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62 サナト3

 魔女になってから200年がたち、私は王宮に仕える宮廷魔女となった。


 ミライア様がお住まいになられる王宮で日々の仕事に従事する。やりがいのある仕事で、充実した日々。同僚たちからの評価も高く、一目置かれる存在となる。

 ちょうど今のユージさまのようにね。


 そんな私にも弟子が出来た。何人もの魔女見習いたちが、私の元で一人前になるために勉学に励んでいる。


 ようやくこれでアミナの一番弟子にふさわしい存在になれた。そう思うとプレッシャーから解放され、心が軽くなった気分になる。


 アミナは相変わらず一人で暮らしていた。私以外に弟子を取らず、個人で商店を営むわけでもなく、何をして生活しているのかも定かでないまま、漂うように過ごしている。

 そんな彼女を見て、私は可哀そうだと思った。


 独りぼっちでいるのは何か理由があるはずだ。彼女の悩みが解決するのならなんでもやるつもり。私に何かできないだろうか?


 私の思いを知ってか、知らずか。アミナは私の元をたびたび尋ねて来てくれた。

 呑気に世間話なんかをして、ゼノから買い付けた大量の蜂蜜酒をあおり、好き放題やらかして眠りにつく。

 やれやれとアミナの身体に毛布をかけながら、その愛おしい寝顔をじっくりと眺めたものだ。


 彼女は私にとって大切な存在だ。


 幼いころに両親を失った私には血のつながった家族がいない。アミナが唯一の家族。唯一の弟子である私はアミナにとって最も大切な存在だと思っていた。


 ……彼女が現れるまでは。






 アミナがその少女を連れて来たのは、確か今から十年以上前になるだろうか。


 突然、私の元を訪れた彼女は新しい弟子だと言ってある人物を紹介する。

 それは緑色の髪で赤い瞳をした幼い少女だった。


 どこで拾って来たのかと聞くと、男に乱暴されそうになっていたと言う。たまたま通りかかったアミナが彼女を助け、自分の元へと連れ帰ったのだ。


 私はその話を聞いて、嫌な気持ちになった。


 私が魔女になると言った時、彼女は強く反対した。何度お願いしても、首を縦には振らず、考え直せと教え諭したのに。どうしてその少女は……。


 私は嫉妬した。


 勿論、顔には出さない。文句も言わない。

 それでも私の心の中で燻っていた嫉妬の炎は、全身を焦がすほど苛烈に燃え広がる。


 少女を私に紹介してから、私の元をアミナが訪れることはなくなった。


 時間が経って少女が成長し、初潮を迎える年ごろになると、アミナは付きっ切りで魔法を教える。まだ邪神と契約してもいないのに熱心な教育ぶり。


 アミナは私を見てくれない。

 私のことなんかどうでも良くなったんだ。


 そう思った私は憑りつかれたように仕事に打ち込む。弟子の教育、魔法の研究、王宮での仕事。寝食を忘れてあらゆる業務に携わり、なにもかも忘れようと努める。


 そんな時、ある知らせが舞い込んでくる。

 邪神の秘宝が魔女の国へ移送されると言う。


 秘宝は邪神を信仰する教団が所持していたのだが、派閥争いの為に内情が不安定になり、一時的にミライア様に保管を依頼してきたのだ。


 ミライア様は教団のその申し出を引き受け、秘宝は王宮で保管されることになった。私はその管理の責任者に任命される。


 他の者には任せられないと、ミライア様から面と向かって言われる。天にも昇る思いだった。


 私はなん重にも結界を張り、ブービートラップや警戒装置を設置して守りを固めた。結界には他の魔女の力も組み込んであり、簡単には解除できない。ミライア様でさえ侵入は不可能だと太鼓判を押す。


 私はそれで安心することなくさらに防備を強化。できうる最大限の努力をした。決して手を抜いたつもりは無い。


 それでも……侵入を許してしまったのだ。

 アミナが保護したあの少女に!


 少女の名はポポロと言う。名付けたのはアミナ。英才教育を受けた彼女は想像以上の実力を身に着けていた。


 幼い心に見合わない力を持つポポロは、私が仕掛けた結界を破って力を試そうと、王宮に侵入してしまった。

 それどころか、あらゆるトラップをかいくぐり、ついには秘宝に手を出してしまう。


 ポポロの侵入に気づいた私は単独で討伐に向かう。秘宝を持ち出そうとしていた彼女を見つけ、こちらから勝負を仕掛けた。


 結果、あっさりと決着がついた。

 ポポロのマナが尽きてしまったのだ。


 抵抗できなくなった彼女を捕らえ、魔法で拘束。あとは衛兵に突き出すだけ。


 これでまたアミナと二人っきりになれる。邪魔者がいなくなって私が一番になれる。そう思うと嬉しくてたまらなかった。


 しかしなぜか……胸が痛む。悲しみに打ちひしがれるアミナの姿が脳裏に浮かぶ。


 私はポポロを逃がした。彼女はお礼も言わずに去ってゆき、残された私のもとに衛兵たちが駆けつける。


 衛兵が侵入者はどこかと激しく詰め寄るが、決して何も言わず黙秘を貫く。しまいにはミライアさまの御前に呼び出され、激しい尋問を受けることになる。


 私は心に魔法でカギをかけ、心の内を読み取られないようにした。ミライアさまをもってしても、封印された心を読み解くことはできなかった。

 私はポポロの秘密を守り切ったのだ。


 真犯人をかばった罪で、裁判にかけられる。傍聴人たちは私を裏切り者と激しくののしった。


 最悪、死刑もありうる。もしそうなったら契約を解除して、大人しく朽ち果てよう。灰となれば全ての苦しみから解放される。

 それに、もう嫉妬しなくても済む。私は真っ白になれるのだ。嫉妬で黒く濁ってしまった私に、もう価値はない。


 そう思っていたのだが……。


 裁判の途中でアミナが乱入。

 私を弁護する為に現れたのだ。

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