77 オークたち
俺たちは魔王城の外へ。
城の前には何人ものオークが待機しており、俺たちが出てくるのを待っていた。
「すごいな、こんなに集めたのか?」
「ああ、時間はかかったけどな。
みんなユージの力になりたいって言ってる。
普段の行いのたまものだな」
ノインの言葉に照れくさくなった。
集まっているオークは数百人。正確な数は分からないが、かなりの人数が集まってきている。
「おおい! ユージさま!」
この声は……ヌルか?
「おお、ヌル。お前も来てくれたのか」
「当然でしょう、こんな時くらい協力しないと。
遠慮なく俺たちを頼って下さい。
あんな化け物一ひねりにしてやりましょう!」
そう言って豪快に笑うヌル。あの巨大な怪獣を目にしても全く臆していない。
「おっ、なんだノイン。おめぇもいたのか」
「どうもです」
ヌルに軽く会釈するノイン。
「聞いたぞ、ノイン。
ユージさまと一緒に勇者と戦ったんだってな!」
「……え? 誰からそんなことを?」
「誰って……誰だったかな?
まぁ、そんな細かいことはどうでもいい。
お前が出世したことに違いはない。
これからもどんどん頑張れよ!
オーク初の幹部も夢じゃねぇ!」
ヌルはバンバンとノインの肩を叩く。
この二人は俺と出会う前から付き合いがあって、ノインが荒れていた時代に街で知り合ったらしい。
「幹部だなんて……そんな。
俺はただの料理人で……」
「なに言ってやがる。
上を目指すんだよ、上を。
料理人が続けたかったら、
この国一番のシェフを目指せ。
そんでついでに幹部になっちまえ」
「そんなむちゃな……」
ノインは困った表情を浮かべ、首筋をかいていた。
ヌルは多大な期待をノインに寄せている。
同じ種族が出世するとやっぱり嬉しいのかね。
「ううむ……こうしてオークが二人並んでいると、
どっちがどっちか見分けがつかないですの」
二人を交互に見やってエイネリが言う。
「失礼な奴だ、二人とも全然違うだろう」
「どう違うですの?」
「ほら、よく見てみろ。
牙が一本の方がヌルで、二本の方がノインだ」
「ああ……本当ですの。
確かに牙の数は違いますけど……。
全体的には同じに見えますの」
同じに見えるかねぇ。
確かにオークは一様にごつい顔つきで、似たような感じの見た目の奴が多い。けれども、彼らと長く関わっているうちに、微妙な顔つきの違いが分かるようになるのだ。
「こらぁ! こんなところで何をしているっ!」
乱入者が現れた。クロコドだ。
奴は両目を血走らせてまっすぐに俺の方へと駆け寄ってくる。
「この騒ぎの原因は貴様かぁ!」
「ええ、私ですが、なにか?」
「ええぃ、居直りおって!
直ぐに解散させろ!」
なにを言っている? これから戦いに行くんですが。
「いえ、それはできません。
我々はこれからあの怪獣の討伐に向かいます」
「はぁ⁉ 討伐だと⁉
貴様、勝手に軍を動かすつもりか?
ここにいるオークたちは、
他の幹部の兵であろう!
貴様の命令など……」
「閣下からは既に許可をもらっています。
これをご覧ください」
俺はレオンハルトのサインが入った書類を見せる。クロコドはそれを受け取り、両手で持って隅から隅まで目を通す。
「ぐぬぬ……また貴様は魔王様に……」
「これで分かったでしょう。
私の独断で動いているのではなく、
これは全て閣下の指示です。
口をはさむのはやめて頂きたい」
「ふざけるなっ!」
クロコドは地団駄を踏む。子供か。
「アンデッドの貴様が兵を動かすなどありえん!
軍の指揮を執るのは我々獣人の務めだ!」
「ですが閣下は……」
「黙れええええええええ!」
ダメだコイツ、話を聞く気がないらしい。
「オークども! コイツの指示になど従うな!
貴様らのボスは誰だと思っている⁉
我々、獣人であろう!
アンデッドなどに従うなっ!」
クロコドが呼びかけるとオークたちは口々に文句を言いだした。
「……うるせぇ」
「帰れ、帰れっ!」
「黙れかませワニ!」
「なっ……なんだと⁉
貴様ら立場をわきまえろ!
オークの分際でぇ……」
あーあー。言っちゃいけないことを……。
案の定、オークたちから反発を喰らい、クロコドは物を投げられたじたじに。
「貴様らっ! 何をするっ!
オークのくせに獣人に歯向かうなど……」
「クロコドさまぁ!」
「むっ、フルドアか。どうした?」
フルドアと呼ばれた狼の獣人がクロコドに駆け寄って耳打ちする。すると奴の顔が急に青くなった。
「なんだと! それは本当なのか⁉」
「はい、他の幹部の方々と連絡が付きません。
混乱に乗じて賊が入りこんだようです」
「くっそぅ……こんな時にっ!」
どうやらマズイことが起こっているらしい。幹部の連中に何かあったのか? まぁ、どうでもいいな。
幹部と連絡がつかないのならオークを引き抜いても大丈夫だろう。
「ノイン、ここにいる連中で手分けして、
他の軍に所属しているオークに声をかけてくれ。
出来るだけ多くの兵士を街のはずれに集結させろ。
あの怪獣を迎え撃つぞ」
「了解だ」
「ヌル、お前にも頼みがある」
「へぃ、なんでしょうか?」
「この二人を安全な場所へ連れて行ってくれ」
俺はサナトとムゥリエンナの二人を、丘へ連れていくようヌルに頼んだ。
「分かりました。
しかし……ユージさまも隅に置けませんね。
女の子をこんなに沢山はべらして……」
「何を言っているんだ、お前は。
有能な奴に声をかけて部下にしただけだ。
狙って女ばかりを集めたわけじゃない」
「本当ですかねぇ……」
「違いますですの!」
エイネリが口をはさんだ。
「ユージさまのお相手は、
ノインさんと決まっていますの!」
「え? アンタは?」
「ユージさまの腹心の部下。
エイネリ・コーデリですの!
わたくしは男の子同士の恋愛を推奨しますのっ!
女の子同士の恋愛も!」
「うわぁ……」
面倒な奴だと一瞬で理解したのか、ヌルはあからさまに距離を置く。
「ユージさま……こんなのが部下なんですか?」
「彼女はこう見えて有能なんだ。
性格は……目をつむってくれ」
「苦労されているんですねぇ」
ヌルは感慨深く言った。