67 クソ勇者再び
「この方向で合っているのか?」
「はい! 間違いありません!」
フェルを先頭に俺たちは魔法の痕跡を追った。
痕跡はマムニールの農場へと続いている。シロをさらった犯人はあそこへ向かったようだが、その目的が分からない。
農場にはミィもいる。黒甲冑と武器はベッドの下に忍ばせてあるので、いつでも戦える状態。いざとなれば彼女に助けてもらうのも手だ。
「……着きました。
敵はこの近くにいます」
フェルが足を止めた。マムニールの農場の入り口。
辺りは不気味なほど静まり返っている。
「敵は……何処にいる?
正確な位置は分かるか?」
「それが……」
俺が尋ねると、フェルは口ごもった。
「どうした? 分からないのか?」
「魔法残渣が散乱していて、正確な位置は分かりません。
ですが……間違いなくこの辺りにいるはずです。
どろっとした魔法の痕跡が、
いたるところに残されています」
「……そうか」
敵は直ぐ近くにいるのか。
しかし、人の気配は感じない。
……まさか、もう遅かったか?
「誰かっ! 誰かいないか!」
扉を叩いて呼びかけるが、誰も出てこない。
「くそっ! 裏口へ回るぞ!」
「ユージさま! あそこ!」
フェルが何かを発見した。
彼が指さす先には、四人の人影があった。
あれは……?
「どうやら、敵みたいだな」
ノインが言う。
彼は腰に携えていた大きな包丁を抜き、両手に一つずつ構える。フェルもパチンコを取り出して態勢を整える。
「そこの四人! 止まれ! 何者だ!」
俺が声を上げると、四人はぴたりと足を止める。
「その声わぁ……あのクソ骨やろうだなぁ?
ひっさしぶりだなぁ、おい!」
「久しぶりだな、クソ勇者」
「あ゛⁉」
クソ勇者呼ばわりしただけでこの反応。
本当に沸点が低いな。
シロをさらった犯人はマティスとその仲間か。
予想はしていたが厄介な相手が現れたな。
クソ勇者呼ばわりされて腹を立てたのか、マティスは拳を握りしめて身体を震わせている。彼の背後に控える三人は落ち着いたまま動かない。
一人はこの前いたアリサと言う女僧侶。残りの二人は……。
「マティス、落ち着け。安い挑発に乗るな」
大柄の男がマティスをいさめる。
男は立派な甲冑を身にまとい、人の背丈ほどもある大きな剣を担いでいる。筋肉もりもりのガチムチスタイル。歴戦の戦士を思わせる無骨な顔つき。角刈りのヘアスタイルがカッコいい。
見た感じ、奴の職業は戦士かな。あのナリで盗賊とか言ったら笑う。
「だけどよぉ、ダクトぉ!
むかつくだろコイツ!
早くぶっ殺してやりてぇよ」
「その骨はぶっ殺したところで直ぐに再生する。
それはお前も知っているだろう?」
「ちっ! 本当にむかつく骨だ!
殺しても、殺しても、蘇る!
忌々しいクソ骨だっ!」
「殺すのはマムニールだ。
あんな雑魚は放っておけ」
「……ちっ!」
戦士の名前はダクトと言うらしい。
意外と冷静なタイプだな。マティスとは正反対だ。
「ねぇねぇ、マティス。
残りの二人はどうするの?
殺しちゃってもいい?」
「あ? イルヴァ……また悪い癖がでたなぁ。
殺すか、殺さないかは、
その時の状況によるって言ってるだろ。
お前は殺すのが前提になってるのがダメなんだ」
「そんなこと言ったってぇ……。
殺していいなら、断然殺したいじゃない?」
「お前って、どうしようもねぇくらいにクソ野郎だな」
「ふふふ、褒めてくれてありがとぅ」
イルヴァと言うのは魔導士だろうか?
会話の内容からして、結構なサイコパスだと分かる。
今から連中と戦うのか……。
俺は冷静に戦力の差を確認する。こちらは三人。向こうは四人。おまけに勇者までいる。
……勝てねぇな、これは。
「ミィいいいいいいい!
助けてくれええええええ!
殺されてしまうぅ!」
俺は叫んだ。
「え? ユージさん⁉」
「急にどうしたユージ!」
俺が叫ぶと、二人は戸惑いの声を上げる。
俺が救いを求めれば、ミィは必ず助けに来てくれる。
あの子はそういう子だ。
「あっ! お前、急にどうした⁉
俺たちと戦うんじゃねーのか⁉
おいクソ骨! なんとか言えよ!」
マティスががなる。
お前みたいな化け物と戦えるはずねーだろ。
化け物には化け物を、だ。
「よし! 逃げるぞ!
ついてこい! 二人とも!」
「え? どこへだよ⁉ ユージぃ!」
「ユージさまっ⁉」
戸惑う二人を連れ、全速力で宿舎へと向かう。
ミィは俺の声を聴いて、既に準備をしてくれているはずだ。
頼む! そうであってくれ!
「おい待てっ! 逃げるなっ!」
マティスたちが追ってくる。
奴ら、本来の目的を見失ったようだ。
あいつらはマムニールを殺すとか言っていたが、狙いを俺たちの方へと定めた。少しは時間稼ぎになるだろう。
しかし、どうしてマムニールを? あの人が奴らに何かしたのか?
「はぁ……はぁ……追い詰めたぞ!」
宿舎までやってきた俺たちは、マティス一行に囲まれる形になった。
「やれやれ、逃げ場がなくなってしまったな」
「テメェ……俺たちに勝てると思ってるのかぁ⁉
脳筋のオークと、ウサギ耳のガキ。
それに女に力で負けるクソ骨のてめぇじゃ、
俺たちの相手になんねぇんだよぉ!」
「おい、ユージ! どうするんだ⁉
戦うのか? ここで戦えばいいのか⁉」
「ユージさま! 指示をください!」
臨戦態勢に入った二人が尋ねる。
大丈夫だ。
ここまで来たのなら、きっと助けてくれる。
「助けてくれええええええ!
もうだめだ、おしまいだぁ!」
俺は叫んだ。
「助けなんてこねぇよ……馬鹿」
マティスが言った。お前は何も分かってない。
「マティス! アレを見ろ!」
「ええっ?」
ダクトが叫びながら屋根の上を指さしている。
そこにいたのは黒い甲冑を身にまとった騎士。
「黒騎士ぃ! そこにいやがったのかぁ!」
再会を喜ぶかのようにマティスが叫ぶ。




