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41 退屈させないお仕事

 ベルと二人っきりになった俺はミィの様子について尋ねてみることにした。


「ベルよ、君の本音を聞かせてくれないか?

 ミィについてはどう思う?」

「どうと聞かれても……。

 プライドが人一倍高くて、協調性が皆無で、

 素直に言うことを聞かない堅物としか、

 言いようがありません」


 ずけずけと本音を吐露するベル。ひでぇ言いようだな。


「そうか……苦労をかけてすまないな」

「ひとつ、誤解があるようなので訂正しますね。

 私は彼女と関わることを負担だとは思っていません。

 むしろやりがいがある仕事だと思っています」


 意外な答えだった。


「本当にそうなのか?」

「ええ、嘘ではありません。

 実際ここまで手を焼かせてくれたのは彼女だけ。

 初めてですよ、この私をここまで退屈させないお仕事は」

「うっ、ううむ……」


 良いことなんだか、悪いことなんだか。

 ベルはミィとの関係を、それほど嫌がっているようには見えない。


「本当ならシャミに交代する予定でしたけど、

 教育係を継続させて頂くことにしました。

 マムニールさまも同意しています」

「……そうか」


 ベルは本気で教育するつもりのようだ。


 ミィも素直になってくれないだろうか。

 彼女が真剣に向き合おうとしているのだから、その期待に応えてしかるべきだ。


「苦労をかけてすまないな。

 これはほんのお詫びの印だ。

 受け取ってくれ」

「……これは?」


 俺はミィが受け取りを拒否したお菓子を差し出す。


 他の人に渡そうとしたものをプレゼントするなんて、人としてどうかと思うが仕方ない。俺は食べられないので誰かにあげるのが一番。捨てるのはもったいない。


「あまいお菓子だ。皆で分けてくれ」

「はぁ……」

「試しに一つ、食べてみたらどうだ?」

「そう言うのでしたら……」


 袋を受け取って口を開き、菓子を一つつまんで口に放り込むベル。

 すると……。


「…………」


 無表情のままボリボリと咀嚼そしゃくするベル。

 気に入らなかったのかな?


「あっ、え……美味しくなかった?」

「いいえ、とてもおいしかったです」


 そう答える彼女は相変わらず無表情のまま。

 しかし……。


 彼女のしっぽが高速で横に触れている。

 犬と同じように嬉しいとそうなるのなら、彼女の口に合ったようだ。


「あの……本当に頂いてよろしいのですか?

 あっ、でも……勝手に受け取ったら……。

 でも……やっぱり、その……」

「安心しろ、マムニールにはヒミツにしてやる。

 皆でこっそり食べるんだぞ」

「はい、ありがとうございます」


 目を輝かせて礼を言うベル。

 彼女は菓子の袋を手に戻って行った。


 よほど気に入ったらしく、鼻歌を口ずさんでいる。

 独特なメロディで妙に記憶に残る。


 ミィの教育係を彼女に丸投げして、なんとなく申し訳ない気分だったからな。これでその埋め合わせが出来たのなら幸いだ。ノインが一生懸命に作ってくれたお菓子も、無駄にならずに済んでよかったぞ。


 初めはクールでとっつきにくい印象だったが、お菓子のお陰でそのイメージはだいぶ崩れた。彼女に任せれば大丈夫だろう。

 しっかりと仕事を覚えて、他の奴隷たちとも仲良くできるはず。


 ……だと良いんだがな。






 魔王城へ戻った俺は中庭で嬰児の実験をすることにした。

 元の状態へ戻すにはどうすれば良いか調べるのだ。


 手に取ることで元の赤ん坊に戻せたので、異なる性質の物質が触れたら自然と擬態が解除されるのかもしれない。

 そう思って石の上に乗せてみると……ビンゴ。再び元の状態に戻った。


 なるほど、そう言うことなら安心だ。骨に擬態させた状態で俺が抱えていれば、他の物を吸収しなくて済むわけだ。


 実験も済んだし暇になった。

 どうせなら明日の準備でもするかな。


 明日はまた幹部会が行われる。兵糧の件は気づいていないふりをしよう。クロコドは目論見通りにいっていると誤解し、対策を取らずに自滅してくれるはず。

 魔王からはすでにサインをもらっているので、このまま放っておけば東ルート案が通る。


 そろそろ他の幹部に根回しをしておくべきか。

 弱みを握るとか、忖度するとかして、俺の意見に賛同するよう促すのだ。東ルート案を確実にする為にも根回しは大事。


 幹部会に参加しているのは俺と魔王とクロコドを除いて7人。


 うち二人はクロコドから距離を置いている。先ずはこの人たちから懐柔して、徐々に会議での発言権を強めていこう。

 そうすりゃ、なんでも好きな意見を通せる。


 とりあえず情報を集めないといけない。幹部たちの個人情報を収集し、彼らの内情を探るのだ。


 さーて、誰にお願いしようかなぁ。内部情報に詳しい仲間がいればいいのだが……あいにく、そう言う駒は持ち合わせていない。


 うーむ……そうだ、彼女にお願いしよう。






 朝。


「あら、おはようございます」


 ムゥリエンナは図書館で開館の準備をしていた。


「おはよう、朝早くから悪いんだが、

 ちょっと話があるんだ」

「え? なんですか?」

「実は……」


 俺は彼女に情報収集の協力を依頼。


「ええっ、なんで私なんですか?

 もっと別にふさわしい人がいるんじゃ……」


 思った通りの反応だった。俺もそう思う。


 しかし、他に頼れる人がいない。

 サナトもフェルも忙しいし、エイネリは士官学校で手一杯。手が空いているのは彼女くらいなのだ。


「頼むよ、ムゥリエンナ。

 どうしてもお願いしたいんだよ。

 ダメかな?」

「ダメではないですけど……」

「今度、新しい本を仕入れる時は、

 一緒に連れて行ってあげるからぁ」

「本当ですかぁ?」


 疑い深い目で俺を見るムゥリエンナ。


「ああ、本当だ」

「じゃぁ、いいですけど……」


 餌で釣っていやいやって感じだな。

 進んでやろうって気にはなってないようだ。


「で、具体的には何をすれば?」

「今から言う幹部の名前を憶えて、

 ちょくちょく話しかけてみてくれ。

 んで、趣味とか、好みとかを聞き出して、

 俺に教えてくれるだけでいい」

「え? そんなことでいいんですか?」


 ぶっちゃけ、プロの情報屋でもない彼女に、ハードルの高い指令を出すことはできない。立ち話をして仲良くなって、相手の嗜好を探るだけで精いっぱいだろう。


 実は未だに、他の幹部との関係を築けていない。


 俺がやりたい放題やれているのは、魔王との関係が良好だからだ。彼にサインをもらい、他の幹部を納得させ、円滑に仕事を進められる。

 面倒な仕事を全て引き受けて来た俺は、魔王からの信頼も絶大。

 誰も俺に口出しできない。


 しかし、完全なる権力の掌握はできておらず、幹部連中の言い分を突っぱねることは不可能。アルタニル侵攻を思いとどまらせようとしても、俺には無理だった。


 せめて戦争の方針くらいには口を出しておきたい。

 その為にも幹部とのコネづくりは急務。


 使える手はなんでも使う。残された時間はあとわずか。

 開戦の時は刻々と迫っている。


「ああ、頼んだぞ」

「分かりました、頑張ってみます」


 ムゥリエンナは胸の前で両手をグーにする。

 かわいい。

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