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47 プレゼント

 俺はマムニールの農場へと向かった。


「あっ、ユージさん! こんにちは!」


 シャミが挨拶してくれた。こちらも手を振ってかえす。


「元気そうだな、シャミ」

「元気がなくちゃ仕事にならないですからね!

 一生懸命、頑張ってます!」


 そう言ってまぶしい笑顔を見せるシャミ。

 復活したみたいで良かった。


「マムニール婦人はいるか?」

「はい、お部屋で寛いでおられます。

 お会いになりますか?」

「ああ、でもその前に……」

「ミィちゃんですか?」

「……うむ」


 ミィはちゃんと働けているのか。

 それが一番の関心事であることはたしか。


 しかし……他にも気になることがある。


「シャミは大丈夫なのか?」

「え? 私ですか?」


 キョトンとするシャミ。


「先日はだいぶ疲れていたように見えたからな。

 ミィのことで苦労をかけたのではないかと、

 心配していたのだ」

「私のことなんか気にかけてくれて、

 本当にありがとうございます。

 けど……心配はご無用ですよ。

 この通り、私は元気です」

「今日はミィと関わっていないのか?」

「ええっと……」


 気まずそうに眼を逸らすシャミ。


「すみません……軽く挨拶をしたくらいで……」

「……そうか」

「あっ、でも、誤解しないでほしいんですけど、

 無視をしたりとか、そう言うんじゃなくて、

 ただ単にお話しする時間がないって言うか。

 ミィちゃんとっても忙しいみたいで……」

「忙しい?」

「はい、ベルさんが熱心に仕事を教えているので、

 お喋りする時間が無いんですよね」


 ベルも頑張ってくれているみたいだ。

 ありがたいことだ。


「なるほど、順調にいっているようだな」

「はい、ベルさんが付いていれば大丈夫だと思います。

 あの人って本当にすごいんですよぉ。

 なんでも一人でこなして完璧なんです。

 ミィちゃんの教育も彼女に任せておけば安心かと」

「ほぅ……」


 よほどベルの評価が高いんだな。


「ベルは君たちにとってどういう人なんだ?」

「遠い存在……ですかねぇ。

 実は私もあまりお喋りしたことがなくて、

 どういう人なのかよく知らないんですよ」

「そうなのか……」

「もっと仲良くしたいって思ってるんですけどね。

 近寄りがたい雰囲気があるというか……」


 確かにちょっととっつきにくい印象だったな。

 見た目はクールで近寄りがたいが……。

 意外と親しみやすい性格だと思うぞ。


「ありがとう。ちょっと話があるから、また後で」

「え? 話って?」

「マムニール婦人の許可が得られてからだが、

 君にプレゼントがあるんだ」

「プレゼント⁉」


 ぱぁっと花が咲いたように笑顔になるシャミ。

 感情豊かで可愛いな。


「ああ、後で呼び出すと思うから取りに来てくれ」

「はい! 喜んで!」


 プレゼントと聞いてこんなに喜んでくれるなんて。

 早速、マムニールに許可を取りに行かないと。






「え? ダメっ⁉」


 俺はマムニールの返答に耳を疑った。


「そりゃぁそうでしょう。

 奴隷に物を与えるなんて、絶対だめねぇ」


 ソファに寝そべったマムニールが言う。


「そこをなんとか……」

「ダメなものはダーメ。

 他の子たちの手前、不公平になることはできないの。

 ね、ベルもそう思うでしょ?」


 マムニールが言うと、ベルは「はい、奥様」といって頷く。


「でも、もう約束してしまって……」

「ユージさんったら困るわぁ。

 勝手なことをされて、その後処理をするのは、

 私とベルになるっていうのにぃ」

「……申し訳ありません」


 うーむ。しまったなぁ。


 てっきり簡単に同意が得られるかと思った。

 ここまで夫人がかたくなだとは。


