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53 死ぬまでお世話させるだけ

「それは……?」


 トゥエが腰から下げていたもの。

 それはラッパだった。


「ラッパ? なんで持ってんだ?」

「これで遠くにいる仲間に合図を送るであります。

 結構遠くまで音が届くであります」

「……なるほど」


 翼人族は音で仲間とコミュニケーションを取るのか。

 前世でもそう言う部族がいると聞いたことがある。

 遠距離での連絡では有用な手段なのだろう。


「どんな風に使うんだ?」

「ええっと、例えば……」


 トゥエはラッパを口に当て、周囲に響き渡るような大きな音を立てる。

 思わず耳を塞いでしまった。


 鼓膜も外耳もないけど。


「すごい音だな……」

「これくらい大きい音で吹かないと、

 遠くの仲間まで届かないであります」

「音で連携を取るとしたら、

 敵対している奴らに気づかれるんじゃないか?」

「うーん……気づかれても問題ないであります。

 私たちの戦争は部族どうしで場所を決めて、

 お互いの戦力も全部相手に伝えますので。

 奇襲とか闇討ちは基本的に行わないであります」


 うーん。

 名乗りを上げてから戦いに挑む武士みたいな人たちだな。

 戦争の概念が俺たちとは基本的にずれている。


 しかし、音で連絡を取るって方法は、案外使えるかもしれない。


 太鼓や銅鑼を使って兵士を誘導したりするし、ラッパもその役割を果たすだろう。獣人とかオークが戦う時に合図をする手段としては、十分に有用なのかもしれない。


 突撃の合図をラッパでするのってカッコいいな。音とともに敵軍になだれ込んでいく魔王の軍勢。想像したらちょっとわくわくしてきた。


「ラッパ以外では他に何か使ったりするのか?」

「他にも太鼓とか、弦楽器とか、木琴なんかを……」

「へぇ……」


 楽器が好きなんだなぁ。


 翼人族は戦いに使う以外でも、普通に演奏をして楽しんだりすると言う。音楽をこよなく愛する部族らしい。


 楽器……かぁ。


 戦場に行くときにも運んでいくのかな?

 そうすると輸送コストが……あん?


「なぁ……トゥエ。

 もし戦場へ行くとしたら、

 当然、楽器も持って行くよな?

 その楽器を誰かに預けたりしても、

 問題ないかな?」

「え? 預ける?

 別に構いませんが……良いのでありますか?

 本当なら我々で運ぶべきですが……」

「ああ、構わない。

 ちょうど手が空いている奴らがいるんだ」


 手が空いている奴らとは、マムニールのハーフ奴隷のことだ。


 彼女たちの従軍を認めさせるには、他の幹部にその有用さを示す必要がある。しかし、非力な彼女たちがいくら弓をうまく扱おうと、アイツらが戦力として認めるとは思えない。


 そこで……発想を転換。彼女たちには兵士としてではなく、音楽家として従軍してもらう。


 翼人族は音楽をこよなく愛しており、心をいやすために音楽家の奴隷を飼っている。彼女たちを引き離すことはできない。ともに戦場へ連れて行く必要があるのです。


 なんてことを言って魔王を説得し、従軍を許可する書類にサインさせてしまおう。


 一度、許可を取ってしまえば、後から他の幹部から文句を言われても関係ない。サインの入った書類を見せて黙らせればいいのだ。


 確実な方法ではないが、今までの経験からして上手くいく気がする。

 魔王を丸め込むのはそう難しくない。


「構わないか?」

「楽器を大切に扱ってくれるのなら別に……」

「よし、決まりだな。

 こっちへ引っ越しするつもりなんだろう?

 ゼノに居住地を確保しておくから、

 必要な物は全て持ってきてくれて構わないぞ」

「え? 本当でありますか!?

 願ってもないであります!」


 スムーズに受け入れの話が進んだので、トゥエは非常に驚いていた。


「ただ、山がほとんどない国だから、

 用意できるのは普通の土地だ。

 それでもかまわないか?」

「ええ、大丈夫であります。

 ずっとテント暮らしだったので、

 テントが張れる場所があればそれで……」


 そんなもん腐るほどあるぞ。


 適当な三等地でも買い取っておくか。

 トゥエは聞き分けが良いから、他の翼人族も素直な連中に決まっている。どんな土地でも文句は言わないだろう。

 ゼノは無駄に土地が余ってるからなぁ。移住者は大歓迎。


 翼人族の移住に関する手続きも済ませておこう。

 そっちは事務的な処理をするだけなので、俺の権限でなんとかできる。


「これから忙しくなるぞぉ!

