54 翼人族VS魔女
「うわああああああああっ!
助けてえええええええええ!」
必死になって逃げるフェル。
それを血眼になって追うトゥエ。
「まてえええええええっ!
逃げるなぁああああああ!」
「なんなんですかこの人⁉
ユージさん見てないで助けて!
早く僕を助けてええええええええ!」
助けてって言われてもなぁ。
俺には何もできない。
見ているだけなのもあれなので、
一応は助けに行こう。
「まてー。やめろー」
「邪魔をするな!」
「あぎゃぱああああああああああああ!」
暴走したトゥエによって、俺は秒で木っ端みじんに粉砕される。
跡形も残らなかった。
ふわぁ。
魂が残骸から離脱。
トゥエはフェルを追いかけ続けている。
あの様子ではそのうち捕まるだろう。
俺は新しい身体を手に入れるべく、ゲブゲブの所へと向かう。
「うおおおおおおおおっ!」
「うわぁ、びっくりした!」
新しい身体に乗り移った俺は叫び声を上げて身体を起こした。
「ユージさん⁉ どうしたんですか?」
「この前、貰った身体を消失してな。
新しいのを貰いに来た」
「それは新調したばかりの改造した身体でさぁ。
腕が飛ぶし、とぐろが巻けます」
「その機能を使うかどうかは分からんが、
この身体、貰って行くぞ!」
「ええ、どうぞ」
急がねばならん。
早く助けに行かなければフェルの純潔が危ない!
俺は死体保管所を飛び出して、先ほどいた地点へと向かう。
「うおおおおおおおおっ!
待てええええええええええ!」
「嫌だぁ! 死にたくないぃ!」
町のど真ん中で追いかけっこをする二人。
フェルの体力はまだ尽きていないが、時間の問題だろう。
俺が何を言ってもトゥエは聞く耳を持たない。
どうすればあの暴走女を止められる⁉
俺には分からん!
「やめなさい!」
突然、まばゆい光が放たれ、フェルを守るようにいくつもの魔方陣が現れる。
「はっ! 何者でありますか⁉」
「どう見ても嫌がってるでしょ⁉
人が嫌がることはしちゃいけないって、
お母さんから教わらなかった⁉」
魔方陣を出したのはサナトだった。
あれはバリアー的な魔法なのだろう。
彼女は魔方陣を挟んでトゥエと対峙する。
「はっ! 嫌も、嫌よも好きのうち!
いつか私を愛してくれるであります!」
「いや、アンタ何言ってんの? 頭大丈夫?
アンタが望んでることを、この子は望んでない!
好き勝手に相手を支配しようとしても、
幸せになれないわ!」
サナトさん、正論です。
しかし目の前にいるのは正論の通じない相手。
果たして彼女はどう対応するつもりなのか。
「うるさい! 私の夢を邪魔するなぁっ!」
「話が通じない相手って嫌よね。
仕方ない……実力行為にでるしかないわ。
悪く思わないで……ねっ!」
サナトは攻撃魔法を発動!
彼女の周囲に無数の火の玉が発生する!
何気に無詠唱! すごい!
「しゃらくせえええええええええええ!」
放たれた火の玉の雨を軽やかに回避するトゥエ。
あの子、意外と戦闘力高め⁉
「そんな攻撃! 私には通用しないであります!
私はその子を手に入れるぅぅぅぅううう!
ヒャッハー! ふぅー!」
暴走したトゥエはなりふり構わずに実力行使に出た。
空高く飛びあがった彼女は太陽を背に宙を舞い、まっすぐにサナトへと突撃。
「このっ、わからずや!」
サナトは風の魔法を発動。
突風が吹き荒れ、トゥエを吹き飛ばす!
「ぬおおおおおおおおおおおっ!
こんな魔法でえええええぇぇぇぇ…………!」
まともに魔法を喰らったトゥエは、勢いよく吹き飛ばされていった。
「ふんっ、私を倒そうなんて300年早いわ」
勝ち誇るサナト。
帽子をちょいといじって決めポーズ。
「うわーん! ユージさまぁ!」
涙目になったフェルが抱き着いて来た。
「怖かったよおおおおおおお!」
「よしよし、災難だったなぁ」
俺はフェルの頭をなでなでしてやる。
コイツもこの容姿のせいで酷い目にあったが、きちんと説明すればトゥエは襲ってこなかったはずだ。
見た目はショタだが、厳密にはショタではない。トゥエからしたら守備範囲外だろう。
「ユージさま、さっきの鳥女はなんなの?」
「あの子は移住先を探している翼人族で、
この国に一族を連れて移住することになったんだ」
「えっ⁉ 移住ぅ⁉」
フェルが叫ぶ。
「あっ……ああ。そうだ」
「なんでっ⁉ ねぇ、なんで⁉」
「なんでって……そう言う成り行きで」
「嫌だああああああああっ!
ユージさま、止めさせて!
あいつらが来るのを止めさせて!
あんなのがたくさん来て住み着いたりしたら、
僕は死んじゃうよぉ!」
必死に翼人族の移住を拒否るフェル。
あんなことされたのだから、当然の反応だ。
「しかし、もう決まってしまったことなんだ」
「え? そんな……嘘でしょ……」
絶望するフェル。
この世の終わりみたいな表情をしている。
「大丈夫よ、フェル。
もしもの時はまた私が守ってあげるから」
「本当に? サナトさん、本当に?」
「本当だって、嘘つかないから私を信じて」
「うわああああああん!」
今度はサナトに泣きつくフェル。
ロリとショタが仲良くする微笑ましい光景だ。
よきかな。
「サナトは男前だなぁ」
「ユージさまもフェルを守って下さいよ! もう!」
そう言って口をとがらせるサナト。
「しょうがないだろう、俺なんてただの骨だし。
頑張ったけど無理だったんだよ。
身体を一瞬で木っ端みじんにされて、
新しい身体を取りに行ってきたんだ」
「そうだったんですか……。
まぁ、仕方ないですよね。
ユージさんはただのスケルトンだし……」
そうなのだ。
俺はただのスケルトン。
こんなにひ弱な身体じゃぁ、誰も守れない。
フェルが目の前で襲われていたのに、なんのフォローもできなかった。
有事に備えて武器を用意しておくべきかな。
拳銃とかあったら戦えるかもしれない。
この世界で拳銃なんて無理だろうけど、マスケット銃ならぎりぎり用意できそう。護身用にいくつか持っておけば、もしもの時に安心かもな。
「ううっ……ユージさん……」
「フェル、もう大丈夫だ。そろそろ泣き止め」
「あのぉ、お話があってぇ……」
そう言えば何か見つけたとか言っていたな。
何を見つけたんだ?
「実は……これを……」
「……えっ?」
そう言ってフェルが差し出したもの。
それは……。