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78 弱点

 オークたちは街のはずれへ移動しはじめる。


 かなりの人数が集まったので、

 目標地点に集結するまで、

 それなりに時間がかかりそうだ。


「ユージさまぁ!」


 オオカミにまたがったアナロワがやってきた。


「住人の避難、ほぼ八割がた完了させました!

 残りもじきに丘へ移動しますっ!」

「でかした! その調子で頑張ってくれ!」

「はっ!」


 やはりゴブリンは有能だな。

 こういう仕事は彼らに任せるに限る。


「あのっ、ユージさま。

 我々は戦闘に参加しなくてよろしいのですか?

 クロスボウを使えば……」

「ううむ……」


 俺はゴブリンたちにクロスボウを装備させ、普段から訓練を積ませている。


 非力な彼らでも高い威力を出せるし、遠くから攻撃も可能。機動力の高いゴブリンと相性がいいと考えた。


「アイツは武器での攻撃が通用しないんだ。

 矢を射かけてもダメージを与えられない。

 今回はオークたちに任せろ」

「了解しました」

「お前たちは住民を連れて丘へ避難しろ。

 何かあれば追って指示を出す」

「かしこまりました、それでは……」


 他にも数名のゴブリンが狼にまたがり待機している。その中へアナロワが合流すると、街の方へと走り去って行った。


 やはりゴブリンは良い。組織力と機動力に優れ、機敏に行動する。攻撃力こそないものの息の合った彼らの行動を前にしたら、歴戦の勇者でさえ驚き戸惑うだろう。


 住人の避難はあらかた完了した。

 後はあの怪獣をなんとかするだけだ。


 しかし……どうすればいい?


 物理が無効と言うのなら、魔法で対抗するしかない。しかしサナトがダウンしているので、こちらのまともな戦力はエイネリくらい。彼女一人でなんとかできるとは思えん。


 最悪、街を見捨てると言う選択肢もありうる。避難は完了しているので、住民への被害は全く出さずに済むが……。


 街が破壊されたら再建までに時間がかかる。食料も怪獣に食われて不足するし、大きな混乱は避けられない。


 領民の苦難は、国家の苦難だ。彼らを苦しませてはいけない。なんとしてでもあの怪獣を止めないと。だが、どうやって?


 縄で縛ろうにも吸収されるだろうし、バリケードを構築したとしても意味がない。有用な手段があるはずなのだが……。


「ユージさまぁ!」


 上の方から声がする。トゥエの声だ。


「一通り避難を呼びかけて来たであります!

 次は何をすればよいでありますか?」

「俺を街の外まで連れて行ってくれないか?」

「了解したであります!」


 トゥエは両足の爪で俺の身体をつかみ、ゆっくりと上昇を始める。


 地面から身体が離れていくと、自分の重さを全く感じない不思議な感覚になる。サナトの後ろに乗って空を飛んだ時とは、また違った感じがして面白い。クレーンで釣り上げられる荷物になった気分だ。


「おおっ、すごいな。簡単に持ち上がったぞ」

「そりゃ、ユージさまは骨ですからね。

 この程度の重さなら楽勝であります!」


 俺をつかんで上昇したトゥエは街の入口へと飛んで行く。


「あの怪獣、だいぶ近くまでやってきましたね。

 この町は本当に大丈夫なのでありますか?」

「ううむ……」


 怪獣は着実に街へ近づいている。


 白く長い足をゆっくりと動かしてバランスを保っている。足を何本かへし折れば倒せるかと思ったが、ちょっと難しそうだぞ。


 足には瓦礫やら木の枝やらがまとわりつき、肥大化が進んでいる。最終的にはどれくらいの大きさになるのか。


 街の入り口には既にオークたちが集結しつつあった。かなりの数が集まったが、それでも不安が残る。あの怪獣を倒せるとは思えん。


「トゥエ、あの怪獣の傍まで行ってくれ」

「分かりましたであります!」


 俺はトゥエに頼んで少しずつ怪獣へと近づいて行く。


 その白い身体には傷一つなく、表面はつやつやとした陶磁器のような質感。月明かりを浴びて輝いている。どういう材質なのか分からない。


 あの謎物質で構成された怪獣が本当にシロなのだろうか?


 どうして急に巨大化したんだ? やっぱり勇者たちが何かしたのか。原因があるのなら、それを取り除けばシロを元の姿に戻せるのか?


 俺はミィの姿を探す。すると、怪獣の少し離れた場所で、同じ速度で移動する騎士の姿が見えた。


「あそこだ、あそこへ降ろしてくれ!」

「了解であります!」


 俺はトゥエに命じて着陸。

 ミィに駆け寄って状況を尋ねる。


「ミケ! 大丈夫か?」

「うん……なんともないけど……。

 これ、どうすればいいの?

 さっきから全然止まらないんだよ」


 止める方法は俺にも分からん。


 怪獣の足には色んな物質がまとわりついている。触れたものはなんでも取り込んでしまうので足がどんどん太く……。


 あっ、そう言えば。


「ミケ、足の先端がどうなってるか分かるか?」

「足の先端?」

「コイツの足跡を見てみろ。

 そんなに深くないだろう。

 つまり、地面に接している部分だけは、

 物を吸収しないようになってるんじゃないか?」

「そう言えば……」


 怪獣が足を上げると、地面に接する部分だけが白いままだと気づく。やはり足の先だけは物体を吸収しないらしい。


「見ろ、先端には何もくっついてないだろ。

 あそこを攻撃すれば……」

「分かった、ちょっとやってみるね」


 ミィは剣を引き抜く。

 すると、その刀身が輝き始めた。


「え? 何それ?」

「あのマティスって奴の真似をしてみたの。

 試しにやってみたらうまくできた。

 これで攻撃してみるね!」

「え? ちょ……」

「うおおおおおおおおっ!」

「ミケ! 待てっ!」


 俺が止めるのも聞かずミィは怪獣に切りかかる。


 彼女の繰り出した斬撃が怪獣の足の先端にヒットするのと同時に爆発。まばゆい閃光が放たれる。


 毎度、疑問に思うが、どういう理屈で爆発してるんだろうか。詠唱をしているわけでもないので魔法とも違うんだろうな。

 勇者の生態について詳しく知らないので、彼らがどんな力を持っているのか未だに良く分からない。




 ギギギギギギ……。




 金属がきしむような音がして足にひびが入ると、まとわりついていた物体が剥がれ落ちていく。どうやら攻撃が効いているようだ。


「やったよ! ユージ!」

「でかした!」


 ミィは嬉しそうに跳ねる。


 彼女の持っていた剣は元の形のまま。

 やはりあそこだけは物体を吸収しないようだ。


「ようし! 敵の弱点が分かったぞ!

 トゥエ待機しているオークたちに伝えてくれ。

 コイツの弱点は足の先端だ!

 そこを狙えば武器が取り込まれない!」

「了解したであります!」


 トゥエは街の方へ飛んで行く。


 弱点が判明したので敵を倒す算段が付いた。

 街の中へ入ることは阻止できそうだ。


 しかし……これを倒したらシロはどうなる?

 ちゃんと回収できるのか?

 それとも……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なるほど!  確かに無闇に何でも吸収してたら地面にもぐっちゃうもんなあ。  こういう所を考えつくのがすごいと思います。
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