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85 祝勝会2

「ここにいるぞ」


 俺は自分の足元を指さす。その先には骨のゆりかごの上で寝ている、シロの姿がある。


「あらあら、かわいらしい寝顔ですの。

 でもこの子、全く呼吸をしていないですの」

「呼吸どころか、脈もないし、心臓も動いてない。

 それでどういう理屈か分からないけど、

 ちゃんと動くんだ」

「ううむ……もしかしたら……。

 この子もアンデッドなのかもしれませんの。

 なにか別の力で死体を動かしているだけかも」

「別の力とは?」

「体内に魔石が埋め込まれているんじゃありませんの?

 そうとしか考えられないですの」


 シロの原動力は魔石なのか。魔力によって無理やり動かされているのなら、この子の意志はどこにあるのだろうか?


「アンデッドってことは、

 この子の姿はずっとこのままなのか?」

「なにもしなかったらそうですの。

 でも、わたくしにお任せ下されば、

 人間の子供くらいの大きさにできますの」

「……本当か?」


 子供のサイズまで成長させられるのなら、ちょっと試してみたい気はする。しかし、この女にシロを任せるのは……。


「ユージさま、止めておいた方が良いですよ。

 なにされるか分かったものじゃないし」

「はぁ⁉ サナト!

 横から口をはさむのは止めて欲しいですの!

 てゆーか、喋らないで欲しいですの!

 空気が汚染されますの!」

「はぁ⁉」


 サナトとエイネリは取っ組み合いの喧嘩を始めた。面倒なので放っておく。


「ねぇ、ユージ」

「なんだ、ミィ?」

「この子に大きくなってもらいたいって思う?」

「まぁ……そうだな。

 意思疎通がとれるくらいになってくれればとは思うよ」

「じゃぁ、神様にお願いしてみたら?」

「神様ぁ⁉」


 突拍子もないことを言うな、この子は。そんなことで願いが叶うはずないだろう。


「なにを言ってるんだ」

「だって、私は神様に願いをかなえてもらったから」

「それは本当なの?」

「うん、ユージとめぐり合わせてもらった」


 俺と出会ったのは神様のお陰? ますます、意味が分からん。


「私を守ってくれる人が欲しいってお願いしたら、

 ユージの部屋の前まで連れてきてくれたんだよ。

 ……多分」

「神様に会ったのか?」

「ううん、会ってないけど、なんとなくそう思う」


 記憶を失った彼女は俺との出会いは偶然ではなく、神の手によるものだと考えているらしい。

 どうしてそう考えているかは不明だが、あえて否定する必要もないだろう。


「君がそう思うんなら、そうなんだろう」

「あんまり信じてない?」

「神様なんて存在、いまいち信じる気になれなくてな」

「でも私たちは……」


 そうだな。俺たちはこの世界へ転生する際に、謎の存在との出会いを果たしている。


 アレが神だとするのなら、その存在を否定するのは愚かだろう。


 しかし、アレが神を名乗ったところで素直に信じることはできない。人間の魂を転生させるのは、なにも神様だけではないのだ。


 もしかしたら、地球外生命体とか、謎の秘密組織とか、未知の思念体とかが、異世界転生を行っているのかもしれない。……まぁ、どうでもいいけど。


「ユージさま! お話がありますの!」


 エイネリが絡んで来た。


「またか……今度はなんだ?」

「わたくしとサナトで勝負をすることになったですの!

 その子をより成長させた方が勝ちですの!」

「あのなぁ、シロはおもちゃじゃないんだよ。

 お前たちのプライドの為に……うん?」


 サナトがシロを抱っこしている。

 なにをしているんだ?


「え? サナト?」

「この子は私が預かります」

「え? 普通にダメだけど」

「ダメと言われたら余計にやりたくなるのが人のさが。

 というわけで……さらばだー!」

「あっ! ちょっ! 待てっ!」


 サナトはシロを抱きかかえ宴会場から出ていき廊下を爆走。

 慌てて追いかけるが俺の足ではとても追いつけない。


「待つですのおおおおおお!

 その子をよこすですのおおおおお!」


 エイネリが俺を追い抜いて行った。

 くっそ、このままではシロが……!


「ユージ! どうすればいいの!?」

「ミィ⁉ あの子を取り戻してくれ!」

「分かった!」


 ミィはものすごい速さでサナトを追いかけて行った。

 サナトの直ぐ後ろまで距離を詰める。


 しかし……。


「きゃぁっ!」

「この私に追いつくなんて100年早いわ!

 そこで指をくわえて見ていなさい!」


 サナトは結界を発動し、ミィの行く手を阻んだ。

 いくえにも重なった魔法陣が行く手を阻む。


 あの野郎……割とマジで本気だな。

 シロをどうするつもりなんだ?!


