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73 緊急事態

 魂になった俺は、すぐさまゲブゲブの所へと向かう。


「うおおおおおおおおおお!」

「うわぁ、びっくりした!

 ユージさん⁉ 急にどうしたんで?

 何かあったんですか?」


 俺が覚醒したことに驚くゲブゲブ。

 まだ現状を把握できていないらしい。


「ああ、勇者と遭遇した」

「え? 勇者と⁉」

「勇者はもう大丈夫だ。

 それよりも外へ出てみろ。

 大変なことになってるぞ」

「え? 外ぉ?」


 ゲブゲブは外へ様子を見に行く。

 しばらくして大慌てで戻ってきた。


「ユージさま! なんですかありゃぁ⁉

 あんなでっかい物食い虫は初めて見ますぜ!」

「多分、シロだ」

「え? アレが⁉」


 信じられないと言った様子のゲブゲブ。


「どういう理屈か分からんが、

 勇者たちが巨大化させたらしい。

 アレが街に入ったら大変だ。

 お前も早く安全なところへ逃げろ」

「と言われましてもねぇ……。

 あっしが住人と一緒に避難しても、

 見た目が人間なんで……」


 このおっさんは自分が人間なので、他の住人から警戒されないか不安なようだ。普通に暮らせてるんだから、そこまで心配する必要は無いと思うけどな。


「それに、あっしがここを捨てたら、

 誰が新しい身体を用意するんで?」

「捨てるなんて大げさだな、逃げるだけだぞ?」

「逃げたら捨てたも一緒です。

 あっしは最後までここにいます。

 大切な作品を置いては逃げられませんからね」


 変なことにこだわってるなこの人。


 死体ならまた新しいものを手に入れればいいが、ゲブゲブの代わりなんて見つかるはずがない。


「まぁ……お前がそう言うのなら構わん。

 だがアレに取り込まれたらとても助けられんぞ」

「え? 知らないんですか?

 物食い虫は生き物を取り込めないんですよ」

「え? そうなの?」


 それを早く先に言え……。


「でもまぁ、建物が壊れたら、

 下敷きになって死ぬ奴もいるかもしれませんね」

「それはそれで危険だな。

 とりあえず、危なくなったら逃げろ。

 これは命令だ」

「へぃ……分かりました」


 ようやく納得してくれたか。おっさん一人言うことを聞かせるのに、とても時間がかかった。物事は思い通りにいかないものだ。


「それよりも、サナトはどうしてる?」

「奥の部屋で寝てますよ。骨と一緒に」


 死体の隣に寝かせたのかぁ。他に横になる場所はなかったのかな?


 俺はサナトがいるところへと向かう。彼女はぐっすりと夢の中だった。


「おーい、起きろー」

「うひひひひっ! 猫ちゃん可愛いのぉ」

「猫の夢を見てるのか?」

「あびゃー! わんわんも可愛いのぉ」


 犬も猫も好きなのか。どっちも可愛いから仕方ないね。


「とにかく起きろ! ほらっ!」

「ううん……ここは?」


 ようやく目を覚ましたサナト。

 まだ酔いが醒めていないらしい。


「ここは俺の身体の保管所だ」

「あっ、ユージさま……うひひひひっ!」

「え?」

「ユージさま可愛い!」


 そう言って俺に抱き着いてくる。


「しっかりしろ、サナト。緊急事態なんだ」

「緊急事態ってぇ、なんですかぁ?」

「ここにいたら危ないんだ。とにかく避難しないと」

「避難?」

「そうだ、逃げるんだ?」

「私を連れて遠くまで逃げてくれるんですか?」


 意味が分からん。

 そろそろいい加減にしてほしい。


「頼む、しっかりしてくれ」

「ええっ、いやぁん」

「……ゲブゲブ、水だ」

「え? 水ですか?」

「早くしろ、頼む」


 ゲブゲブは桶にいっぱいの水を持ってくる。

 それをサナトの頭から……ざっぱーん!


「きゃあああああああああ!」


 びしょびしょになったサナト。

 どうだ、これですっきりしただろう。


「なっ、なにするんですかぁ!」

「お前が酔っ払ってるからだろ。

 頼む、力を貸してくれ。

 とんでもないことが起こってるんだ」

「とんでもないことぉ?」

「外へ出て見れば分かる」


 彼女はおぼつかない足取りで外へ出た。

 そして、遠くにいる巨大化したシロを見て固まる。


「え? なんですかアレ?」

「シロだよ」

「え? あの赤ちゃんの?」

「そうだよ」

「え? え? え?」


 状況がいまいち飲み込めていないらしい。


「おーい、大丈夫かー?」

「あの……お水をください」

「また頭からかけて欲しいのか?」

「飲むんですよ」


 俺はゲブゲブに言って水を持って来させた。


「ほらっ」

「ありがとうございます」


 ごくごくと水を飲み干すサナト。

 そして……。


「ぷはぁ……なんじゃありゃああああああ!」


 サナトさん、叫んだ。


「ようやく正気になったか」

「いや、本当になんなんですかアレ。

 あんなのが街に来たら大変なことになりますよ」

「大変どころじゃない。

 全て飲み込まれて街が更地になるぞ」

「はぁ……どうしてこんなことに」


 サナトは頭を抱えた。


「ユージさま、どうするんです?」

「なんとかしようと考え中だ」

「策はあるんですか?」

「……考え中だ」

「考え中……ですか」

「……そうだ」


 正直、どうすればいいのか全く分からん。物理攻撃がいっさい通用せず、唯一の弱点は闇魔法。


 その闇魔法の使い手が、ゼノにはほとんどいない。

 よそから引っ張って来るしか……。


「なぁ……知り合いの魔女に頼んで、

 闇魔法でアレをなんとかできないか?」

「ちょっと……難しいですね。

 協力してくれるとはとても……。

 あっ、でも……。

 エイネリなら使えるんじゃないですか」


 そうか。

 ヴァンパイアなら闇魔法が使えるかもしれん。


「よし、彼女にも声をかけよう。

 すまないが魔王城まで連れて行ってくれるか?」

「いいですけど、どこかへ突っ込むかもしれませんよ」

「そうならないように慎重に運転してくれ」

「はぁ……分かりましたよぉ」


 サナトはふらふらと立ち上がり、箒を手に取ってまたがる。


「ほら、後ろに乗って下さいよぉ。

 早く、早くぅ!」

「よろしく頼む」


 俺が飛び乗ると、ゆっくりと箒が宙に浮く。


 何気に箒で飛ぶのはこれが初体験。

 というか空を飛ぶこと自体が初めて。


 ……うん? 酒臭いな。


「サナト、もしかしてお前まだ……」

「あっ、言い忘れてましたけどぉ。

 かなりスピード出るんで気をつけて下さいねぇ!」


 妙にテンションが高い。

 まさかまだ酔いが醒めてないのか?


「分かった」

「それじゃぁ、行きますよぉ……」

「うむっ……あびゃああああああああ⁉」


 箒はアホみたいなスピードで急上昇。一気に魔王城へと飛んで行った。


「ユージさまぁ、お達者でぇえええええ」


 遠ざかるゲブゲブの声が聞こえた。

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