か彼女の興味を示すものを……。
あっ、そうだ。
「いいことを思いついた。一緒に取材に行こう」
「え? 取材?」
「小説の題材を探しに行くんだ。
何かいいネタがないか探しに行こう」
「ううん……」
ちょっと迷ってる感じ。
頑張って説得すれば行けそうな気がする。
「ずっと部屋にこもっていたら身体もなまる。
外に出て気分転換するのも悪くない。
一緒に行くなら何かごちそうするぞ」
「何を食べさせてくれるの?」
「それは……」
適当に何か食わせればそれでいいか。
とりあえず外へ連れ出せればいい。
彼女の口に合わなかったら後で謝ろう。
とにかくこの子を外へ連れ出すのが先決。
「行ってからのお楽しみだ」
「お楽しみかぁ……うん、わかったよ。一緒に行く」
ミィはようやく部屋から出る気になった。
かれこれ一週間近く部屋にこもりっぱなし。隣に便所と風呂ができたことを良いことに、この子は好き放題俺の部屋でくつろいでいる。小説以外に大した娯楽もないというのに、なんでこんなにも外へ出たがらないのか。
なにはともあれ、ミィを部屋から連れ出す口実はできた。後は彼女を何処へ連れて行くかだ。適当な場所だと楽しくないだろうから、きちんと計画を立てておこう。皆にも協力してもらおうかな……。
ということで当日。
俺はミィを連れて城門の前まで来た。
「ねぇ、何処へ連れて行ってくれるの?」
ケモミミとしっぽを付けたミィが尋ねてくる。
彼女はお出かけ用のリュックを背負っていた。
「ふふふっ、お楽しみだ。
いくつもイベントを用意しておいたから、
期待してくれていいぞ」
「わぁ、楽しみだなぁ」
「それじゃぁさっそく行こうか」
「ねぇ……もしかしてだけど……歩いて行くの?」
きょろきょろとあたりを見渡すミィ。
馬車は用意していない。
「ああ、そうだが……」
「連れて行ってくれるのって……ここから近く?」
「ああ、そうだ」
「遠くへ旅行に行くんじゃなかったの?」
「日帰りで予定を立てたが……ダメだったか?」
「ううん……」
途端に不満そうな顔になるミィ。
「温泉とか、海とかに連れて行ってくれるのかと思った」
「すまないな。俺も忙しいから泊りは無理だ」
「そっかぁ……でも、いいや。
ユージが一緒にいてくれるのなら、
どこへでも一緒に行くよ」
そう言ってくれて助かった。
ではさっそく……。
「よしっ! 出発だ!」
「うん!」
俺はミィを連れて目的地へと向かう。