 トゥエは早速、一族の所へ戻って、

 引っ越しの準備をしてくれ!」

「了解したであります!

 あの、一つ確認したいのでありますが……。

 この国に幼くてかわいい男の子はいますか?」


 突然、よく分からないことを聞かれる。

 男の子なんて沢山いるが……それがなにか?


「まぁ……いるんじゃね」

「本当でありますか⁉ うへへへへ……。

 可愛い獣人の男の子が沢山いるんですよね?

 ちょっとなら、さらっても怒られませんよね?」

「いや、普通にダメだよ。怒られるよ」


 なに言ってんだこの子?

 本当に急にどうした?


「でも、ちょっとだけなら……」

「ちょっとでもダメ。ダメなもんはダーメ」

「別にさらって食べるわけじゃないんですよ?

 連れて帰ってたっぷり可愛がって、

 永久におうちに帰さないだけですよ?」


 真顔でいうトゥエ。


 なに考えてんのこの子、本当にヤベーよ。

 意味不明過ぎてヤバい。


「あのさ……ひとつ聞きたいんだけど……。

 シナヤマでそんなことしてないよね?」

「……多少は」

「多少って、何回くらい?

 何回くらい男の子をさらったの?」

「軽く年に100件くらいであります。

 ドンドルズさまも目をつぶって下さいました」


 その程度って……年に100件も誘拐事件を起こしたら、それこそ大事件なんですが……。


「サイクロプスの男の子は目がウルウルしてて、

 とっても可愛かったであります。

 でも……お父さんがこっそり逃がしてしまうので、

 気づいたら皆いなくなっていたであります。

 仕方なくまたさらいに里まで飛んで行って……」

「逃がすのは仕方ないんじゃないかなぁ。

 男の子達には帰るところがあるんだからぁ」

「ずっと私の傍にいさせて、

 死ぬまでお世話をさせようと思ってたんですよ?

 それを勝手に逃がすなんてひどくないですか?」


 酷くない、酷くない。

 どう考えてもお父さんの方がまとも。


 ううん……見た目はただの美少女なんだけどな。羽の生えたショタコン誘拐犯だったとは。変態も度が過ぎると犯罪だぞ。


 そんな子を勧誘してしまい後悔しかない。

 なんてことをしたんだ、俺は。


 しかし……ドンドルズはよくこんな部族を放っておいたな。普通だったら一族郎党皆殺しにされるだろう。器が大きいと言えば、そうかもしれないが、俺は単に何も考えてないバカだと思う。


 トゥエのせいで、俺の中のドンドルズの株が急落した。

 お前はレオンハルトに次ぐバカ魔王だ。


「とにかくダメ。ショタをさらうのはダメ!」

「え? ショタ?」


 聞きなれない言葉に首をかしげるトゥエ。


「小さい男の子って意味だ」

「この国ではそう言う風に言うでありますか!」

「うん……まぁ……」

「ユージさぁん!」


 遠くからこちらへ駆け寄って来るフェルの姿が見えた。


「ユージさぁん! 大変です!

 大変なものが見つかりましたぁ!」


 大変なのはお前だよ!

 目の前にいるのはお前の天敵だぞ⁉


「ダメだー! 来るなー! 逃げろー!」

「え? ユージさん? いったい何を……」

「いたあああああああああ!

 ケモミミ! 男の子!

 うおおおおおおおお!」


 突然、急上昇するトゥエ。

 天高く飛びあがった彼女は、フェルに向かって一直線に急降下する。


「え? え?」


 何が起こったか分からず、固まるフェル。


 終わった……フェルの純潔はここまでだ。

 あの羽の生えた化け物によって、跡形もなく汚されてしまうだろう。


「うわあああああああっ⁉」

「まてええええええええ‼」


 トゥエに追い掛け回されるフェル。

 俺には彼を助けるだけの力がない。


 ……どうしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軍隊に楽器、楽団はつきものですよね! あー、すごい! ワクワクする! 戦いもののファンタジーや戦争映画で、楽団がいたり、荒々しい歌を戦士たちが歌うシーンなど、大好きなのです! ものすごく高…
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