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79 最後の手段

「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」


 オークたちがときの声を上げて攻撃を始める。


 全員が一度に行くのではなく、部隊を小分けにして突撃させる。


 先行した部隊が攻撃を終えたら、後続がスイッチして攻撃に加わる。これを繰り返すことで、各部隊が休息を取りながら攻撃し続けられる。


 攻撃はそれなりに効果を発揮しているようで、怪獣の足に次々とヒビが入っていく。この調子で攻撃を続ければ、街の中へ侵入させずに済むかもしれない。


「ユージ、本当にこれで大丈夫なのか?」


 ノインが尋ねて来た。

 彼は地竜に乗って部隊を指揮している。


 地竜とは、読んで字のごとく大地を歩行する竜のことである。


 飛竜と同様に家畜化されている種で、馬と比べて非常にパワフル。重い物を乗せても平然と歩き続ける。瞬間的な早さも馬に勝るが持久力は微妙。


 やはり肉食なので、運用面のコストは大きい。普通に馬を飼った方が得。けれども戦争の際には非常に役に立つので世界各国で重宝されている。


「ああ、ダメージは通っている。

 必ず倒せるはずだ。

 現に足が何本か折れただろう?」

「それでも進むスピードが落ちてねぇ。

 あれは本当に生き物なのか?

 物食い虫だってあんなに頑丈じゃねぇぞ」

「大丈夫だ、必ず止まる。

 とにかく攻撃を続けるんだ!」

「分かった、ユージを信じる! 行くぞお前らっ!」

「「「おおっ!」」」


 ノインは再び部隊を引き連れて攻撃を開始した。


 怪獣は何本足を折られても、ひるまずに前進し続けている。まったく足を止める気配がない。


 だが、全ての足を折ればそこで終わりだ。

 尺取り虫みたいに移動できるとは思えん。


「おおっ! また折れたぞ!」

「あと少しだ! 頑張れ!」

「もうちょっとだ!」


 オークたちは懸命に戦っている。

 この調子なら……。


「どいてくれぇ! けが人だっ!」


 重傷を負ったオークが両脇を抱えられ、退避しているのが見える。


 犠牲者は出ていないとは言え、けが人はそれなりに出ている。足で蹴飛ばされたり、踏みつけられたりして、重傷を負った者が現れ始めた。


 戦いに犠牲はつきものだが死亡者は出来るだけ少なくしたい。幸いにも、敵はあまり好戦的でなく、ゆっくりと進み続けているだけ。死者数はそんなに増えなくて済みそうだ。


 しかし……なかなか成果が上がらんな。


 狙いにくい弱点を攻撃するのは骨が折れる。オークたちは非常に強い力を持っているが、一度に与えられるダメージは限られている。


 なんとか攻撃は当たっているが、残りの足を全て折るには時間がかかるだろう。街までの距離はあとわずか。怪獣が到達するまでに倒さなければならない。


「トゥエ! ラッパを吹け!

 オークたちをいったん引かせろ!」

「了解であります!」

「エイネリ! 闇魔法を発動するんだ」

「了解ですわ!」


 トゥエはラッパを吹いてオークたちに合図を送り、エイネリは魔法の詠唱を始める。


「漆黒の闇よ、深淵の縁に立たされたかの者を、

 暗き闇の世界へ引きずり込み給え。

 暗黒のかなたから遣わされた死者たちが、

 あなたの福音を伝えることだろう。

 我が絶叫よ、地の果てまでとどろけ。

 その声を耳にした者たちを飲み込み、

 二度とその姿を見せぬように溶かしつくせ。

 闇よ、嫉妬よ、絶望よ、

 ここに顕現して……」


 エイネリが発動しようとしているのは、闇魔法でもかなり強力なやつ。その為、詠唱にも時間がかかる。


 サナトがダウンしてしまったので、魔女たちからの協力は得られなかった。ここは彼女に頑張ってもらうしかない。


「……敵を穿ち、虚無へと返せ! シャドウブレイク!」


 魔法を発動するエイネリ。

 彼女のかざした右手から巨大な黒い球体が現れた。


 それはまっすぐに怪獣の方へと飛んで行き……。




 ぐおおおおおおおおおんっ!




 爆音がとどろくと同時に、怪獣の身体が削られる。大きな球体状のエネルギーが発生して身体の前半分を飲み込んだ。


「「「おおおっ!」」」


 オークたちから歓声が上がる。


 今のでかなりのダメージを与えられたはずだ。

 もう少し頑張れば……。




 ぼごぼごぼご!




