44 改造スケルトン
それから、ムゥリエンナと反省会をした。
彼女は卵で仲良くなることにこだわったが、なんとか説得して諦めさせた。
俺的には本から得られた彼女の豊富な知識をもとに、幹部たちとの会話を盛り上げてもらいたかった。だが、ムゥリエンナ的には、会話で相手の心をつかむのはハードルが高かったらしい。
俺の期待に応えようと必死に頑張った結果、妙な方向へと突っ切ってしまった。もう少しちゃんと話をしておくべきだったな。
仕事がまだ残っているのだが、特別にムゥリエンナと時間を作った。彼女に余計な仕事を振ったのは俺なので、きちんと面倒を見てやらねばならん。
とりあえず、今後の方針について話し合った。
急がなくて良いから、少しずつ幹部たちと接点を持って、関係を深めていくこと。特別なことはしなくて良いので、先ずは挨拶から。顔を覚えてもらったら図書館へと誘い、本を勧めて様子を見る。
仲良くなったら愚痴なんかを聞いてやる。にこやかにほほ笑んで頷いているだけでいい。特別な贈り物とかは必要ない。
このように方向性を示してやると、ムゥリエンナはすんなりと俺のアドバイスを受け入れた。
卵にこだわっていたのは、方向性が明確でなかった為に、進む方向を誤って暴走しただけ。自分に出来る最大のおもてなしを考えた結果だと言う。
ううむ……軽いノリで頼んでしまった結果、彼女を困らせてしまったな。
これでは典型的なダメ上司じゃないか。
反省しよう。
「と言うことだ。
焦らずじっくりと話しかけて関係を作ってくれ」
「もし、本の話題に乗ってこなかったらどうしましょう?」
「そう言う場合はさっさと見切って次へ行け。
ムゥリエンナの土俵に上がってきた奴だけを相手にしろ」
「どひょう?」
「ええっと……自分のテリトリーって意味だ」
「なるほど」
ついつい、前世の言葉が出てしまう。
土俵なんて言っても、誰もピンと来ない。
ふと思ったのだが……この国で相撲を流行らせたら面白そうだな。獣人やオークなんてぴったりじゃないか。まわし姿も似合いそうだ。
「と言うことだ。あまり無理はするな。
変に考えすぎなくてもいい。
お前に出来ることをやればいいのだ」
「そう言うことでしたら……私にも出来そうです。
もう少し、頑張ってみますね」
「うむ」
ムゥリエンナは頑張り屋さんだ。
頑張りすぎて方向性を見誤るのが玉に瑕。
初めて図書館の管理者の仕事を任せた時も、一人で全ての本の管理をしようとして大変だった。俺が彼女のスケジュールの調整をするまで、寝食を忘れて仕事に取り組むありさま。
仕事的にはかなり助かったのだが、放っておいたら身体が持たなかっただろう。
他にも、街で見かけた本を卵と交換しようとしたり、断りもなく他国へ一人で遠征しようとしたりと、ちょいちょい様子を見ないと暴走する。
図書館にいる間は大人しいんだけどね。
よそに置いてある本を見ると我慢できず、なんとしてでも手に入れようとするのだ。
「くれぐれも頑張りすぎるなよ。
俺との約束だ」
「はい、約束ですね!」
「じゃぁ、俺はこれで……」
「あのよろしかったら……」
そう言って卵を差し出すムゥリエンナ。
だからそれはもういいってば!
それから俺は雑務を一通りこなした後、ゲブゲブの所へと向かった。
俺はずっと嬰児を抱えっぱなしで、そろそろ解放されたいと思っていた。
これを保管する為に骨のカゴを作ってもらう必要がある。
「ということで、頼む」
「はいはい、分かりましたよぉ」
ゲブゲブは二つ返事で引き受けてくれた。
「無茶なことを急に頼んですまんな」
「いいんですよ、どうせ暇だし。
あっ、そう言えば特別に作った身体があって。
ユージさんに見てもらおうと思ったんですよ」
「え? 特別?」
なんじゃそりゃ?
想像もつかないが……いちおう見てみるか。
俺はゲブゲブに案内され、奥の部屋に。
そこには数体の白骨死体が立った状態で並べられていた。
「まずはコレ、改造君一号」
「改造君?」
「色んな機能を備えた白骨死体ですよ。
なんとこれ、腕が飛ばせるんです」
「へぇ……」
腕が飛ばせるって……それ、何か意味あるの?
「飛ばせるって、どんなふうに?」
「ほら、こんな風に……」
ゲブゲブは白骨死体の腕を前へと伸ばし、スイッチみたいなものを押す。
すると……。
ぽふぅ。
腕が飛んだ。地面に落ちた。
……だからどうした?
「これが……どうしたと言うのだ?」
「カッコいいでしょう? 骨パンチです」
「あっ、うん……」
「それからですねぇ」
え? まだあるの?
「ここをこうしてこうすると……」
「次はどうなるんだ?」
「変形するんですよ、変形」
「なんだと?」
変形するって……骨が? どう変わろうと骨は骨だと思うぞ。
「さぁ、見ていて下さい!
これがあっしの最高傑作っっっ!」
なんということでしょう。
ただの白骨死体だったものが、前衛的ビジュアルのオブジェクトへ様変わり。
良く分からないが、バラバラになった骨は見えない何かで接合し、一本の長い紐のようになった。それがとぐろを巻いた蛇のようになっている。
ゲブゲブはこれをカッコいいと思ったらしい。
「どうしてこんなものを作った、言え」
「こうすれば敵に巻き付いて、
足止めが出来て便利でしょう」
「どうやって元に戻るんだ?」
「戻りませんよ」
え?
「戻りませんよ」
ゲブゲブは真顔で言う。
「なんで?」
「なんでって、戻らなくてもユージさんは平気でしょ?」
「確かに代わりの身体を見つければ平気だが……」
「ご安心ください。予備なら捨てるほど用意してあります。
骨パンチもグルグル渦巻きボーンも使い放題です」
「え? グルグル?」
「この技の名前です」
すんげーダサいな。もっと他にいい技の名前はなかったのか?
まぁ、こんな下らない技に技名があっても意味ないか。
どうせ一回も使わないで終わるだろうし。
「まっ、まぁ……よく考えたではないか。
褒めてやろう」
「別に褒めてもらわなくても構いませんぜ。
どうせ下らないことをとか思ってるんでしょ?
顔に出てますよぉ」
表情筋が一切ないこの俺の顔から、どう表情を読み取ると言うのだ。
まったく、面白い奴め。下らない冗談を。
「それはそうと、カゴは早めに頼む」
「かまいませんが、大きさはどうしましょう?」
「これが入るくらいの奴で頼む」
俺は抱えている嬰児を持ち上げて言う。
「へぇ、それは?」
「良く分からんが、
物体を飲み込んで別の物に擬態するらしい。
勝手に動き回って危ないので、
閉じ込めておくものが必要なのだ。
それと、出来るだけ頑丈に頼む。
意外と力が強いのでな」
「へぇ……」
物珍しそうに嬰児を眺めるゲブゲブ。
そして……。
「あっ、これってもしかして……」
「え?」
意外なことに、ゲブゲブはその正体を知っていたのだ。