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「これってもしかして……。

 物食い虫じゃないですか?」

「物食い虫ぃ?」


 聞きなれない言葉に思わず眉をひそめる。

 ……眉毛なんてないけど。


「ええ、物体を喰らって体内に取り込み、

 同化して身を隠す魔物の一種ですよ」

「え? 魔物? これは人間の嬰児だぞ」

「は? それのどこが人間?」


 確かに見た目は白い塊だからな。

 人間の赤ちゃんだと言っても信じられないだろう。


「俺が抱えているから大人しくしているだけで、

 他の物体の上に置くと元の姿に戻るのだ。

 何かいらないものとかないか?」

「では、このぼろ布を……」


 俺はゲブゲブが用意してくれた布の上に、骨の塊になった嬰児を置く。

 すると、覆っていた殻にひびが入り、崩壊して中から嬰児が現れた。


「え? 赤ちゃん!? 本当にぃ?」

「だから言っただろう」

「でもぉ、あの感じはどう考えても物食い虫でぇ。

 ええ? 絶対におかしい、変ですぜ、こんなの」


 ゲブゲブは様々な方向から嬰児を覗き込む。


「お前はその虫に詳しいのか?」

「ええ、ガキの頃に捕まえて遊んでたんで。

 あんなふうにものを取り込んで殻をつくるのは、

 どこを探しても物食い虫だけでさぁ」


 ゲブゲブはその魔物についてよく知っているようだ。

 詳しく話を聞いてみよう。


 物食い虫とは、人里離れた山の中に生息する魔物。本来は蜘蛛のような形をしていて、足が何本もあると言う。

 大きさは手のひらに乗るくらい。

 虫っぽい見た目だが、分類的には魔物になるらしい。


 人を襲ったりはせずに、石ころや木くずなんかを食べて生きている。食べた物と同化して目立たない場所で動かなくなり、別の物体に触れると再び活動しだす。

 なんとも不思議な生態をしている生き物だ。


 ゲブゲブは子供の時に何匹か飼っていた。

 色んな物を食べさせて遊んでいたという。


 しかし、大人に見つかり大目玉。

 虫は殺されてしまった。


 物食い虫は手当たり次第に物を食べるので、下手をしたら金品や貴重品の類が被害にあう。また、食糧庫なんかに紛れ込んでしまったら、同化して見分けがつかなくなってしまい、根こそぎ食い尽くされてしまうとか。


 人間からしたらとんでもない害虫だ。

 面白半分で飼うような生き物ではない。


「話を聞く限り、ただの害虫という感じだな」

「ええ、まぁ……。

 でも、時たま大きくなる個体がいて、

 町なんかに来たら大変だってんで、

 冒険者たちに討伐依頼が出されてましたねぇ」


 確かに、これのデカいのに街が襲われたら大変だなぁ。


 などと呑気に考えているが、この嬰児が巨大化して暴れたりしたら、ゼノはたちまち壊滅してしまう。


「冒険者はどうやって戦うのだ?」

「武器は食われちまうんで役に立たない上に、

 魔法も一部しか効果がないらしいです」

「効果があるのは?」

「闇属性の魔法……ですかねぇ。

 あれって確か、物体を侵食する力でしょ?

 闇で飲み込んで殺すしかないらしいです。

 俺が飼ってたやつも、闇魔術師に殺させたとか」

「ふむ……」


 闇魔法……ねぇ。

 そんなの使えるの人間でも限られていると思うけど。


 闇魔法って言ったらリッチだな。

 あいつらは闇魔法のスペシャリストだ。


 リッチは自ら肉体を不死化した魔術師。誰が好き好んでアンデッドになんか……と思うが、これが意外と多かったりするんだよね。

 人間の中には研究に没頭するあまり、他のことが見えなくなる奴が一定数いる。そう言う奴が研究を続けるために、あえて肉体を不死化する場合があるのだ。


 禁止された術を使い、肉体を転身させてリッチになるわけだが、割りと難易度が高い上にリスクもある。

 失敗するとゾンビ化して自我を失い、歩き回るだけの死体になってしまう。

 失敗のペナルティにしてはかなり重い。


「闇魔術師なんてこの国にいたかなぁ。

 リッチなんてほとんど見かけないし」

「今のうちに呼んで来た方がいいんじゃ?」

「つってもなぁ……」


 俺はアンデッドの身でありながら、死者の国であるイスレイとはなんのコネもない。リッチの知り合いなんて一人もいないので、頼りようがないぞ。


「闇魔法なら魔女も使えねーっすかね?」

「ううん……」


 サナトに頼めばなんとかしてくれなくもないだろう。

 彼女にはコイツを駆除する力があるはずだ。


 けど……。


「今すぐ殺すのはなぁ……」

「気が引けますかい?」

「ううん……」


 見てくれはただの赤ん坊なんだよな。

 殺すのにかなりの抵抗を感じる。


 アンデッドになったからとは言え元は人間。

 俺は人の心を捨てきれないでいる。

 あっさりと見捨てる気にはなれない。


「ちなみにぃ……巨大化したらどうなるんだ?」

「あっしは実物を見たことがないので、

 なんともいいかねるのですが……。

 何もかも飲み込みながら移動するらしいです」

「へぇ、それってやべぇな」


 手元にある赤ん坊もどきが、そんな風になるとはとても思えない。実際にそうなったら恐ろしい。

 今のうちに駆除するのがベストなんだろうが……もう少し様子を見よう。


「まだ……手放す気にはなれませんかい?」

「うぅっ……うむ」

「まぁ、好きにしたらいいでさぁ。

 どんな結果になったとしても後悔しなければ、

 それで良いんじゃないですかねぇ」


 どんな結果になっても……か。

 今すぐに処分したとしても、それはそれで後悔するはずだ。

 どうせ後悔するのなら俺が選びたい方を選ぶ。


 この子は殺さない。


「そう言えば……名前は決めたんですか?」

「名前? ううん、まだ考えていないな」


 そもそも名前を付けるなんて考えもしなかった。

 どんな名前が良いだろうか?


「そうだなぁ……シロとかどうだろうか?」

「え? シロ?

 もしかして骨と同化して白くなってるから?」

「ああ、そうだが、何か問題が?」

「いえ、ユージさんがそれでいいなら……」

「安直な名前だなと思っただろう?」

「へぃ、思いました」


 正直な奴だ。確かに安直だとは思う。


 名前を付けたことで愛着が持てるかもしれない。

 今までずっと嬰児と呼称していたからな。


 今日からコイツの名前はシロ。

 真っ白いからシロ。


 もう決めたのだ。

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