「ユージ、ごめん。ダメだった!」

「直ぐに結界を打ち消せ! 対滅呪文だ!」

「ダメなんだよ!

 なん重にも結界が張ってあって、

 直ぐには消せなくなってる!」


 サナトぉ!

 折角の才能をこんな下らないことに使って!


 酔っ払って変なテンションになってるからか、今のサナトは手が付けられない状態。彼女はシロをどうするつもりなんだ?


「あのロリBBAはシロちゃんを殺すつもりですの!

 ユージさまの愛を独占したくて、

 こんな凶行に及んだんですの!

 一刻も早く、あの魔女を追放処分にするですの!」

「落ち着け、エイネリ。

 それよりこの結界をなんとかしてくれないか?」

「……無理ですの」

「……そう」


 流石のエイネリでもサナトの結界を破るのは無理か。


「ユージ、どうするの?」

「別のルートで追う。こっちだ!」


 俺は結界を迂回してサナトを追うことにした。


「ユージ、遅い!」

「仕方ない、俺の首を取り外してくれ!」

「え? なんで⁉」

「抱えてもらった方が早く進めるだろ!」

「そっか!」


 ミィは俺の頭を取り外して脇に抱える。

 力を失った胴体はその場に倒れ動かなくなった。


 ミィは一気に廊下を駆け抜け、俺の案内通りに道を進む。


「ユージさま! その子は何者ですの⁉

 どうしてそんなに早く走れますの⁉

 ただの人間じゃないのは間違いないですの!」


 ダッシュでミィに追いつくエイネリ。

 ヴァンパイアは基本的な身体的ステータスが、人間の何倍にも強化されている。そんな彼女でも、ミィに追いつくのは大変らしい。


「この子は特別な奴隷なんだ!

 どう特別かは秘密だ!」

「なんですのそれは⁉ 教えて欲しいですの!」

「ダメだったら、ダーメ」

「ムッキィィ! ユージさまのけちんぼですの!」


 ミィのことは誰にもヒミツにしておくつもりだが、そろそろ難しくなってきたかもな。


 この子の身体能力は異常すぎる。黒騎士状態ならともかく、素の状態でこのスペックを披露したら、誰だっておかしいと思うだろう。


 後でエイネリには言い訳をしておこう。信じてもらえるとは思えないけど……。


「いたぞ! あそこだ!」


 シロを抱えているサナトがいた。

 彼女は保管庫へと駈け込んでいくところだった。


 確かあそこにはサナトが管理している魔道具が置いてあるはず。なにをするつもりなんだ⁉


「サナトっ! 待てっ!」

「待ちませーん! バタン!」


 勢いよく扉を閉めるサナト。

 魔法でなにかしたのか、扉はびくともしない。


「くそっ! なんとかできないのか?」

「ううん……ユージごめん! ダメそう!」

「エイネリは⁉」

「右に同じですわ!」

「そうか……ダメか」


 ミィとエイネリではサナトの結界を破ることはできない。

 いったいどうすれば……。


「あら、結界が張ってあるのは、

 この扉だけみたいですの。

 壁にはなんの魔法もかけてありませんの。

 サナトは詰めが甘いですの!」

「じゃぁ、壁をぶっ壊せるか?」

「流石のわたくしでもそれは無理ですの。

 こんな風に……」


 思いっきり壁を殴りつけるエイネリ。石壁が少しだけ凹む。


「多少は削ることはできますけど、

 穴をあけるまでには至りませんの。

 魔王城は頑丈にできていますので」

「そうか……」


 なら、ミィに任せるか。この子なら穴くらい……。




 どがあああああああああああん!




 命令するまでもなく、ミィは壁に大穴を開けた。


「穴ができたよ! ユージ!」


 でかした! とでも言うと思ったか?


 ミィが穿ったのは人が余裕で通れる大穴。誰がそこまでやれと言った。修繕のことも考えてやれ。

怒っても仕方がないので、とりあえず褒めておこう。


「偉いぞ!」

「わーい!」

「そんな茶番は後でするですの!

 先ずはあのロリっ子をとっちめるですの!

 うおおおおおおおおおおおっ!」


 もはや目的がサナトの討伐になったエイネリは真っ先に保管庫へと突撃。このままだとガチの喧嘩になりそう。

 マジで殺し合いが始まったらどうしようか?


 俺の予想だとサナトが勝つ。エイネリは丈夫なので腕や足がちぎれても死なない。あいつ、ヴァンパイアだからな。


「いやあああああああああ!」


 早速、エイネリの悲鳴が聞こえて来た。

 殺し合いが始まったらしい。


「俺たちも行くぞ」

「うん」


 ミィと俺も保管庫へ突入。

 二人がいる場所へと急行する。


 そこでは……。

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