 何かが泡立つ音が聞こえるとオークたちに動揺が走る。怪獣が失われた部分を修復し始めたのだ。


 白い泡が噴き出たかと思うと、一気に膨張して消失した部分を覆い、あっという間に元の形へと復元。

 さらに、折れた足の部分にも泡が発生して新たしい足が生えて来た。


「くそっ! これでまた振り出しか!」

「ユージさま! どうするですの⁉

 また魔法を使えばいいですの⁉」

「いや……」


 このまま魔法で攻撃を続けても無意味だろう。

 それよりも足を減らして……。


「ユージっ! 見て!」


 ミィが叫ぶ。

 彼女が怪獣の背中を指さしていた。


 背中に生えた突起物から黒い球体が吐き出される。

 先ほどエイネリが発生させたものと同じで……。


「まずいぞ! トゥエ! ラッパを吹け!」

「ぱっぱらぱっぱー! 退避っ! 退避ぃ!」


 トゥエの合図でオークたちは一斉に退却を始める。

 そこへ漆黒の球体が降り注ぎ……。




 ぐおおおおおおおおんっ!




 大地に降り注いだ球体が地面を抉って沢山のクレーターを作った。そこにあったものを全て飲み込んで虚無のかなたへと消し去る。


指示を出して退避させていたので、巻き込まれたオークはほとんどいない。しかし、何人かが犠牲になったようで、あちこちから悲鳴やうめき声が聞こえて来た。


「ノインっ! 被害は!?」

「分からねぇ! 今ので何人か死んだぞ!

 マジであれなんなんだ⁉

 魔法を吸収したのか⁉

 こんな奴に勝てるはずねーだろ!

 どうしろって言うんだよぉぉぉ!」

「落ち着けノイン! パニックを起こすな!」

「ぐっ……ぬっ……すまん」


 突然のことに混乱するノイン。


 無理もない。

 ずっと前に進み続けるだけだった敵が、急に魔法で反撃してきたのだ。驚いてうろたえたりはするだろう。


 しかし、まいったな。魔法での攻撃はもうだめだ。どんな強力な攻撃を行おうと直ぐに再生し、同じ性質の魔法で反撃してくる。これでは手の出しようがない。


「ノイン、皆を引かせろ。

 けが人の治療を優先するんだ」

「でも……このままじゃぁ」

「街はもうだめだ。諦めるしかない」

「マジかよ……」


 既に怪獣は街の目と鼻の先まで来ている。

 あと数分もしたら足を踏み入れるはず。


 奴が通った場所にある建物は全て飲み込まれ、居住区も商業街も大きな被害をこうむる。魔王城も徹底的に破壊されて跡形もなくなるだろう。


 もう終わりだ。終わったのだ。


 この戦いは俺たちの負け。街も城も全て破壊され、人々は住処を失う。魔王も路頭に迷う羽目になる。


 俺の仕事は街を復興させることだ。

 また一から全てをやり直さないとな。


 ……ハァ。


 いけると思ったんだけどな。無理だった。

 あの怪獣を止める手立てはもう……。




 うん?




 いや、待て。もしかしたらまだ……。


「なぁ、エイネリ」

「なんですの?」

「あれはどんな物体でも取り込むんだよな?」

「ええ、触れたものを取り込んで、

 身体を大きくしているようですの。

 オークたちが取り込まれていないのを見る限り、

 動物は取り込めないようですけど……」

「アンデッドの場合はどうなると思う?」

「……え?」


 シロは俺の身体の一部を取り込んでいた。もしアレがシロだと言うのなら、俺を取り込めるはずだ。


 もし俺を全て取り込んだら……魂はどうなるのだろうか?


「もし、アレが俺を取り込んだとして、

 俺の魂が同化したらどうなると思う?」

「魂がって……何をするつもりですの?」

「アイツに俺を取り込ませて、内側から止める」

「そんなことが可能ですの⁉」


 可能かどうかは分からない。

 やってみるしかないだろう。


 可能性がゼロじゃない限り、試してみる価値はある。


「ユージ⁉

 本当にそんなことやるつもりなの?

 危ないよ!」

「ミケ、よく聞いてくれ。

 ここで諦めたら大きな被害がでる。

 沢山の人が家を失って路頭に迷う。

 俺は指をくわえてその光景を眺めるつもりは無い」

「でも、だからってユージが……」

「俺がやるしかないんだ。

 俺にしかできないことだからな」

「そんな……」


 俺を心配してくれるのは嬉しい。


 けれども、ここで何もしないでいたら本当に全てが無に帰してしまう。俺はすべてを捧げてでも一握りの可能性に賭けたい。


「安心しろ、俺は必ず帰って来る」

「本当に?」

「ああ、約束だ」


 勿論、そんな保証はない。

 少しでも彼女を安心させる為の嘘だ。


「じゃぁ、行ってくるぞ」


 俺は仲間たちに見守られながら一人で怪獣の足元へと向かう。


 これに取り込まれることで、自分がどうなってしまうのか分からない。

 正直、怖くないわけじゃない。


 だが、俺は諦めない。

 何もしないで終わる方がずっと怖い。

 そう思うから……。

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