表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/369

71 もうちょっと真面目に戦え

「いやああああああっ!」

「フハハハハ! 泣け! 叫べ! そして死ねぇ!」


 イルヴァに巻き付いた俺は、思いつく限りの嫌がらせを行った。


 耳に息を吹きかけるだけでなく、甘噛みしてみたり。胸を揉みしだいて敏感なところをいじ繰り回したり。股の間に骨を突っ込んだり、しりを触ったりと、あらゆるセクハラをやりつくす。


 しかし、それで敵が倒せるわけでもなく、俺はずっと巻き付いたまま。


 ゲブゲブの話だと、この状態から元に戻れないみたいなので、誰かに俺を破壊してもらう必要がある。


 勢いで発動したは良いが後のことは全く考えていなかった。

 さて、これからどうしたものか。


「おいクソ骨ぇ! テメェなにやってやがる!

 イルヴァが可哀そうだろうが!」


 マティスが俺の方を見て叫ぶ。

 彼はミィと鍔迫り合いをしているところだった。


「可哀そうもクソもあるか、クソ勇者。

 貴様らから仕掛けて来た戦いだ。

 何をされても文句は言えまい」

「だからってよぉ、戦い方があるだろうが!

 もうちょっと真面目に戦え!」


 って言われてもなぁ。俺は至って真面目なんですが。


 非力なスケルトンの俺では、この魔導士の女を倒せない。なんとか足止めするのがやっと。ほかに手段がないのだ。


 別にセクハラする必要もないのだが、一応敵だし困らせた方がいいと思って、なんとなくやってみただけ。


 別にセクハラがしたいわけじゃないぞ。

 本当だぞ。


「おい、黒騎士ぃ! テメェはいいのか⁉

 なぁ、おい! 何か言えよ、黒騎士ぃ!」

「…………」


 マティスが話しかけるが、ミィは一切答えない。


 彼女はどう思ってるんだろうか。

 まさか後で殴ってきたりはしないだろうな?


「いやぁ! 放してぇ!」

「誰が放すか! ウヒヒヒヒヒ!

 貴様は俺を巻き付けたまま、

 セクハラされて一生を送るのだぁ!」

「いやああああああああ!」


 サイコパス女は身をくねらせていやいやする。それでこそ囚われのヒロイン。俺の意地悪な心が刺激される。


 さっきは「殺していい?」だの言ってた奴が、今は涙ながらに許しを乞うている。こんなに面白いことがあるだろうか?


「イルヴァ! 待ってろ!

 直ぐにコイツを倒して助けに行く!

 うおおおおおおおおお!」


 マティスは全力を出しているようだが、ミィが簡単に倒されるはずがない。このまま戦いが続けば、恐らく彼女が勝つ。


 前回、マティスと戦った時はミィの方が優勢だった。奴は道具に頼ろうとしていたからな。あいつが根っからの戦闘狂ではなく、少しでも勝率を上げて戦いに臨む性格だと分かる。割と慎重なタイプなのだろう。


 連中が切り札を隠していれば別だが、どうもその様子はない。先ほどからマティスは押され気味。にもかかわらず、策を講じるでもなくただ打ち合いを続けている。


「マティスっ! 見ろっ!」


 ダクトとかいう戦士が叫んだ。


「なんだ⁉」

「新手だ! それも数十人はいる!」

「なんだとっ⁉」


 ここは連中にとってのアウェー。騒ぎが大きくなれば大きくなるほど、こちらが有利になる。


 屋根の上に何人か人影が見えた。マムニールの配下の奴隷兵たちだ。彼女たちは弓を番え、狙いを定めている。


 乱戦になっているので正確な狙いはつけられないが、敵からしたらかなりのプレッシャーになるはずだ。


「私の庭で何をしているのかしらぁ?

 不法に侵入した輩はハチの巣にしてあげる。

 その前にここから去りなさいっ!」


 どこからかマムニールの声が聞こえる。

 正確な位置は分からない。


「マムニールだな⁉ どこにいやがる!

 さっさと出てこい! ぶっ殺してやる!」


 そう叫ぶマティスだが、ミィの相手をするので精一杯。


「マティスっ! ここはいったん引くんだ!

 この数相手に、とても戦えない!」


 後退するダクトが言う。

 彼を追ってノインが切りかかっている。


「私も逃げた方が良いと思う!

 ちょっと派手にやりすぎたみたい!

 直ぐに衛兵も駆けつけてくるよ!」


 アリサが言った。

 ゆっくりとフェルから距離を置いている。


「くっそぅ! こんなはずじゃなかったのによぉ!

 引くぞっお前らっ! 退散だっ!」


 マティスは逃げ出した。ダクトとアリサもそれに続く。


「ちょっと待って! 置いてかないで!」


 逃げようとしたイルヴァがバランスを崩して倒れた。

 俺が巻き付いているのでまともに動けないでいる。


「畜生、世話の焼ける女だっ!」


 マティスは俺の身体を切断して彼女を解放。


 バラバラにされた俺の身体は力を失い、頭蓋骨が地面に転がる。まだ意識は頭蓋骨に残っているが、マティスにはいちいち壊している余裕はなかったようだ。


 敵は一塊になって逃げだし、暗闇の中へと消えて行く。


「「「「おぼえてろー!」」」」


 負けた悪役が言うようなセリフを吐いて、彼らは戦線から離脱。こうして俺たちはマムニールの暗殺を阻止することができた。

 めでたし、めでたし。


「暴漢は去ったわ!

 アナタたち、直ぐに火を消して頂戴!

 農場に燃え移ったら大損害よ!」


 マムニールはすぐさま消火活動に移る。

 奴隷たちは連携の取れた動きを見せ、バケツリレーで水を運んで火を消していた。


「流石ですね、ご婦人」

「あら、ユージさん?

 そんなところで何を?」


 地面に転がっている俺の頭蓋骨を拾い上げ、マムニールは首をかしげる。


「勇者たちと戦っていたのですよ。

 あなたを暗殺しようとしていたようで……」

「あら、ありがとう。

 そこにいるオークと白兎族はアナタの部下ね?

 黒い甲冑の彼も部下なのかしら?」

「ええ、勿論」

「アナタたち、ここの主として礼を言うわ。

 私の農場と私の命を守ってくれて、ありがとう。

 このお礼はいつか必ずするからねぇ」


 マムニールはノインとフェルに礼を言う。

 黒騎士であるミィに対しては……。


「アナタもありがと、ミィちゃん」

「……⁉」


 小声でこっそりと彼女の名前を耳打ちする。

 他の人たちには聞こえていない。


「ご婦人……」

「ユージさんにも複雑な事情があるのでしょう。

 この騎士様の正体は秘密にしておくから、

 安心して頂戴」


 そう言ってマムニールはウィンクする。


 この人、本当にすごいな。

 どうやって正体を見破ったのだろう?


「なぜ、騎士の正体が彼女だと?」

「だってぇ、見ちゃったんですもの。

 慌てて着替えてたから、なにかと思って……」


 あー、そう。そりゃばれるわ。


「奥様っ! 大変ですっ!」


 ベルが血相を変えて駆け寄ってくる。


「どうしたの?」

「向こうの方で巨大なものだが……」


 巨大な物? ベルが指さした方を見る。


 するとそこには……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