46 さっそく装備していくかい?
カゴができた。
ゲブゲブが一時間でやってくれました。
結構な大きさで、気軽に持ち運びできるサイズではない。
しばらくはゲブゲブの所で預かってもらうことにした。
ずっと抱えて過ごしていたので、いなくなると逆に違和感がある。
軽く自分の子供みたいな感覚になっていた。
あれ、生物とは違うし、嬰児の形をした別の何かなんだけど、動くし、暖かいしで、愛着がわいてしまった。
ちょっと可愛いんだよね。
母性本能に目覚めたわけじゃないが、ずっと抱きかかえていたら、そりゃぁ情だって湧くだろう。あの子を処分するなんてとんでもない。
「では、頼んだぞ」
「任せてくだせぇ。
けどぉ、もし何かあったら……」
「分かっている。
もしもの時のことはサナトと相談しておく。
それを安全に管理する方法も、
彼女に頼んで調査している」
「へい、お願いしますね」
シロが暴走するんじゃないかと心配しているようだ。
その可能性は決してゼロではない。
そもそも、シロは何者なのか。
物食い虫とかいう魔物と特徴が酷似しているが、関連性は不明のまま。誰かが人工的に作った生命体なのか?
サナトは魔物を呼び出すための装置だと言っていた。シロの中にものすごい生き物が眠っているのか?
それとも……。
「ユージさん、ねぇ! ユージさん!」
「あ? うん? なんだ?」
ゲブゲブに声をかけられ我に返った。
「ユージさん、考えすぎですよ。
何から何まで一人で抱えようとして、
ずっと悩んでたんじゃないんですか?」
「いや……」
別に悩んでいたわけではない。
困ったらすぐに誰かに相談している。
けれども……。
考えすぎるのは良くないかもな。
落ち着いてどんと構えているのが一番だろう。
「そうだな……悩みすぎていたかもしれん」
「でしょう? 無理は禁物ですよ。
もう脳みそがないからって、
考えすぎたら何か別の物が摩耗して、
すっからかんになっちまいます。
くれぐれもご自愛を」
「心配かけてすまんな」
「へへへ、旦那に何かあったら俺が困るんで。
お互い様でさぁ」
笑いながら鼻の下を人差し指でさするゲブゲブ。
俺は良い理解者を持ったよ。
そろそろ夜になるのでミィの様子を見に行こうかとしたところ。
その前に、あるところへと寄った。
「失礼する」
「あ、ユージさーん。いらっしゃーい」
気の抜けた挨拶をするイミテ。
相変わらずのダルダル接客である。
「今日はどんな御用でー?」
「ちょっと品物を見せてもらおうと思ってな」
「どうぞ、好きなものを持って行って下さーい。
どうせユージさんの考えた品物ばっかりなんでー」
「店主のお前がそんなんでどうする?
きちんと接客しないとダメだぞ」
「はーい」
全然話を聞いてないな。まぁ、良いけどさ。
俺は適当に店内を見て回る。
テーブルの上に所せましと品物が並べられている。
主に女の子向けの小物がメイン。
こういう物を取り扱うのはイミテの店くらい。
なんで他の店が商品をパクらないか不思議だ。
「今日は何人くらい客が来たんだ?」
「5人ですねー」
「売れたのは?」
「7点ですねー」
客の入りは悪いが、購入率は悪くない。
単純に知名度が足りなさすぎるのが問題か?
