48 マムニールの目的
「困ったこと?」
「ええ、実は……」
マムニールは個人的に幹部との接触を図っていた。
侵攻軍に自分の奴隷を従軍させるために、コネクションを作ろうとしていた。
本来、それは俺の役目だった。しかし彼女は負担が大きくなると考え、陰ながらサポートしてくれようとしていたのだ。
何人かの幹部に接触した彼女は当初、手ごたえを感じていた。どいつもこいつも鼻の下を伸ばし、好意的な態度をとっていたという。
しかし……奴隷の話をした途端に、彼らは一様に否定的な反応を示す。
神聖なる戦場に女を連れて行くだけで有り得ないのに、あまつさえ奴隷の少女を同伴させるなど笑止千万。ふざけたことを言うんじゃない。
どの幹部も口をそろえてそう言った。
「ふむ……困りましたな」
「このままでは彼女たちの訓練が無駄になってしまうの。
どうしたらいいか、知恵を貸してもらえるかしら」
「ううむ……」
幹部たちを説得するのは骨が折れそうだ。
人種問題だけでなく、性別の問題までのしかかるとは。
しかし、簡単にあきらめるわけにはいかない。
獣人婦人会の実力はマジモンだ。アレは絶対に戦力になる。
まぁ、そっちは多分大丈夫だろう。レオンハルトを丸め込めば皆を納得させられる。問題はハーフの方だな。
人間との混血者を従軍させるには、それなりの説得力が必要だ。つっても、彼女たちの実力を示すには、実戦で示すほかない。
訓練の様子を見せたところで、幹部たちを納得させられるかは疑問だ。
あの脳筋共に弓矢なんて通用しないので、どんなに正確に狙いをつけられようと、説得材料にはならない。
獣人は腕力でしか物事を判断しないからな。
「婦人会の方々はともかくとして、
なんの策もなしにハーフの従軍を認めさせるのは、
少し難易度が高いですね」
「でしょう?
私もいろいろと考えてみたのだけれど、
何もいい案が浮かばないのよねぇ。
ユージさんはどうかしら?」
「私は……」
ハーフを戦闘要員として連れていくのを、幹部どもに認めさせるのは無理そうだ。戦闘以外での役割を設け、それで幹部を納得させ、こっそりと武器も持って行くのが正解かもしれない。
しかし……他の役割ってなんだろうなぁ?
どう言えば幹部たちは納得するだろうか?
非常食……はなぁ。他になんて言えばいいか分からん。
「少し、時間を貰ってもよろしいでしょうか。
彼らを説得できる材料を用意します」
「よろしくお願いするわぁ。
あの子たちが戦場で手柄を上げれば、
私の名声も上がる。
そうすればぁ……」
マムニールは紅茶を一口すする。
「私の幹部入りも夢じゃないわねぇ」
ほぉ。
マムニールは幹部になろうとしているのか。
大きく出たな。
「まさか……ご婦人。
実力でクロコドを排除するつもりでは……」
「そのまさかよ、ユージさん。
私は幹部になって自分の軍団を組織し、
いつかあの憎きクロコドをこの手で……」
カップを置き、グッと拳を握るマムニール。
復讐に励むのは結構だが、少しばかり焦りすぎているような気がする。
「ご婦人、そう焦らずとも……。
今回の戦が終われば、
あなたの名は国中に響き渡るでしょう。
軍団の件はその後でじっくりと考えればよろしい。
急いては事を仕損じますぞ」
「そうねぇ……ユージさんの言う通り。
でもね、そう悠長に構えてはいられないわ。
私の夫と息子が夢に出てきて言うの。
早く俺たちの仇を取ってくれって」
「そうですか……」
マムニールは復讐に憑りつかれている。
彼女がその呪いから解放されるには復讐を達成するしかない。
和解する道もあるが……まぁ、それは無理だろうな。
俺もお勧めしない。
「そう言えば……。
闇討ちを目撃した従者とは、
誰だったのでしょう?」
「ベルよ。
あの時、彼女はまだ幼くて、
荷物に隠れて難を逃れたの。
他の奴隷は皆殺しにされたわ」
「そうですか……」
目撃者が嘘をついている可能性もあると、少なからずその可能性も考慮していたが……それは無いな。
彼女は信頼できる。
「私の夫と息子は、腹を十字に引き裂かれ、
臓物をあたりにぶちまけて死んでいた。
野生の魔物が集って来ていて、
それはもう酷いありさまだったわ」
「左様ですか……」
自分の愛すべき家族がそんな目にあったというのに、正気を失わず冷静さを保てるマムニールの精神力は凄い。
俺は決して彼女に復讐をやめろとは言わない。
大切な家族を奪った輩には、相応の報いを与えるのが当然だ。
クロコドは高い代償を支払う羽目になるだろう。
コンコンコン。
ドアがノックされた。
「入って、どうぞ」
「失礼します」
マムニールが許可を出すと、ベルとシャミが部屋の中へと入ってきた。
「お呼びでしょうか、ユージさま」
シャミは軽く会釈する。
「ああ、先ほど言った通り、
君にプレゼントがあるんだ」
「ありがとうございます。
ですが、私は奴隷の身分でして……」
マムニールの手前、一応は断るそぶりを見せるシャミ。
彼女は奴隷として身の振り方をわきまえている。
「ご婦人から許可は取ってある。
これはミィの面倒を見てくれているお礼だ。
仕事の報酬として受け取ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
俺はシャミに石鹸を渡した。
彼女は包み紙を取って、その中身を確認する。
「これは?」
「石鹸だ、身体を洗う時に使うといい」
「本当に貰ってもよろしいんですか?」
「勿論だ。受け取ってくれ」
シャミは石鹸を両手で持って胸の前で抱え、目には涙を浮かべる。
「え? どうしたの?」
「あのっ……嬉しくて……その……。
贈り物なんて貰ったのはこれが初めてで……。
なんてお礼を言えば良いか……」
泣くほど嬉しかったのかぁ。
確かに、石鹸はそれなりに高価だ。なかなか手に入りづらい品ではある。
それでも泣くほど感動すると思わなかったので、彼女の反応には驚かされた。
「喜んでもらえたようでなによりだ。
その調子で、ミィのことも頼む」
「はい! 任せてください!」
笑顔で答えるシャミ。
彼女は一層頑張ってくれることだろう。
「そう言えば……今日のミィはどうだった?
どんな様子か教えてくれるか?」
俺が尋ねると、ベルが答えた。
「彼女なら……もうだめです」
……え?




