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76 働くために生まれたわけじゃない

「エイネリ! エイネリはいるか⁉」


 俺は魔王城を駆け回って彼女を探した。


「ユージさまぁ!」


 彼女は直ぐに見つかった。酔いつぶれてぐったりとしているムゥリエンナを後ろから抱えて引きづっている。


「そんなところで何をしている?」

「廊下で酔いつぶれていたこの人を見つけたので、

 横になれる場所まで連れて行ってさしあげようかと。

 お願いですからユージさま、手伝って下さい!」

「今はそれどころじゃない。

 もうすぐここも危なくなる」

「え? なにかあったのですの?」


 俺は現状について伝える。


「ええっ……怪獣が⁉ それは大変ですの。

 でも、ムゥリエンナさんどうしましょう?」

「外まで連れて行くしかないなぁ。あと、サナトも……」

「え? あのロリガキも⁉」


 途端に嫌そうな顔になるエイネリ。

 そんなに嫌いなのか……。


「嫌なのは分かるが、そこをなんとか頼む。

 俺にとっては大切な部下なんだよ」

「絶対に嫌ですの!

 あのロリガキを運ぶなんて……。

 私の麗しい肌が汚れますの!」


 どんだけ嫌いなんだよ。


「おーい! ユージぃ!」


 ノインがやってきた。ちょうどいい所に……。


「言われた通り、皆を集めておいたぞ」

「ありがとう。

 早速で悪いけど、助けてくれないか?

 ムゥリエンナを安全な場所へ連れていきたいんだ」

「このラミアのねーちゃんを? いいぜ」

「あと、サナトもダウンしてる。

 彼女のことも頼む」

「マジか、分かった」


 ノインはひょいとムゥリエンナを持ち上げ肩に担ぐ。


「サナトさんはどこにいる?」

「ついて来てくれ、こっちだ」


 俺はサナトの所へノインを案内する。

 彼はムゥリエンナを担いだまま一緒に来てくれた。


 サナトは寝息をたててぐっすりと眠っており、とても幸せそうな寝顔を浮かべている。こっちの気も知らないで……呑気な奴だ。


「すまないな、この子も一緒に頼む」

「お前じゃぁ、運べないもんな。

 うん? このマフラーは?」

「ああ、これは俺が貸してやったんだ。

 風邪を引いたらまずいかなって思って」

「いや、季節を考えろよ。

 まだそんなに寒い時期じゃないだろ」


 鋭い突っ込み。確かにそうなのだが……。


「このマフラーどうしたんだ?」

「イミテに貰ったんだよ」

「イミテ?」

「ああ、言ってなかったっけ?

 俺の知り合いのサキュバスだよ。

 店を開業するのを手伝ってやったんだ」

「へぇ……ユージって本当に仲間が多いな。

 俺が知らない間に、どんどん繋がりを広げて、

 遠い存在になっちまう」


 大げさだな。

 知り合いが増えただけで遠い存在になるのか?


「ふふふ……ノインさんが寂しがってるですの」

「はぁ? なに言ってんだ?」


 エイネリの言葉に、ノインは首をかしげる。


「ご自分のお気持ちにお気づきでないですの?」

「アンタに俺の何が分かるって言うんだ?」

「なにも分からないですの。

 でも、なんとなく察せるですの。

 ノインさんはとっても寂しがり屋。

 お友達が出世するのは喜ばしいけど、

 自分との時間も大切にしてほしい。

 そんな風に思っているはずですの」

「…………」


 エイネリの言葉に、ノインは沈黙する。


「え? 本当にそう思ってるのか?」

「馬鹿言え、んなはずねーだろ。

 でもまぁ、お前が遠い存在になったてのは常々感じてる。

 寂しくはねぇけど、なんか切ねぇよな」


 やっぱり寂しいんじゃん。


「そうか……お前はそう言う奴だったのか」

「変な勘違いすんじゃねーぞ」

「別になんでもいいさ。

 俺とお前の関係は変わらない。

 これからもな」

「ああ……そうだな」


 俺とノインの関係はずっと変わらない。コイツは俺の友達で、俺はコイツの友達。どんなに立場が変わったとしても、それは同じだ。


「悪いが、ムゥリエンナとサナトを頼む」

「ああ、分かった」


 ノインはムゥリエンナを肩に担ぎ、サナトを脇に抱えた。二人同時に抱えても平然としている。すげーな、さすがはオーク。


 俺たちは魔王城の出口を目指す。


 廊下を歩いていると隣にいるノインが語り掛けてきた。


「なぁ……ユージ」

「なんだよ、ノイン」

「さっきの話なんだが……」

「お前が寂しいって思ってるって奴か?

 安心しろよ、俺は本気にしてない」


 俺がそう言うとノインは……。


「いや、実は当たってたかもしれねぇ」

「……え?」


 思わず俺は足を止めた。


「ほらぁ! やっぱりぃ! うひひ!

 わたくしの見立ては正しかったですの!」


 エイネリが嬉しそうに言う。

 無視。


「本当なのか?」

「つっても、変なことは考えてねぇよ。

 単純に友達のお前と絡む機会が減って、

 張り合いがなくなったって思っただけさ。

 雑用時代はいつも一緒にいただろ?

 今はそう言う時間がねぇからよ。

 つまんねぇなって」


 つまんないか。


 友達と遊ぶ機会が減ったら、そりゃぁつまらないって感じるかもしれない。


「俺以外にも友達はいるだろ?」

「確かにいるが……お前は特別なんだよ。

 たまには……なんだ。

 暇でも見つけて、どっか遊びにいかねぇか。

 釣りとか、山登りとか、ゲームとかして」


 遊ぶ……かぁ。アンデッドになってから、そんなこと考えたこともなかったなぁ。


 思えば、俺はあんまり遊んでこなかった。転生する前は仕事に追われ、休みなんてほとんど取れず、貯金も使わないまま死んでしまった。


 こっちに来てからもそれは同じ。幼少期はずっと死霊術の練習をさせられていたし、家を出てからはずっと働き詰め。


 アンデッドになって欲求が消失し、淡々と働き続け、淡々と時間が過ぎて行った。遊ぼうなんて思ったことはない。


 今の仕事がひと段落着いたら、羽を伸ばしてもいいのかもしれないな。ミィとの時間も作って、彼女とゆっくりとお話をしよう。

 それから……。


「そうだな。たまには遊びにいくか」

「だろ? 今度、皆でどこか行こうぜ」

「ああ、そうしよう」


 ノインのお陰で俺は大切なことを思い出せたかもしれない。


 人は働くために生まれてきたんじゃない。人生を楽しむために生まれたのだ。アンデッドになり果てたとしても、それは変わらないだろう。


「はぁぁぁぁ! 男性同士の友情!

 良いものですの! 尊い!」


 エイネリが後ろで騒いでいる。

 うるさい。

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