52 シナヤマの国
翌日。
俺は魔王城へと向かった。
シロを抱えていなくてもいいので随分と体が軽い。
身軽過ぎてスキップしたくなるくらいだ。
しかし、重荷となるとはいえ、急にいなくなると寂しいな。
ずっと抱っこしてたからなぁ。
ミィの所へ寄る前に、シロの様子も見に行こう。
俺にとっては可愛い……。
……うん?
可愛い……あれが?
俺は何を考えてるんだ?
あんな意味の分からない生き物が可愛いなんて。
長く接して情が移ったか。
やれやれ、どうかしてるな。
骨が愛情なんて持ってどうする?
シロは……どう思ってるんだろうな?
俺をただの骨と認識しているんだろうか?
などと考えながら歩いていると、ある人物に出くわした。
「ユージさまぁ!」
上の方から声がする。
空を見上げると……。
「あっ、トゥエか。久しぶり」
声をかけて来たのは翼人族のトゥエだった。
彼女は俺の前に降り立つ。
「お久しぶりであります、ユージさま」
「元気そうで、なによりだ」
「あのっ、先日の件なんですけど、
母に相談してみたであります。
力になれるのならぜひ協力したいと、
そう言っていたであります!」
予想外にすんなり話がまとまったな。
あとは彼女達の居住地を確保しておけばいい。
飛竜以外の航空戦力が手に入れば、戦いを有利に進められる。
翼人族の協力はわが軍にとっての強みとなるだろう。
「私たちは何をするのでありますか?」
「主に任せるのは偵察と伝令だな。
あとはたまーに飛竜と戦ったりはするかなぁ」
「空の戦いなら任せて下さい!
どんな敵でも倒してご覧にみせるであります!」
自信たっぷりに言うトゥエ。
思いのほか食いつきが強い。
飛竜と戦うと聞いても怖がらないなんて。
意外と戦闘狂だったりするのか?
「一度君のお母さんにも挨拶をしないとね。
君たちの一族ってどこに住んでるんだっけ?」
「ええっと……シナヤマの国のジーフ山であります」
シナヤマの国? それって確か……。
「鬼眼王の支配してる領地だっけ?
そんなに遠くから来てるの?」
「はい、そうであります」
鬼眼王ドンドルズ。
種族は一つ目のサイクロプス。奴が支配するシナヤマの国は、ゼノから遠く離れている。
シナヤマは山に囲まれた国家で、国土のほとんどが山岳地帯。山を切り開いて作られた棚田が有名で、せっせとコメを育てて暮らしている。
妙に和風な感じの国で、刀とかも作ってるんだよなぁ。
鬼眼王のドンドルズも刀を使う剣士。
滅茶苦茶強いことで有名だ。
「てことは、君たちはシナヤマの国民ってこと?」
「厳密には違うであります。
私たちは国から国へと移り住む一族で、
どこかに定住したりはしないであります。
でも、シナヤマで長いこと暮らしていたので、
半分くらいは国民って感じであります」
「へぇ、そうなんだ。
でもどうしてこの国に?」
「それは話すと長くなるんですけど……」
複雑な事情があるらしい。
トゥエの一族は危機的な状況にあるという。
鬼眼王の支配するシナヤマの国では、サイクロプスが人口の大半をしめている。翼人族は彼らと友好的な関係を築いていたが、ある事件がもとで崩れてしまった。
その事件と言うのがシナヤマの国のお家騒動。
先代の魔王もサイクロプスだったのだが、自分の子供に王位を継がせようと考えていた。しかし、それに待ったをかけた人物がいた。現魔王であるドンドルズだ。
ドンドルズは将軍を務める有力者。魔王に相応しいのは自分だと言って、先代魔王に反旗を翻した。
次代魔王を決める戦いはシナヤマの国中に広がり、山の中で暮らしていた翼人族も巻き込まれてしまう。
トゥエの一族は先代の方に味方して戦った。
彼女たちと敵対する部族はドンドルズに味方したので、翼人族同士での戦争に発展。血で血を洗う熾烈な争いを繰り広げたという。
内戦の結果、先代魔王は敗北。
反乱を起こしたドンドルズが勝利した。
戦いに敗北したトゥナ達ではあったが、ドンドルズの計らいで定住は許可された。
それでも戦争に負けた一族として、肩身の狭い思いをしているという。また、敵対する他の部族からも圧力がかかり、居づらくなる一方。
一族で話し合った結果、別の場所への移住を決断。
トゥナは移住先を探して、魔族の領域に存在する国々を飛び回ったそうだ。
「なるほど、苦労していたのだな」
「そうでもありません。
旅行してるみたいで楽しかったであります」
「そう言えば、君たちってどれだけ早く飛べるの?」
「三日でゼノとシナヤマを往復できるくらいには」
「ほぅ……」
ゼノとシナヤマはかなり離れている。
簡単に説明すると、ゼノの西隣に魔女の国のヴァジュが存在し、さらにその西隣がシナヤマ。一国跨いだ場所にあるので、かなりの距離になる。
それを三日で往復か。結構、早く移動できるな。
「すごいね、君たち」
「これくらい翼人族なら普通であります。
それに、ドラゴンはもっと早く飛べるであります。
私たちとは比べ物にならないくらいに」
ドラゴンに対抗する気概がすげーよ。
俺だったら考えもしないが。
「うん? それは?」
「あっ、これは……」
俺はトゥエがある物を持っていることに気づいた。
それが俺の抱えている問題を解決する大きなヒントとなるのだった。