「今度、ビラでも配るか?」
「え? 普通に嫌なんですけど⁉」
すげー嫌そうな顔で言うイミテ。
ゴキブリを生足で踏みつけたような顔をしている。
「なんで?」
「繁盛なんてしたら死んじゃいます。
絶対に止めて下さい、絶対ですからね」
真顔になってきつい口調で言うイミテ。
仕事が忙しくなるのは嫌なんだな。
この子は実力があるのだが、できるだけ楽をしたい性格なので、商売繁盛とかは考えていないらしい。
俺が欲しい品は確実に用意してくれるので、無理強いするのはやめた方が良いだろう。
「すまん……悪かったよ」
「別に、分かってくれればいいんですー」
直ぐに素の状態のイミテに戻った。
この子は本当に儲ける気がないらしい。
「それで、持って行く品物は決まったんですかー?」
「あ、いや……まだ選んでない」
「ゆっくり選んで行ってくださいねー。
どれにするか決まったら教えてー」
イミテはカウンターに頬杖を突き、ダウナーな声を出す。
本当にマイペースな子だな。
俺がこの店に寄ったのは、ベルとシャミにお礼をするためだ。
ミィはこの店の品物を気に入ってくれた。ケモミミハーフの彼女たちであれば、感性も人間と似ているだろう。きっと気に入ってくれるはず。
しかし……何を持って行くか迷うな。
品ぞろえは豊富なので迷ってしまう。
「なぁ、イミテが貰って嬉しい物ってなんだ?」
「ええぇー? しいて言うならぁ、金とか土地?」
「ああ、うん……そう言うのじゃなくてさぁ」
「あとわぁ、お金持ちの彼氏とか?」
この子に聞いたのが間違いだったな。
イミテはセンスとか、ものづくりの腕とか、人に誇れるものを持っているのに、性格が全てを台無しにしている。
職人気質な性格に生まれていたら、小物づくりで天下を取れていただろうに。
もったいない。
「誰かにプレゼントでもするんですかー?」
「ああ、女の子にね」
「じゃぁ、手鏡とかどうですー?
あとはシャンプーとか石鹸とかー」
「おおっ、なるほど」
イミテに言われた通り、手鏡と石鹸を買うことにした。
手鏡はベルに、石鹸はシャミにプレゼントしよう。
一応、マムニールに断りをいれないとな。
あの人に無許可で勝手なことをして、後で怒られたらかなわん。
まぁ、多分大丈夫だろうけど。
「この二つを貰って行くぞ、いいか?」
「ごじゆうにー。あっ、そうだー」
「なんだ?」
「これも、どうぞー」
イミテはゴソゴソと棚をいじって、ある物を取り出した。
それは……。
「え? これは?」
「いいでしょぉ、自信作でーす」
珍しくどや顔でそう言うイミテ。
彼女がくれたのはマフラーだった。
緑と黒のしま模様のやつ。
「え? これって?」
「私が作ったんですー。
ユージさんって骨じゃないですかぁ。
だから寒いとおもってー」
え? どういう理屈?
人間だったころは寒さや暑さに敏感だったが、今は気温差による苦痛は一切感じなくなった。スケルトンが寒さを気にするなんて変だろう。
彼女はそう思わなかったのか?
「そっ、そうか……ありがとう」
「あんまり嬉しそうじゃないですねー」
「いや、そんなことはないぞ!
ありがたく頂戴する」
「早速、装備して行ってみますかぁ?」
「うっ、うむ……」
「はいどうぞー。わー、似合う、似合うー」
イミテは俺の首にマフラーをつけてくれた。
本当に似合ってると思ってるのか?
棒読み加減が酷いぞ。
「これでもう、寒くても平気ですねー」
「うっ……うん」
「あっ、そうだ。
スカーフとかもあるんですよー。
こっちも装備していきますかぁ?」
「いや、結構だ」
また首に巻くやつ……この子、俺をからかって遊んでるのか?
「ありがとう、このマフラー大切にするよ」
「喜んでもらえたようでなによりー」
まったりとした笑顔を浮かべるイミテ。
この子とは長い付き合いになるのだが、未だにキャラがつかみ切れていない。なに考えてるのか分かんねぇんだよなぁ。
なんで骸骨の俺にマフラーなんかプレゼントした?
意味が分かんねぇ。
でもまぁ、貰っておこう。頑張って作ってくれたことに、変わりはない。とりあえず身に着けるのは今度で良いかな。荷物としてしまっておく。
「なんだぁ、つけないんだぁー」
イミテが寂しそうに言った。