 ぶっちゃけ、石鹸や手鏡をあげるくらいで、奴隷が付け上がるとは思えないんだよなぁ。何かいい方法はないか? マムニールを納得させるような……。


「あっ、そうだ」

「何か思いついたのかしら?」

「ええ、一つ提案がありまして」

「提案?」


 俺は夫人にある提案をした。


 それは農場内で通用する通貨の導入。仕事を終えたらその日の賃金が貰え、それで好きなものを購入できるという制度だ。お菓子や、アクセサリ、小物類を買うことができる。


 ご褒美を用意することで、奴隷たちはより一生懸命に仕事を頑張る。農場の生産性も増すと言うわけだ。


「なるほど……面白いわ。

 でも、その費用はどうするの?

 ご褒美を用意するとしたら、

 お店から購入するしかないわよねぇ。

 そんなお金、無いわよ」

「別に買ってくる必要なんてありません。

 作ればいいんですよ、作れば」

「……え?」


 俺はある提案を夫人にした。


「ここの奴隷を何人か貸してください。

 小物類の作り方を教えてくれる人がいますので、

 修行に出して技を身に着けさせるのです。

 一人前になったら、農場内に工房を作りましょう。

 作ったものは他の奴隷が購入できるようにします。

 勿論、農場の外の一般市民にも販売します。

 そうすれば……」

「新しい商売を始められますわね。

 いいわぁ……ユージさん。

 あなたからはお金の匂いがプンプンする。

 その勢いでもっと私を儲けさせて頂戴」


 土壇場で思いついた案だが、夫人は気に入ってくれたようだ。


 小物類の作り方を教えてくれる人とはイミテのこと。

 面倒くさがりの彼女でも、品物の作り方くらいは教えてくれるだろう。

 勿論、タダでと言うわけにはいかない。何かしら報酬が必要だな。


 その資金をマムニールが出すとは思えないので、イミテが利益を得られるようにしなければ。まぁ、ギルドでも作って色々試してみるか。なんとなく上手くいく気がしてきた。


「それでは……ご婦人」

「ええ、その提案に乗らせてもらうわ。

 下準備は全て任せるから、

 計画がまとまったら教えて頂戴」

「かしこまりました。

 その……シャミへの贈り物ですが……」

「今回は目をつむりましょう。

 ミィちゃんの教育のお礼という形なら、

 他の奴隷たちも納得するでしょうから」

「ありがとうございます!」


 これでシャミをがっかりさせずに済んだな。

 良かった、良かった。


「あの、ベルにもプレゼントが……」

「え?」


 ベルは俺の方を見る。

 表情は変わらないが、尻尾がぴーんと立っていた。


「彼女に渡してもよろしいですか?」

「ええ、構わないわ。

 ミィちゃんのお礼ですものね。

 シャミにだけ上げるのは不公平よね」


 夫人の許可が得られた。

 早速、手鏡をベルに手渡す。


「これは心ばかりのお礼だ。

 ミィの面倒を見てくれて感謝している。

 ありがとう」

「……これは?」


 紙に包まれた手鏡を不思議そうに眺めるベル。


「開けてみてくれ」

「……はい」


 ベルはゆっくりと紙を開け、中の手鏡を手に取った。

 不思議そうに何度か覗き込んでいたが、直ぐにそれが鏡だと気づく。

 すると……。


「……ありがとうございます」


 尻尾を高速でフリフリするベル。

 喜んでいるのが分かる。


「良かったわね、ベル」

「はい、奥様。お許し頂きありがとうございます」

「その調子でこれからも頑張って頂戴。

 ミィちゃんはユージさんからお預かりした、

 大切なお客様だからねぇ」


 マムニールはそう言って口元を隠し、くすくすと笑った。


「ベル、シャミを呼んできて頂戴」

「かしこまりました、奥様」


 ベルは会釈をして部屋から出て行った。


「それはそうと、ユージさん」

「なんでしょうか?」

「ちょっと、困ったことになったのよねぇ」

「困ったこと?」


 はてはて、一体なんでしょうか。

 嫌な予感しかしない。

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